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5話 魔法の練習①


「魔法? でも、魔法には杖がないと……」


 私のお誘いに、トライは困惑した表情をした。


 そうだね、一般的には、魔法の行使には仲介物質がないといけない。要するに杖だ。


 魔法を行使するためには、集中して自分の魔力を仲介物質に集めて、呪文によって仲介物質の魔力を変化させて放つ必要がある。つまり、「集中力」と「仲介物質」と「呪文」が必要だ。

 さらに、呪文はただ言葉を唱えれば良いわけじゃなくて、魔法書を読んで呪文を習得しないといけない。読んだからと言って誰しも習得できるわけじゃないけれどね。私みたいに!


 で、この杖なのだけれど、とっても高価。今の私たちに手が届くものじゃない。


 ここで一周目の私の知識が助けてくれる。


 実は、仲介物質って必ずしも杖じゃなくてもいい。遠方の国では生贄を仲介物質にして儀式として魔法を使うこともあるそうだ。またある国では宝飾品を、ある地域では楽器を演奏して魔法を使ったらしい。


 杖が一般的なのは、それが一番長持ちするし使うのが簡単だからだと思われる。杖ってユニコーンの角とかマーナガルムの牙とか素材が高価で、ひとつひとつ職人が手作りするんだよ。だから一生使えるのだ。使い方も指し示すだけ。

 それに比べて、生贄って一度の魔法行使に一つ消費しちゃうらしいし、楽器も杖よりは使うのが大変って本に書いてあった。

 あと、杖を持っていると一目で魔法使いって分かりやすいからというのもあるかも。宝飾品と違って。


 そして、クズ魔石でも魔法は使えるとも書いてあった。消耗は早いし、大きな魔法には耐えられないらしいけどね。


「トライ、どんな魔法が使える?」

「えっと、」


 一応聞いたけれど、実はステータスを見れば分かる。



 トライティンガー・スティーク・ディ・ウィノ・デミリドロトント

 レベル11

 HP 37/48(-11) MP 53/53

 自然6/S+

 補助0/S

 防御0/S

 回復0/S

 精神0/S

 召喚0/S

 特殊0/--


 使用魔法 ファイヤ、ファイヤーボール、エクスプロージョン



 うーん、自然魔法の炎系統ばっかりだな。


 聞いたところ、トライも以前は冒険者だったらしい。しかも一周目の私とは違って、雑用じゃなく戦闘するような依頼をこなしてきた人だ。威力を重視するのは当然か。


「ファイヤと、ファイヤーボールと、エクスプロージョンが使える」

「その中だと、クズ魔石で使えるのはファイヤかな」


 ギリギリファイヤーボールも使えるかもしれないけれど、こんな部屋の中で使える魔法ではないからやっぱりファイヤ一択。


 私は上体を起こしたトライの手にころんと小さくて濁った石を落として、握らせた。


「火の魔法は危ないから、制御に気をつけて。手の中で小さくファイヤを維持できる?」

「維持?」

「うん。長く出しっぱなしにしておくの。炎を大きくしても小さくしてもダメ」

「で、できると思うが、なんの意味があるんだ?」

「熟練度が上がる」

「熟練度?」


 微々たるものだけれど。


 魔法の練習方法って、一般的には実戦でバンバン魔法を使わないと上がらないと言われている。でも実は、知る人ぞ知る魔法使いの中には、実戦を経ずにひたすら普段から遊び続けていたら強くなっていた人もいたみたい。


 だから多分、少しずつでも使っていたら上がると思うんだよね、熟練度が。


 ちなみに、私のお願いが魔法使いにとっては大層集中力を必要とする難しい作業だということを、魔法が使えない私は知らなかった。


【ファイヤ】


 トライが小さく呪文を唱えると、ぼうっと小さな炎がトライの手の中に現れた。蝋燭の炎みたいに、それはゆらゆらと揺れている。


 しかし。


「ぁっち!」

「わ、ごめん」


 炎なんだから当然熱い。手の中に炎を出すのはやめた方がいい。うわ、なんでこんな簡単なことが分からないんだ、私。


「ごめん、お水もらってくるね」

「ああ、大丈夫だ。要は、火傷しない程度に手から離して出せばいいのだろう?」


 トライはもう一度【ファイヤ】と唱える。


 今度は空中にぼうっと小さな炎が現れた。


「しかし、君の言う通りクズ魔石でも魔法が使えたな。こんなことをどこで知ったんだ?」

「本で読んだ」

「孤児院に本があるのか?」

「ううん。図書館とか?」


 本当は、一周目で旦那様に何冊か本を買ってもらったり、休暇で魔法都市の都立図書館へ行ったりしたんだけれど……。

 孤児院の子供にそんなことができるはずもないので、黙っておく。


 トライは深く追求はしなかった。


 というよりも、わりとすぐに炎の維持に必死になった。ゴールドレッドの目をジッと据えて、呼吸すら詰めてトライは集中している。


 ゆらゆらと空中で小さな炎が揺れていた。それが、随分と長いこと続いた。


「……」

「……」


 私は飽きもせずにそんなトライを眺めている。すごい集中力だ。少しでも私が動いたら集中を乱してしまいそう。邪魔をするのは憚られる。


 それに、魔法を使っているトライは綺麗だ。赤い炎の光が瞳に反射して、チリチリと輝いていた。透明なのに濃い赤だ。宝石みたい。


「……ぁ、」


 やがて、ぱきんとクズ魔石が割れる。それはさらさらとただの砂になった。


 仲介物質を失って、炎が消える。


 私は口の中で呪文を呟いて、もう一度トライのステータスを見てみた。



 トライティンガー・スティーク・ディ・ウィノ・デミリドロトント

 レベル11

 HP 37/48(-11) MP 51/53

 自然7/S+ [up!]

 補助0/S

 防御0/S

 回復0/S

 精神0/S

 召喚0/S

 特殊0/--



 自然魔法の熟練度が、ひとつだけ上がっている。まだ熟練度が低いから上がりやすいのか、効果的な練習方法だったのか。

 炎を出していた時間は決して短くなかったけれど、一日に満たない時間で熟練度がひとつ上がるのは、結構ハイペースだと思う。


「っぜえ、はあ、はーー」

「トライ、大丈夫?」

「も、もちろん俺は天才大魔法使いになる男だ! 余裕だとも!」

「じゃあ、もしもまたクズ魔石が手に入ったら、またやろう」

「ん゛」


 トライは一瞬変な声を上げたが、「ふ、ふふふ、やりがいがある……!」と元気そうだった。



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