18話 黎明の標
「トライさん! ミユミニさん!」
冒険者ギルドの職員さんが駆け込んできたのは、次の日のことだ。
「盗賊退治の件で、銀ランククランの黎明の標が要請に応じてくださりました。動く前に詳しい話をお聞きしたいとのことですが、ご協力いただけませんか?」
「あ」
それを聞いて、思い出した。そうだった、確か盗賊を倒したのは黎明の標というクランだった。
そして、同時に思い出したことがある。
──そういえば、黎明の標って、一周目のときにクランリーダーだけを残して全滅しているんだよね。
私が二周目を始める、たったの三ヶ月前に。
***
クランというのは、パーティよりも大きな冒険者の集団のことだ。
そもそもパーティというのは冒険者が一緒に行動する単位で、最大五人くらいの人たちで一緒の依頼を受けたりする。
彼らは家族くらいに生活を共にする場合もあれば、仕事の時だけ集まって他は一切干渉しない場合もある。
クランは、それよりも多くの人が集まるものだ。もっとたくさんの人で集まって助け合うため、パーティ単位ではどうにもならない長期的な目標のために集まったりする。
銀ランククラン、黎明の標。いや、一周目のとき、私の知る最新の彼らのランクは最高の精霊銀ランクだった。そこまで上り詰めた本物の天才たち。
黎明の標は魔法使いを集めたクランだ。クランリーダーのレオさんが認めた人しか入れない、一人一人が強力な魔法使いで構成された超強力クラン。
その活躍は、町からあんまり出ない私でも知っているほど。でっかくて悪質な裏サーカスを捕まえたとか、強大なオーガキングを倒したとか、町を潰す規模のスタンピードに対処したとか、エルフの森の世界樹を救ったとか、魔王を倒したとか……魔法都市での大賢試練に勝ち抜いて魔法使い最高位の称号を得たとか。
なんで詳しいか? 今をときめくすごい魔法使いたちが集まるクランだったからだよ。憧れだよ!
二周目の今は、最近できた勢いのあるクランとして知られているらしい。
「でも、全滅しちゃうんだっけ、今から二十年後に」
なんでだろう? これに関しては記憶を思い出す以前の問題だ。そもそも私はこの件に関して詳しいことを知らない。
私が二周目を始める三ヶ月くらい前のことだ。つまり、私が旦那様に婚約者を見繕ってもらって釣書をもらう三ヶ月前。
全滅の原因は不明、その知らせは私たち一般人にも激震をもたらした。
だって、精霊銀のランクをいただくクランが全滅って、なに? あわや世界滅亡の危機なのでは、魔王がまたしても現れたのかと世間は騒いだ。
旦那様が私に婚約者を見繕ってくれたのも、きっとそういうことだろう。純粋に心配して、幸せを模索してくれた。憧れの人たちの死亡で、私ってば落ち込んでいたからなぁ。
とはいえ、この件はとりあえず今はいいや。
二十年近くも後のことだ。今は盗賊の方が私たちにとって重要なことだった。
***
「こんにちは! はじめまして、黎明の標のクランリーダー、レオです! こちらはコンシーヌ、こちらの大きい人はバゲリウス! よろしくね」
ギルド職員さんの言うとおり、黎明の標は数日中にこの町にやってきた。
ギルドが用意してくれた部屋の中で、職員さんの立ち会いのもとで私たちは話すことになった。
私は当然、彼らを全員知っている。でも二十年前だと幼いな。トライと同じ年くらいだ。みんなあどけなくって可愛い。それにメンバーもまだまだ少ない。他の人たちはきっとこれから仲間になるのだろう。
リーダーのレオさんは金髪に琥珀の瞳の美少年。その整った顔立ちはまさに正統派。何人の少女が彼の姿絵に恋したことか。
自然魔法から召喚魔法まで、彼は精神魔法以外ならなんでも使える。なんなら近接戦闘もできるオールラウンダー。そして彼は不思議な力で才能ある人を見抜くと言う。
コンシーヌさんはサブリーダーだ。くるんとした涼しげな水色の髪をした、レオさんと同い年の美少女である。確かレオさんとは幼馴染なんだよね。
補助魔法の名手。控えめな態度だけど補助魔法ならあまりに優秀、彼女が参加するパーティは実力よりも大きな力を発揮できる。
そして、密かにレオさんに恋しているらしい。彼女たちをモデルにした恋愛小説は飛ぶように売れた。
バゲリウスさんはこのクランではちょっと異色の人物だ。彼は魔法が使えない。その代わり剣と盾を持ち、前に出て戦う。何人たりとも敵を魔法使いのところまで通しはしない。黎明の標になくてはならない縁の下の力持ち!
レオさんの実家からついてきたお目付け役だったけど、いつのまにか本気で仲間になっていたというエピソードが美談として有名だ。一周目では四十を過ぎても現役で……ってことは今は二十代か。お若い。
そして、さ、さすがの憧れ、今をときめく魔法使いのニューフェイス! そのステータスには惚れ惚れしてしまう。才能ありすぎ! 羨ましい!
待ってほしい、にやけてしまいそうだ。傍らのトライがそんな私をちょっと怪訝な顔で見ていた。トライって、最近私のこと「思ったよりもかなりぶっ飛んだ子だなぁ」と思っている節がある。うん、変な奴でごめん。
レオ・ブレゼット
レベル21
HP 88/88 MP 120/120
自然24/S+
補助6/A
防御5/A
回復3/A
精神0/--
召喚12/S+
特殊15/A
コンシーヌ・アルクレア
レベル15
HP 45/45 MP 115/115
自然9/C
補助19/S+
防御0/E
回復18/S
精神0/E
召喚0/E
特殊0/C
バゲリウス・グリモー
レベル53
HP 1205/1205 MP 4/4
自然0/--
補助0/--
防御0/--
回復0/--
精神0/--
召喚0/--
特殊0/A
当然のように全員適性Aがある! ていうか魔法が使えないと噂のバゲリウスさんまで特殊魔法の適性A!? なんてことでしょう、素晴らしい。伸び代がありすぎる。
ていうか、こうして改めて見るとトライの適性値がヤバい、本当に。トライ、特殊魔法以外の適性が全部Sなんだよね。この中の誰よりもすごいじゃん。一周目世界の損失を思うと涙が出そうだ。
「ミュー、挨拶」
「は」
トライにせっつかれて、私はやっと我に返った。
「す、すみません、はじめまして! 私、ミユミニです、こっちはトライ。……その、ずっと憧れてます!!」
「「え」」
トライとコンシーヌさんが一斉に低い声を出した。
ええい、ミーハーと笑うなら笑ってください! 憧れは憧れなのです。
「あはは、ありがとう。まだ駆け出しなのにファンがいてくれるなんて嬉しいな。盗賊のことも僕たちに任せて安心してね」
「は、はい」
レオさんは朗らかに笑って握手してくれた。う、うわ、嬉しい。そしてそれをすごい形相で眺めるトライとコンシーヌさん。
でも、握手をした後で不意にレオさんが「すん」と鼻を鳴らす。コンシーヌさんがそれを見て小さめの声で問いかけた。
「レオ、匂うの?」
えっ、匂い?




