20話 トライの出自
「あのさ、ミュー」
「うん?」
「レオのクランについてなのだが」
「ん゛」
さて、レオたちは私たちの情報を聞いて色々準備をすると、早速盗賊討伐に向かってくれた。
彼らなら大丈夫だろう。一周目ではおそらく特段の被害もなく勝利を収めていたはずだし、なによりステータスや動き方なんかを見てもあの盗賊たちに劣る要素はない。
いや、レベルで見るならコンシーヌは結構低めだしレオも低いけど、魔法の熟練度は圧倒的。バゲリウスさんもいるし大丈夫。
だから私たちは、ギルドの休憩室で回復魔法の練習を始めていた。
何も問題はない。ただ私が、レオたちにトライを取られやしないかとモヤモヤしているだけ。
トライは、そんな私を神妙な顔で見ていた。
「一応言っておこうかと思うのだが」
「え、な、なに?」
「あのレオという男、おそらく俺の親戚だ」
「ん? ……んん!??」
吹き出した。
なにそれ初耳。いや本当に知らない、聞いてない。
「そ、そうなの?」
「言っていなくてすまない。俺はその、一応もとは騎士の家の妾の子だと言っただろう? 家自体は結構大きくて……スティーク家というのだが、親戚にブレゼット家やグリルド家なんかがあって」
ブレゼット。確か、名乗られてはいないけれどレオの家名がブレゼットだったはずだ。レオ・ブレゼット。ステータスで見た。
トライが続ける。
「騎士の家って全体的に魔法使いを良く思っていないから……レオは有名なんだ。騎士としても強いのに魔法に傾倒する変わり者だって」
トライが「さすがにあんな力があったとは知らなかったが」と苦笑した。
逆にレオはトライのことを知らないのかと疑問に思ったが、聞いてみると多分知らないと返ってきた。
トライはレオとは違って、存在自体を煙たがられて、スティーク家の中でも最低限しか知られていないのだとか。親戚の家がトライのことを知っているとは思いにくいらしい。そうなんだ。
「バゲリウスも有名だぞ。ブレゼット家に仕える優秀な騎士だ。あんな護衛がついてくるとは、愛されているな」
「へえ」
「コンシーヌは知らないが……あの髪色はもしかしてアルクレア家だろうか? ブレゼット家の近くにある魔法使いの家系で、ブレゼット家とは普通に仲が悪い」
「へええ」
レオとコンシーヌって、その家同士は仲悪いんだ。なのに本人たちは幼馴染で、コンシーヌは一緒についてきちゃったんだ。色々と噛み締められるものがあるな。健気だ。
うーん、それにしても、ガッツリ彼らの内情を分かっていそうだな、トライ。というか、黎明の標の初期メンバー全員貴族だし。クランの結成の流れが見えてくる。
まさかこんな繋がりがあったなんて、ビックリだ。
「……」
私はそれから少し間を置いて、おずおずとトライに問うた。
「レオたちに親戚ってこと教えて、もっと仲良くしたい?」
「いいや。俺はもうミューのものだからミューに従う」
「本当に? 未練とかないの?」
「お互いに直接の面識はないし、俺にとって実家はいいところでもなかったし、別に」
「……そっか」
トライの表情に気負いはなく、本当にどうでもよさそうだ。
私にとっての孤児院みたいなものなのかな? 感謝してないわけじゃないけど嫌な思い出も多くて、それよりも圧倒的に面倒臭い、可能なら近づきたくない。だって絶対色々言われて面倒なんだもん。
「それなら、いいんだけど」
私は小さな声でそう言った。
ちょっとだけ、安心した。
「……」
ちなみに、この流れだともう一つ気になることがあったりする。
トライってもっと名前長いよね? トライ本人には言われていないから突っ込んでいないけど、スティークだけで終わってないよね? そのあと長く色々とくっついてたよね?
君のフルネームがトライティンガー・スティーク・ディ・ウィノ・デミリドロトントだってステータスで見て知ってるんだからね!
私は、一瞬躊躇って、でも仕方ないからそのまま聞いた。だって気になる。
「……あのさ、トライのお母さんって」
「ああ、一応そちらも話しておくか。父親はスティーク家なんだが、母親はエルフなんだ」
「!?」
なにそれ新情報なんだけど!
「トライってハーフエルフだったの?」
「正確には、母親がハーフエルフなので俺はさらにその半分」
トライが髪を掻き分けて耳を見せてくれる。
その耳の先は尖っているような、いないような、微妙な感じだ。言われてみればちょっと尖ってるけど、言われなきゃ分からない。
「ただ、俺も詳しくは聞けていないんだが、母親は特別な血筋らしい。なんであんな家にいたのかは分からない。でも誇り高い人だよ」
トライは、今度はふわふわと嬉しそうに語ってくれた。年相応の少年のように柔らかなまなざし。少し照れ臭さも混じっている。それでも温度を持って語るのは、スティーク家とは違って、母親のことはどうでもよくないから、大切だからなのだろう。
そういえば、トライの魔法はお母さんに教えてもらったらしい。
ディ・ウィノ・デミリドロトントという名もお母さんの方からもらったのだとか。それでか。トライの名前があんなに長いのは。
初対面の時、奴隷の叩き売りの中で「魔法使い」であることを強調していたのも、お母さんの魔法使いの血を大事に思っていたからなのだ。
トライのことを知れて、ちょっと嬉しい。
「へえ……」
「他に、俺に関して気になるところはあるか?」
「え?」
「なんだか、レオに会ってからミューが不安そうな気がして」
「!」
驚いた。私のモヤモヤはトライにお見通しだったみたいだ。
思わず恥ずかしくなった。頬を隠すために両手を顔にやって、あ、片手がない! 何回やるんだこの失敗!
「な、なんでも、ない。トライがレオたちに連れて行かれちゃわないか、心配してただけ」
「その心配をしているのはむしろ俺の方なんだが」
「え?」
思ってもみなかったことを言われて、私は今度はキョトンとトライを見た。ゴールドレッドがじっと重々しい温度で私を捉えている。
「ミューは俺のご主人様なんだぞ。俺のことは放ってしまって、彼らについていくことだってできるんだ。決める権利はミューにある」
「なんでトライを放っちゃうって話になるの? どうなってもトライは一緒だよ」
「それを聞いて安心した」
トライはふぅと息を吐いて、ゆっくりと私をベッドへ押しやった。押しやられるままにもふっと寝転がると、タオルケットをかけられて、それを隔てて「のし」と頭を乗せてくる。体重はかけないようにしてくれている。でも私から顔は見えない。
トライ、もしかして拗ねてる?
「トライのこと、教えてくれてありがとう」
「ああ。残念ながらそれを活かして資金援助を受ける、とかはできなくて申し訳ないのだが、ミューを安心させる材料になったならよかった」
教えてくれて嬉しいと伝えると、トライはやっと顔を上げて笑った。




