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魔法を諦めたやり直しモブ少女、死んじゃう予定の大魔法使いを救う  作者: 京々
2章 助けてあげる、妹ちゃん

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28話 レオの召喚魔法講座③


「というわけで、呪文覚えました!」

「僕も、なんでも送還できるよ」


 そう時間をかけずに、トライは召喚魔法の基本の呪文を覚えた。

 レオは特に準備はなさそうだけれど、杖を持ってニッコリと笑ってくれる。


 レオたちの宿の庭、開けた場所で私たちは向かい合っていた。


「じゃあ召喚するぞ」


 トライが緊張した面持ちで魔石を握りしめる。


 ちなみに、「え、杖じゃなくて魔石で魔法を使うの?」という問答はもうやった後だ。レオは「緊急避難技として使える……いや杖が折れるような事態があったらもう死んでるか」と呟いていた。


 なお、レオの杖は、これまた一周目において伝説的な逸話を持つ杖だったりする。つまり、これから伝説になる。

 幼い頃に彼が一度だけ会ったドラゴンに譲られた羽根を使用しているのだ。翼を持つドラゴンといえば数少なく、中でもレオが羽根をもらったのは光竜と言われる伝説的なドラゴンで、その杖は逆境で殊更強く力を発揮したらしい。


 そこまで特別かつ思い入れのある素材を使用すると、杖自身が力を持ち、持ち主を選ぶ。レオ以外には使えない無二の杖だ。伝説ですよ。


 ……こほん。失礼しました。


 トライが腕を大きくかざして、呪文を唱えた。


【サモン】


 異界の光と言われる遊色の光が広がる。その光の隙間から、ぬるりと何かが現れた。


『──』


 現れたのは、濡れた何か。

 ずるりと引きずられるように光から這い出してきたそれは、多分体のどこか一部でしかないのだろう。私には、それがちょうど蛹から出てくる瞬間のくしゃくしゃに濡れた蝶の羽のように見えた。


 ただ、なんか、不気味だ。


 しかもおそらく本当に巨大な体の一部だけが覗いている、みたいな感じなのだ。濡れた何かは私の体ほどに大きく、闇を纏うようにその全貌がようとして知れない。


「……っ」

「……!」


 レオとトライも、それを見てどこか身構えている。レオはいつもの朗らかさを捨てた険しい顔で杖を突きつけ、いつでも送還できるように息を潜めていた。


 ひたりと、水気が地面に落ちる。


 その水気がジュ、と土を焼いた。


 そこが限度だ。


【アンサモン】


 レオが呪文を叫ぶ。

 途端に遊色の光が揺らめきながらその形を潜め、しゅるしゅると小さくなった。濡れた何かも光に覆われて薄まってゆく。


 ふっと光が消えた。そこに残るのは焼けた土とそれを囲む私たちだけ。


 全員で、そっと顔を見合わせる。


 いや、なんだったんだ……。なんかヤバそうということしかわからなかった。トライは一体何を召喚してしまったのか。


 当のトライが、多分一番びっくりしている。

 ドッとトライが尻餅をついて、若干震えた声を出した。


「レ、レオ、話が違う……」

「ご、ごめん。あれ、おかしいな……先生も言ってたのに……もしかしてトライくんってよっぽど運が悪かったりする?」

「……」


 流れる微妙な空気。

 レオが「なんかまずいこと聞いたな」と察知する気配。

 そして私は何もコメントできない。


「い、いや、そんなはずはないな! そんなはずはない! ミューに会えたし、俺は結構強運だと思う! それこそ、いざという時の運はかなり強い!」

「……」


 頑張って強がるトライを、私はなんとも言えない目で見るしかなかった。


 私からするとトライは運が悪いと思う。


 生まれた家で虐待されていたこととか、せっかく冒険者になったのに奴隷に落とされたこととか、なんなら本来は奴隷の扱いが悪い冒険者に買われて、最後には盗賊の拠点で拷問されたこととか……「いざという時」になりすぎている。私と会った後も結局盗賊に遭ったり……あれは私の気配り不足だけど。


 トライって、才能とか生まれとかだけ見るならレオと非常に似ている。レオと同じかそれよりもいい環境からスタートしてもおかしくないと思うのに。なんか、自分ではどうにもならないところの恵まれ度合いが、なんかこう。


 トライが「ミュー、なんでそんな目で見るんだ?」とちょっと悲しそうな顔をした。




 ***




「確かにミューちゃんの言う通り、トライくんの召喚魔法は監督者がいる時に少しずつやった方がいいね。もちろん僕がいる時なら遠慮なく声をかけて」


 召喚魔法を終えた後で、レオが笑ってそう言った。


 ま、眩しい。好青年すぎる。そして助かりすぎる。


 さっきのやつは、ちょっとヤバかったと思う。あのまま何もできずにサモンの魔法で引っ張り出していたら、なんか、ヤバそう。

 レオに一緒にいてもらって良かった。本当に。ああいうことがあるから、召喚魔法の練習には監督者が必要なんだなぁ。


 レオが「あ、そうだ」と笑った。


「この町にはないけれど、二人にはぜひ魔法使い協会支部に行ってみてほしいな!」

「ん、なんで?」

「トライくん、もう自然魔法なら星が取れるんじゃないか?」

「ああ」


 私はレオの言わんとすることを理解して頷く。


 魔法使い協会には、魔法使いの認定制度がある。その人がどれだけ優れた魔法使いかを保証する資格。要するに、冒険者ギルドのランクみたいなものだ。星1から始まって、星6が最高。


 とはいえ星6は、一年に一度開かれる魔法使いのお祭り、その中で開催される大賢試練を突破しないと授与されない。最高位の称号だ。

 しかも、星6は魔法ごと、一代にたったの一人だけ。例えば自然魔法の大賢試練に突破した者が星6を授与された時、前代の星6は星を一つ剥奪される。つまり星5に戻る。


 よって星6は一代に七人しかいない。七種類の魔法の数の席しか用意されない。空席がある代も珍しくない。すごい称号なのだ。


 まあ一周目の未来のレオはその称号も取るんだけどね!


 ちょっと違うけど、知名度で言ったら冒険者のランクの精霊銀(ミスリル)ランクみたいなものだよ。

 あれも一定の成果を上げて、複数の国の王の同意を得てギルドから授与されないとなれないランクだから。こっちは代替わりはしないけど絶対数が少なすぎる。


 国に数人から十数人しかいない貴重な人材。

 個人でなることはあり得ても、パーティ単位やクラン単位でなれるわけがないんだな、普通は。でもレオたちは、将来クラン単位で授与されるのだ。クランメンバーの一人一人、全員が「相応しい」と複数の国に思わせたのだ。前代未聞だよ。


 改めて、レオはすごい人なのだ。


 ちなみに、サフィリスさまは、自然魔法と補助魔法と精神魔法で星6になられたけれど、今は自然魔法と補助魔法の星は返還されて、精神魔法のみの星6だったはずだ。

 複数の魔法の星6の座につかれるなんて、魔法使い協会の長い歴史でもたったの二人。サフィリスさまはすごい方なのだ。


 話を戻そう。


「魔法使い協会の星を持っておくと、色々な場所で優遇がある。冒険者ギルドで仕事や仲間を探す時も優遇してもらいやすい。貴重な人材だって証だからね。オススメだよ」


 確かに、トライに必要なものだと思った。


 だって、最悪私が死んでトライがまた奴隷に落とされてしまった時に、別格に扱いを良くしてもらえるものでもあったからだ。


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