26話 レオの召喚魔法講座①
「召喚魔法」
ぽつんとトライが呟く。
「召喚魔法って、人手が増やせるよな?」
トライのゴールドレッドがピカピカと光った。トライの言うとおり、魔法の中でも召喚魔法を使えば人手は増やせる。そこが召喚魔法の強みでもある。
私もトライなら短期間で召喚魔法もモノにするだろうと思いつつも、懸念していることを話した。
「危ないと思う。召喚魔法は強力だけど、召喚に応じて出てきた召喚獣が友好的じゃない場合もある」
「でも友好的な場合もあるんだよな」
「というか、友好的になれるほどの知能がない場合もたくさんある……」
「知能」
トライが神妙な顔で鸚鵡返しにした。思ってもみなかった言葉を聞いたみたいな反応だ。
そして一緒にいるベンさんは魔法のことは分からないのか、ちんぷんかんぷんですという表情をしている。
「召喚獣は大抵、知能と強さが比例する。強いほど知能が高い。知能が低い場合は、力と態度でもって従わせるんだけど、その方法は結構モノによって」
「モノ」
「召喚獣、と呼ぶけれど、実際の召喚獣は本当に多様でね。生き物のように見えないものもある。それこそ魔力のような力として顕現するものも多いらしい」
「なんだそれは」
「自然魔法のように撃てるものもある、ということ」
トライが全然分からないという顔をした。ベンさんなんかはもはや話を聞いていない。
うーん、こればっかりは実際にやってみたり、実物を見たりしないと分からないかもなぁ。
そこまで考えて、ふと、私には思い出すものがあった。
「そういえば、レオは召喚魔法使えるよ」
「そうなのか?」
「うん」
ステータスで見たから間違いない。
それに、レオは一周目でも自然魔法と召喚魔法の名手として知られている。すごくたくさんの召喚獣を従えた魔法使いなのだ。
今も、全盛期ほどではなくとも何体かと専属契約を結んでいる。
お手本を見せてもらうにはかなり贅沢な人選と言えるだろう。
***
というわけで、早速私とトライはレオのところに行ってみた。
レオたちのクランはまだこの町に滞在している。なんでか拠点とする宿を教えてもらっていたので、訪ねたというわけだ。
レオは気持ちよく私たちを歓迎してくれた。
「ミューちゃん! トライくん!」
パタパタと金髪を揺らして駆け寄ってきてくれるレオ。今日はコンシーヌとバゲリウスさんはいない。黎明の標はお休みらしい。
「こんにちは、レオ。休日にすまない。そして不躾に申し訳ないのだが、召喚魔法を教えてくれないか?」
「もちろん、トライくんの頼みなら喜んで」
レオはニッコリと微笑んだ。なんという好青年。
しかし、次にパチっと開いた琥珀の瞳は油断なく私たちを観察している。
「にしても、なんで僕が召喚魔法を使えるなんて分かったの?」
「ミューが言っていた」
「あ」
「へえ、なんで教えてないのに分かるの? それとも誰かが言った?」
ちなみに、お察しのこととは思いますが、本件は私が勝手に知っているだけで本人ならびにクランメンバーに聞いた情報ではありません。
うーん最近油断が多いな。気をつけないと。
でも、レオならバレても悪いようにはしないだろうという見込みもあった。事実、レオはじっと私を見た後でふわりと表情を緩めて口を開く。
「ごめん、責めているわけじゃないんだ。もしかして、ミューちゃんって僕と似たような力を持っていたりする? 初めての匂いの一端はこれかなと、今ふと思って」
「……うん。レオとは違うけど、私も人の才能と、あとはどういう魔法を使うかが、少し分かる。ただ魔法限定だからレオの下位互換だと思う」
「まさか! 謙遜しないで、本当にすごい力だよ。それに多分僕よりも詳しく分かるところもあるだろう」
トライが「えっ俺には教えてくれてなかったのにレオには言うのか!」という顔をした。
ごめん。そこに優先順位をつけていたわけじゃないんだ。話の流れでたまたま。あとで詳しく言うね。
レオはそんな私たちを見てクスクスと笑い、「共感できる子がミューちゃんで嬉しい」と言った。すごい人タラシだなぁ。
それから、レオは私たちに召喚魔法を教えてくれた。
「僕には契約してくれている召喚獣が二人いるんだ。いつも偵察を請け負ってくれる子と、これはちょっと内緒だけど、必殺技の子」
「必殺技か! カッコいいなぁ」
トライがソワっとしている。男の子って必殺技とか好きだよね。
そして、レオの必殺技だが、私は実は知っている。
一周目だと有名なんだけど、彼は神剣になれる非常に稀有な召喚獣と契約している。普段は小さな少女の姿なんだけど、いざとなると神剣となり、非常に強力な攻撃を撃てる。そう、剣として使えるだけじゃなくて遠距離攻撃をぶっ放してくる。それが山一つ削り出すような強力な攻撃で……レオの英雄譚にこの話は欠かせない。
レオが私を見て瞬いた。
「その匂い、もしかしてミューちゃん分かるの?」
「う、レオのそれ、ずるい……。心で思ったこと全部バレてる」
「僕からしたら君の方がずるいよ。最近やっと使えるようになったばっかりの、秘密にしている必殺技なのに……」
今の時点ではクランメンバーしか知らない技らしい。大丈夫だよ、近いうちに有名になるから。
レオは少し落ち込んで、「でもバレているならこれ以上隠すこともないか」と人差し指を立てた。
【サモン ストリエラ】
【サモン ミーチェ】
レオの呪文に応じて現れたのは、透明な羽を持つ小さな虫。
それと、ふわふわのドレスと巻き毛の小さな少女。うっすらと光を纏っている。そして私よりも小さい。
二人ともすごく強力な召喚獣だ。虫の姿をしているストリエラが索敵をしてくれる方で、少女姿のミーチェが神剣になれる方。
羽根を震わせてリンと鈴のような音を鳴らし、ストリエラはレオの肩にとまった。ミーチェは周囲を見もせずにふにゃふにゃとあくびをした。その仕草は幼児のようだ。というか体の大きさも二歳くらいの子供。レオがすぐにその体を抱き上げる。
「この二人が僕の召喚獣。ミーチェはまだ異界でも生まれたばかりらしくて、きちんと寝ないと神剣になれないんだ。あと、甘やかすことが力になるらしくて……」
レオは気恥ずかしそうにはにかんだ。その子を抱く様子は手慣れている。
トライが「懐かしいな、昔妹がいたんだ」と微笑ましそうな顔をした。へえ、トライって妹いたんだ。
「抱っこしてみる?」
「え、大丈夫か?」
「普段は子供と同じだよ」
「じゃあ……」
トライはおそるおそるとミーチェの体を受け取った。
ミーチェはふにゃふにゃと眠たそうなままだ。されるがままにこてんとトライに頭を預ける。かわいい。
「ミューちゃんは?」
「えっと、片腕がないから、抱っこは……。頭を撫でてもいい?」
「もちろん」
レオに許可をもらって、私は息を呑んだ。
きっと、トライと同じでおそるおそるした手つきをしているのだろう。ふわりとその巻き毛を撫でる。
わあ、この子が、あの伝説のレオの神剣になる召喚獣かぁ……!
と、そのとき、ミーチェがピクンと反応して私を見上げた。
「むにゃ……おばさん、魔力、借りてる?」
「ふぁ」
お、おば……! いや確かに中身はおばさんだった!
ビックリした、いきなり中身を言い当てられて心臓が跳ねた。
そして、レオとトライは別の意味で心臓が跳ねているようだった。
「ミーチェ! こら、レディにそんなことを言ってはいけないよ!」
「そうだぞ! 女性はいくつでもレディだ!!」
それにしても、二人ともキザだなぁ。




