27話 レオの召喚魔法講座②
「と、とにかく、僕はこの二人と契約している。でも、他の召喚獣にその場だけ助けてもらうこともあるよ」
レオは召喚獣を送還する魔法で二人を帰し、咳払いをした。
いい時間だった。お手本という意味でも最高だったし、レオの伝説を直に触れたのは個人的にかなり嬉しい。やっぱり憧れは憧れなのです。
トライがふむと頷いた。
「どうやって従わせるといいんだ? ミューからは友好的じゃない召喚獣には殺される危険もあると聞いた」
「……実力?」
「ん゛」
首を傾げるレオ。さすが天才肌は言うことが違う。
「実のところ、召喚された直後からいきなり強力な召喚獣って少ないんだよ。異界では強力な個体でも、召喚された直後は体がこちらの世界に馴染まなくてうまく動けないんだ」
「そうなのか」
「それをおしてもいきなり強いほどに召喚慣れしている個体は、召喚のメリットをよく分かっているから基本は友好的だ」
「召喚のメリット?」
ああ。私も本で読んだことがある。
考えてみたら当然なんだけど、召喚魔法って召喚される側にもメリットがあるんだよね。そうじゃないと、召喚獣たちだって応じたりしない。
「簡単に言うと、召喚されたらされるだけ彼らは異界で強くなれるらしい」
レオが分かりやすくまとめてくれた。
そう、曰く異界というのはふわふわ〜っとしたところみたいで、存在するのが難しいらしい。異界の住人は消滅してしまうこともよくあるとか。
その中で存在し続けるためには、こちらの世界で活動して存在を拡張する必要があるとか。
「??」
トライが、私の説明に全然分からないという顔をした。ごめん、これに関しては私も厳密に分かっていない。
レオが笑ってまとめる。
「まあ、召喚獣たちもたくさん召喚されたがっているってこと。だから召喚獣は基本的には友好的なんだ」
「おお」
「襲ってくるとしたら、それも分からないような個体なんだろう」
つまり、それだけ知能が未熟な個体ということだ。そして、多分そういう個体は異界に結構いる。そうじゃなければ召喚事故なんか滅多に起こらないはずだ。
でも、レオはそれについては楽観的らしい。
「僕が近くにいてあげるから、一度やってみたらどうだろう?」
「え、いいのか?」
まあ、確かにそれは願ってもない申し出だった。
召喚魔法がいくら危険でも、レオを殺せるほどの強さかつ敵対的な個体を引く可能性はほとんど無いだろう。私はトライを見上げた。
「やってみる?」
「えっと、すまん、呪文を覚えるのに数日、……」
「いや、多分すぐできるよ」
「え?」
驚いたように私を見るトライ。
今まで覚えた呪文は、全部習得に時間がかかっているもんね。魔法書を使うならいざ知らず、今までのやり方では覚えるのに時間がかかると思うトライの認識はもっともだ。
ただし、召喚魔法だけはその点ちょっと特殊だったりする。
「んー、無茶したら怖いから、あんまりトライに言いたくなかったんだけど……召喚魔法って簡単なの」
「そ、そうなのか?」
そうなんだよ。
「正確には、異界と繋がる扉を作るのが召喚魔法の一番基礎的な呪文になる。それが、たったこれだけの魔法陣でできちゃう」
私は紙とペンを取り出してガリガリと魔法陣を描いた。そう時間はかからない。だって構造が単純だから。
トライとレオは私の手元を覗き込んで、目を丸くした。
「わ、すごく単純だ」
「あとは、ここに応えてくれる召喚獣がいないか呼びかける。これが基本」
召喚魔法が複雑なのは、ここに色々な組み合わせがあるから。
望む召喚獣を呼ぶために付け加える呪文が何百種類もあって、他にも召喚獣専用の補助の呪文とか、安全のための束縛の呪文とか……そういうのを組み合わせて、望む召喚獣を呼び出そうとする。
「でも、無作為に呼び出すだけならものすごーく簡単なの」
レオがふむと頷いた。
「確かに、僕の魔法の先生も言っていたな。魔法使いたちの積み上げてきた知恵や真理を管理する魔法使い協会、そこの教育機関でも、召喚魔法は必ず熟練者の立ち合いのもとで行われると」
私もそれは聞いたことがある。
召喚魔法を一人で使うには、基本的に資格がいる。町中で下手なものを呼び出したら被害が甚大だからだ。おそらく、レオは魔法の先生にその資格をすでにもらっている。
だからトライが召喚魔法を使ってみるのに、レオがいてくれるのはそういう意味でも助かることだ。
そこで、レオが「ところで」と挙手した。
「ところで、当然のように見せられているこの陣は一体?」
「あ、ごめん。私たちはお金がなくて魔法書が買えないから、私が魔法の仕組みをトライに解説して、トライが頑張って覚えているの」
「……?」
レオが「ん?」と首を傾げる。当然か。この前ヨームさんとも話した通り、この魔法の習得方法は一般的じゃない。
私は、トライがこれまでこの方法で魔法を習得してきたことを説明した。
「え、は、初めて聞いた……」
「普通はやらないと思う。難しい上にリスクが高い覚え方だから」
なお、リスクの話はすでにトライにもしている。リスクを知っていないと気を付けられないからね。
レオが魔法陣と私とトライを見比べて、じわじわとその顔に驚嘆を滲ませた。
「え、待ってミューちゃんがこれを全部覚えていて? トライくんは魔法書もなしにその再現を??」
「「うん」」
私とトライが頷く。
トライが「いつも練習に時間がかかって申し訳ない」と悔しそうな顔をした。いや、それは私が魔法書を買ってあげられたら負わせなくてよくなる苦労だから、私は褒めるしかしたくない。
レオがそんな私たちを見て、じわじわと冷や汗を滲ませた。どうしたんだろう、レオ。さっきからすごく様子がおかしい。
「えっ、君たちこれがどれだけのことか分かっていないのか!?」
「「?」」
「〜〜! 二人とも相応しいところへ行けばすぐさま称賛されることをやっているのに〜〜ううう〜〜」
「レオ?」
そのうちレオはじたじたと地団駄を踏み始めた。
へえ、レオってそんな子供っぽい仕草もするんだ。人前で堂々としているところや朗らかな態度しか見ないから新鮮だ。
「というか、トライくんの凄さは魔法の理解力と緻密な魔力操作と……挙げたらキリがないながらもまあギリギリ才能で説明がつ……かない! 全然つかない、けど、それ以上にミューちゃんの知識はなんなんだ? 何種類の魔法陣を知っているんだ? ミューちゃんの知識がないと成り立たないよな?」
ギクッ。いつも痛いところを突きますね、レオは。
うーん、いつかレオには私に一周目の記憶があることがバレそうだな。なんか、私が打ち明けるとかじゃなく、些細な綻びを拾われて普通にバレそう。
トライはそんなレオに向けて得意げに胸を張った。
「そうだろう! ミューは凄いんだ!」
なんでトライが得意げなんだろう。




