24話 この先
「ミューはいつもそうだよな。絶対何かあるのになんでもないって」
そんなことを言われて隣を見ると、トライがじとっとした目で私を見ていた。
なんだっけ、私ってそんなに言われるほどなんでもないなんて言っていただろうか。
まあ、最近は一周目を思い出しながらふわふわと話していることが多いから、適当なことを喋っているように聞こえるのかもしれない。
とりあえず適当に誤魔化す。
「私だけが知っていればいいことってあると思う」
「そういうのだぞ。俺に信用がまだ足りないのかな……」
私とトライのやりとりに、向かい合って座っていたレオがくすくすと笑った。
「仲良しだな」
「でしょ」
「仲間になれなくて残念だ。でも、それなら僕たちはライバルだな」
「そう?」
「そうとも」
レオはニコニコ笑ってそう言った。嫌味でもなんでもなく、本気でそう思ってくれていそうだ。
遠い憧れだったのに随分近いところまで来たな。いや、それもこれもトライがいるからだけど。私単体で彼らに目をかけてもらえるわけないんだよな。一周目でそうだったし。
私は少し考えたあと、レオにちゃんと向き直った。
「あの、ですね、トライはお譲りできないんだけど、私、レオたちにもっと感謝したいと思っているの」
「え?」
盗賊退治には、ギルドからも報酬とは別に多少の謝礼が出るらしい。今、この町には高ランクの冒険者がいなくて、被害がもっと拡大した恐れもあるから。
ここのギルドの偉い人は頭がいいと思う。実際に起こっていないことにお金を払えるのはそんなにできることじゃない。
ただ、一周目を知っている私はもっと何かできないかなって思う。なにもあげられるものを持っていないし、今欲しいって言われたトライのことはあげられないんだけど。なんて虫が良いかな。
「レオたちが早く来てくれなかったら、もっとたくさん死んでいたから」
「そんなの感謝されることじゃないよ。僕たちは要請を受けて役割を果たしただけ」
「でも、レオたちが来なかったら本当にたくさん死んだんだよ」
「……」
じっとレオの琥珀の瞳を見る。
レオはぱちぱちと瞬きした。すんと鼻を鳴らして、考え込むそぶりを見せながら私を見ている。
「ミューちゃんってやっぱりちょっと不思議だな。武術も魔法も全然才能がないし、他に取り柄があるかと言われると……その」
ガーン。私って何も才能ないのか。
「それなのに、なんだろう。うーん匂い自体はありふれているんだ、ミルクって感じ。でも……」
「あんたのその喩え誰にも分からないわよ」
「うーん、うまく言えないんだけど、ミューちゃんのそばにいる人は育つんじゃないかなって感じがする。教える才能があるわけじゃないんだよ、育てる才能もない。でも……こう……うーん、分かんない!」
分からないのかぁ。
そして教える才能もないのかぁ。確かに魔法陣の説明、いつもトライが頑張って読み取ってくれている感じあるからなぁ。
「僕の魔法の先生も分からなかったんだよね。ミューちゃんとは全然違うんだけど」
レオがうんうんと唸りながら言った。
「ただ僕の直感だと、こういう感じの人と仲良しだといいことがあるんだ」
「そうなの?」
「うん。だから僕の勝手で申し訳ないんだけど、仲良くしてくれると嬉しい」
レオは良い人だ。将来精霊銀ランクまで駆け上るのは、才能だけじゃなくてこういうふうに多くの人を気にかけ、多くの人に相応しいと思わせたからだろう。
私も相応しいと思った。一周目の記憶でそうなると知っているからではなく、ステータスを見る魔法を使ったからでもなく、ただそういう器であると。
***
レオは、生まれた時から特別なオーラを持った子供だった。
真面目な上に視座が高い。かと思えば破天荒にも魔法にのめり込み、家を出て、冒険者なんかを始めてしまった。そして冒険者の世界でもよく注目を集める。本人は不思議かつ絶妙な感覚で、その中を渡ってゆく。
天性の何かがあるのだろう。
その感覚に従うと、ミユミニという少女はさらに不思議に映るらしい。
「運命の力が強いっていうのかな。ああいう感じの人に気にかけてもらえると、ちょっといい未来に続く道に連れて行ってもらいやすい気がするんだよね」
「レオって変よね」
「ぐ、コンシーヌはいつも厳しい」
ただ、後から振り返って「その人にもらった何かがなければ酷いことになっていた」という事象が多いのだとレオは言った。
コンシーヌはそれに対して非常に論理的で現実主義だ。
「ミューちゃんは知らないけれど、あんたの先生の場合は、限定的に未来が見える魔法を使えるからじゃないの」
「そうなんだよね。何度先生のご助言に助けられたか」
レオは困った顔で笑う。その胸の中、誰にも聞こえぬところで彼は達観していた。
(でも、その先生によると、僕って二十年後くらいに魔王になって皆殺しにするらしいんだよね、全部)
だから、彼は家を出たのだ。
それを知るのは、今のところレオとその先生と、バゲリウスだけ。
***
レオたちと別れてから、私とトライは何も言わずに休憩室で休んでいた。
お互いに話し出さない。そして誰も来ないから、ずっとしばらくそこは静かだった。
「ミュー」
やっと、トライが先に声を出した。私がトライを見上げると、トライはずっと私を見ていた。
「俺は今、結構後先も考えずに嬉しい。だってさっきの話、ミューにとっては栄養のあるご飯とふかふかのベッドで寝る生活をするチャンスだっただろ」
「トライも同じだったよ。それに、トライにとっては大成功チャンスだった」
「大成功チャンス?」
「あのクラン、今は銀になりたてだけど、一、二年のうちに白金になって、五年で精霊銀になる。トライはそんなクランで活躍できると思うんだよ」
「……」
つれづれとそんなことを話す、そして話しすぎたなと思った。どう考えても具体的に話しすぎだ。
でもトライならいいか。トライも知りたそうな雰囲気を出しているし。
「ミューってやっぱり何か見えているんだなぁ」
見えてないよ。見えていたらもうちょっとうまくやるよ。
いや、やっぱり無理な気がする。もっと頭のいい人なら、私と同じ情報を持っているだけでもっと上手く立ち回るだろう。例えばレオなら、今回の件も犠牲者ゼロにできたと思う。
どうだろう、目的の問題かな。そもそも私は犠牲者ゼロなんて目指してなかった。
私の目的は、薄情でちっぽけでくだらないたったひとつ。
「トライ、治ったらどこかに行こう。ダンジョンでも外でもどこでもいい」
「ああ! 冒険だな!」
トライは私と同じ表情で笑ってくれた。




