2話 二周目
ハッと目が覚めた時、私はたった十二歳の子供になっていた。
十二歳、ちょうど孤児院を追い出される年齢だ。
孤児は孤児院で一定の年齢まで保護して育ててくれるのだが、いつまでも養っておくわけにはいかないものである。だから、私の所属していた孤児院では、十二歳の始まる年に孤児院を出されるのだ。
と言っても、そのままポイッとされるわけではない。
仕事の紹介はしてくれるし、当面の住居は用意してくれる。孤児たちはそこで、成人年齢である十四歳まで仕事をしながら一人暮らしをする。大人になって独り立ちするための予行練習だ。
ただし、ただしだ。孤児同士の間では、いじめが発生することがある。
「あっはは! お前は孤児証なんかいらないだろ、冒険の旅に出るんだもんな!」
「あ、」
体格のいい男の子が、私から孤児証をひったくって取り上げた。反射的に手を伸ばして追い縋るものの、体格が違いすぎて取り返すことができない。そのまま、ビリビリと私の孤児証が破られてしまった。
孤児証がないと、仕事の紹介も住居ももらえない。
そういえば、私は孤児院にいた頃にやたらとこの子にいじめられていたなあとぼんやり思い出した。
昔のことって、あんまり覚えていない。私は一人で本に夢中になっている変わった子供だったし、なんとなく周囲とは馴染めていなかった。
でも、今思うとこの男の子は私のことが気に入らないのではなくて、気になっていたのかもしれない。だって、ただのいじめにしてはいつも構い方が可愛らしかった。
ただ、この一回に限っては、度を越してもいた。孤児証がなければ、子供はどうやって生きていけばいいのか。下手をすると、死んでしまってもおかしくはない。
男の子が笑う。
「頭を下げて「一緒に住ませてください」ってお願いするなら、助けてやるけど?」
「いらない」
でも、私はいっそ反射的に強がって断った。
あーあ、ここで「助けてください」って言っておけばいいものを、一周目でも突っぱねたから私は苦しい生活を強いられたんだよな。
けれど私も我慢ができなかったのだ。本当に助けてくれるかも分からないし。
「はーあ……」
孤児院を出て、大通りのベンチに一人。私はため息をついた。
木製のベンチの触り心地、頰を撫でる風、日差しの温度。
見下ろす私の手も足も細くて小さくてふくふくとしていて、体が小さくなったせいで周囲の何もかもが大きく見える。
本当に、なんでこんなことに?
「……時間が戻った、て、ことだよね」
魔法書が原因で?
私はぼんやりと首を傾げた。
あの魔法書はどの魔法使いにも使えなかったという触れ込みで、露天で売られていたものだ。私は何度も何度もページを捲ったけれど、内容は分からず何かが起こったこともなかった。
疑問は尽きない。けれど、今の私に調べるすべはない。あの魔法書も今は手元にないし。それよりも、もっと気にするべきことがある。
「これからどうしよう」
もしかしたら、今の状況は夢かもしれない。また目が覚めたら、下働きの私に戻っているかも。
でも、今の孤児の私にも意識や感覚があるから、とにかく生きていかないと。だって死にたくない。
だから私は、今後のことを考えた。どうやって生きていくかだ。
真面目に考えると、孤児院に戻って事情を話せば、そう悪い扱いを受けないとは思う。孤児証を無くしたことを怒られはしても、見殺しにはされないはず。……多分。
どうかな、あの孤児院は最近経営が怪しかったからな。私多分、本当はまだ十二歳じゃないけど、いつのまにか十二歳ってことになっていたんだよね。早く追い出したかったんだろう。
それでも、破れた孤児証を持って人目のある場所で謝れば再発行手続きくらいはしてくれると思う。
ただ一周目ではそれが分からなくて、非正規の冒険者になって日銭を稼いで生活していた。
冒険者というのは、日雇いの傭兵のようなものだ。冒険者ギルドに登録して、誰でもなることができる。ただし、誰でもといってもさすがに赤ちゃんが登録できるわけがない。
冒険者に登録できるのは十四歳から。それよりも幼い子供は、登録ができない。
それでも、大人の冒険者に協力してもらって、下働きとかの形で冒険者の仕事を受ける子供がいたりする。そういうのを、非正規の冒険者と呼ぶ。
町の猫探しや、薬草採取、掃除や片付けなど、子供でもできる仕事があり、かつその日にお金がもらえるのは、身寄りのない子供にとっては手っ取り早くていい稼ぎ場所なのだ。
まあ子供を騙して命懸けの場所に行かせたりする大人もいるから、そこは注意しないといけないけれど。
「とりあえずそれにしようかな。要領は分かっているし、一周目よりもうまくやれるだろうし。ダメだったら孤児院に戻ろう」
ん? 魔法の勉強はしないのかって? 知識を活かして一周目よりも良い人生を目指さないのかって?
そういうこともできたらいいけれど、この世界は孤児に厳しい。まずは生活を確保しないとそれ以外のことまで構っていられないのだ。世知辛いけれど。
(ステータスの魔法を使ってもう一度自分を見てみたけれど、特になにも変わってなかったしね)
相変わらず私には魔法の才能がないまま。大冒険は夢のまた夢。現実を見ないとね。
私はベンチから立ち上がった。
そうと決まったら、冒険者ギルドの近くに行って、協力してくれそうな冒険者を見繕っていかないと。
冒険者は傭兵なので、やはり腕っ節がものを言う。他の人柄や礼儀礼節なんかは二の次。その関係で、冒険者ギルドの周りはやや治安が悪いことが多い。この町でも、案の定冒険者ギルドに行く途中に色々あった。
あんまり大っぴらに取り扱えないものを売る市場や、小さめながら賭博や賭け試合ができるところ、人に言えない取引ができる酒場などなど。
私は外套を頭から被って目立たないように人の間をすり抜けた。
その合間に、声が飛び込んでくる。
「俺は天才大魔法使い! に、なる男だ!」