24.5話 才能は見つからない
残酷な描写があります。
夢を見た。
ひどい夢だ。
***
「おーい坊主、ちょっと来てくれ!」
ここは冒険者ギルド。
冒険者ギルドは、冒険者の関わる制度の管理や依頼の仲介を行ってくれる、国から独立した中立組織だ。大きな町には大抵支部がある。魔法使い協会との二大巨頭とされている。
私は正規の冒険者ではないから依頼は受けられないけれど、正規の冒険者に仲介してもらって子供でもできる依頼を受けさせてもらい、日銭を稼いでいる。
あ、あとトラブルを防ぐために男っぽい装いをしているけれど、女だ。
「おーい! お前だよ、お前!」
いつも通りに冒険者ギルドの中で目立たないように様子を見ていると、不意に声をかけられた。
見れば、大柄な男性が私に向かって手招きをしていた。彼の周囲には、同じパーティのメンバーだろう人たちが数人控えている。
私は彼らのもとに向かった。
「……何?」
「あぁ、仕事の話だ。ちょっと聞いてくれや」
彼らの近くに行くと、目線で座るように促されて、私は大人しく近くのテーブルから椅子を一つ拝借して彼らが囲っているテーブルにつけて座った。
最近のギルドは荒れている。あまり良い予感はしなかった。
男性は私が椅子に座ったのを確認し、口を開く。
「坊主、この町の外れで盗賊が討伐されたことは知っているだろ?」
「……うん」
私は静かに頷いた。
知っている。最近はいつギルドに来ても盗賊の話で持ちきりだ。ひどい被害が出ているらしい。
といっても盗賊の仕業だと判明したのが最近で、原因不明に戻らない冒険者たちに、しばらくは「強力なモンスターか」と騒ぎ立てられていた。この町から逃げ出した冒険者すらいたとか。
まあ戦えない私には、関係ない話だけど。
「後片付けの依頼があるんだ。坊主にも分け前をやるから、手伝ってくれないか」
……ふむ。
見た感じ、積極的に本人たちが片付けをするような感じには見えない。非正規を雇って仕事をやらせて、仲介料で儲けようということだろう。
問題は仕事自体が本当に安全かどうかだけど、まだ私には判断がつくほど経験がなかった。とりあえず、よっぽど怪しくなかったらやってみるだけ。
今回は他にもたくさんの非正規に声をかけていそうだから、さすがに一気にこんな数の子供が死ぬようなことはないだろう、ある程度安全なんじゃないかって思って、私は仕事を受けた。選り好みする余裕もないし。
で、とんとん拍子に進み、男性冒険者に引き連れられてぞろぞろと件の盗賊の元拠点に向かった。
壊滅した盗賊の拠点の後片付け、つまり死体の処理だ。
一箇所に集めて、燃えにくそうなものやお金になりそうなものは死体から剥いで、燃やす。
多くの非正規の子供たちは、その洞窟のあんまりな惨状に泣いて仕事にならなかった。
私も吐いた。むせ返るような血の匂い、息を吸えば濁った空気が喉と肺にべったりとへばり付いて、気持ち悪い。
なにより死体のひどいこと。人間の体の形のものなんて全然なかった。
「おえ、え、」
「坊主、死体を見るのは初めてか?」
「……」
声をかけてきたのは、見知らぬおじさんだった。
ベテランの冒険者らしい。猫背で眼鏡で、髭が生えて酷くやつれていた。なんか妙に指が長い。ほぼ顔は見えない。よく喋る人だった。
「誰か助かっていないもんかと来てみたが、来なけりゃよかった」
「……」
「片付けに他に誰もいなかったら発狂してたかもしれん。ああ、君以外の非正規はリタイアだって。君よく残ったね」
「……」
「ああ少しばかりうるさくしますよ、勘弁してくださいね」
私が喋らなくても、そのベテランの冒険者は次から次によく喋った。大半の死体は知り合いみたいだった。
「ああクソ、クソがよ、最悪だ、気分悪ぃ」
「……」
「一応ね、子供相手にはもうちょっと丁寧な言葉遣い心掛けてんだ、でも今は無理だ、なんてこった、見た顔ばかり、クソが」
中でも頭がカチ割られた死体を見つけた時、ベテランさんはケタケタと笑ったり、怒鳴ったり、大変そうだった。
「ハハハ、この見境なしの子供好きが、新人の心配をする前に自分の子供をもっと気にしてやるべきだったな、ああ気が滅入る。こっから奥さんと娘さんに見せられる状態にしなけりゃならん」
「……」
「お前が行くっつったときについてきゃ良かった。ああひでぇ話だ、分かるぜ、頭カチ割られて即死だから私程度の回復がいたところで無駄だったってなぁ! クソがよ!」
そんな話を黙って聞く傍ら、ふと、一人の少年の亡骸が目に入った。
鎖に吊られてぷらぷらと揺れる頭。目についたのは、その鎖が魔力封じのものだったからだろう。
魔力封じってことは、この人は魔法使いだったのか。
魔法使いなのに、こんなになっちゃったのか。
孤児院にいた時に大好きだった魔法使いの冒険譚。その話に、こんな悲劇的な結末はなかった。
キラキラしたその話と目の前の亡骸がうまく繋がらなくて、私は呆然とその頭を見上げる。
「よくあることですよ」
ベテランさんが言った。
「……そう、なの」
「未熟な冒険者が搾取されて死んでいくことなんて、よくある。しかもこの子奴隷っぽい。囮にさせられたのかな。ああ、そっちの肉が多分主人、ハハ、主人を守れもしなかったんですね。いや、道連れにできていい気味とか思ったのかな」
「……」
「ああこりゃあ、私たちが来る直前まで息があったかもしれねぇなぁ。下手に魔力があると、そういうことがある。ほら、首の千切れ方が。ああすまん、悪趣味だった。処理できるか、うん、いい子」
ほとんど焼かれて汚れた髪。かろうじてもとはゴールドレッドだったのかなぁと分かるだけの髪。目は両方ともくり抜かれている。
ぽっかりと開いた少年の眼窩からは、血が零れていた。
涙みたいだと、そんなことを思った。
***
目が覚めて、なんだかとにかく気持ち悪かった。
まだ深夜。
夢見がとにかく悪かった。内容なんか全然覚えていないのに、胃をひっくり返して吐き出したいくらい気分が悪い。汗が冷たくて、肌と服がべとべとして気持ち悪い。
「ミュー、夢でも見たのかい?」
私の気配に気づいて、すぐにトライも起きる。
その顔には両目があって、焦げたところもなくて、なんでかドッと安心する。
「……あんまり覚えてない」
「そうかい? 俺は見た」
「悪夢?」
「いいや? ミューの夢だ」
トライが私の背をさすりながら話してくれた。眠いのか、ふわふわとした口調だ。
「ミューが、俺を見ている夢だ。ひどく悲しそうに、辛そうにこちらを見ていたな。俺を見て気分が悪くなるなら見なければいいのに、君は律儀に俺を人扱いして、吊るされていたところからおろして、拾い集めてくれて……あれ、そもそも俺ってなんか結構な状態になっていたような……」
「トライ。いいよ、もう」
聞きたくない。
「悪夢じゃないんだ、本当だぜ。あんなに丁寧にしてくれるなんて最後の最後で救われた、みたいな気持ちで、天使みたいだって……」
「トライ」
私がもう一度名前を呼ぶのに、トライは眉尻を下げて困った顔をした。そして、控えめに額にキスをしてくれる。宥めるような、存在を教えてくれるようなキスだ。
「まあ、所詮は夢だ。気にするな」
「うん」
「明日は何をする?」
「明日は久しぶりにおばあさんのところに薬草を届けに行こう。多分珍しい花ウダの木の新芽が取れる。新芽は一年に一日くらいしか取りごろがないから、きっと喜んでくれる」
「楽しみだな」
「うん」
そのあとは、トライが手を握ってくれていたからか、悪夢を見なかった。




