17話 また行きたい
聴取が終わったら、あとはゆっくりしなさいとギルドの休憩室のベッドに戻された。
冒険者ギルドにはたまにこういう要治療者が出ることがあるらしく、簡易ベッドを貸してもらえる。料金はかかるけれど、私たちの場合はそれも含めて情報料として相殺してくれるそうだ。ありがたい。
「ミューってすごく冒険者向いてないか。本当に孤児だったのか?」
ベッドに戻ったところで、ずっと一緒にいてくれたトライがふと固い声を出した。ゴールドレッドがじっと私を見据えている。
「なんで?」
「判断力がおかしいと思って」
「判断力?」
「盗賊から逃げるときさ。逃げようだけなら分かるけど、魔法の指示とか、あれがなかったら俺はやっぱりファイヤーボールしか使えてなかったと思う」
加えて、トライは「俺は必死で、あんなに詳しく覚えてないし分析できてない」と頬を膨らませた。聴取での情報のことか。
私はふむと当時のことを思い出してみる。でも、そんなの、理由は明らかだ。
それは、トライが私を庇って矢面に立って、必死で動いてくれたからでしょう。覚える余力なんかなかったはずだ。それに私には「ステータスを見る魔法」っていう反則技もある。
だから私は笑って言った。
「私は戦ってないからかな」
「それは違くないか?」
「でも多分そうだよ」
一周目の頃、やっぱり魔法が好きだった私は、魔法の試合の観戦に行ったことがある。魔法都市に行くと比較的気軽に見れるのだ。珍しく町から出たイベントだったなあれは。
そこで、観戦しながら、「こうすればいいのに」とか好き勝手なことをずっと考えていた。でも私自身が戦おうと向かい合うと体が硬直しちゃってまともに動けなくなるんだよね。一周目の時にやってみたから分かる。
だから今回も、私は戦うトライに外野から思ったことを言っただけなのだ。トライがすぐに対応してくれたことの方がすごい。
「……あの間合いは、ミューも戦ってたと言って過言じゃないだろ」
「過言だよさすがに」
本当に過言だと思うよ。
トライは納得がいかなそうな顔をしていた。
「それはさておき、トライ、野宿の場所に隠してあるお金と魔石持ってきてくれない?」
「確かに、あった方がいいな。持ってくる」
「ありがとう」
ギルドの職員さんは、私たちにしばらくここにいて良いと言ってくれた。ヨームさんと、あとはランクアップ試験の時にお世話になったベンさんが主に責任を持ってくれるらしい。
それならば、今まで野宿していた場所に隠していたなけなしの財産は手元に置いておきたい。何か入り用になるかもしれない。
トライは頷いて、それから私の残った方の手をぎゅっと握った。ゴールドレッドが瞬く。
「ミュー、魔石を持ってきたらまた魔法を教えてほしい。俺、自然魔法以外の魔法もやりたい」
「そっか」
「補助魔法と防御魔法と……なによりも回復魔法」
タイムリーなラインナップだ。トライなりに色々考えてくれたらしい。
私は思わずニコニコしてしまった。
「トライ優しい」
「そうじゃないだろ」
一方のトライにはキレられた。なぜ?
ぎゅうと私の手を握るトライの手に力が籠る。
「やっぱりその腕は俺のせいだ。俺がもっと早く人がいたことに気づけば良かった。もっとできることがあったはずだ、もっと……!」
「トライ、そんなことを言ったら私の方が足りてなかったんだよ」
「そんなことない!」
そんなことあるんだよ。
私が一周目のことをもっとちゃんと思い出していたら、そもそもあのダンジョンには近づかなかった。盗賊に遭わないように、もっと慎重に動いたはずだ。
もっとできることがあったのは私の方。でも今更そんなの考えても意味ないから、次から活かそう。
うん、まだ盗賊事件は終わってないから、今のうちにもうちょっと記憶を整理しておこう。紙とペンってギルドで貸してもらえないかな。有料かな。
トライは、ぶるぶると震えていた。
「お、俺、ミューに責められないの、怖い……。年上なのにこんなこと言いたくないけど、もっと何か、させてほしい、だって、」
「トライ」
私はトライに握られてない方の手を動かして、トライの頭を撫でようとする。まあ当然腕の先がないので失敗し、空振った。
痛ましそうな顔をするトライ。
うーん、慰めようと思ったのになんかダメな感じ。
私は小さく咳払いした。その際また腕がない方の手を口元に持っていこうとして、失敗した。
腕がないことに慣れてなさすぎる。というかトライが私の残ってる方の手を離してくれない。
「こほん。じゃあ回復魔法やろう? 今ならお手本のヨームさんもいるよ」
「……」
「トライが回復魔法やりたいの、そういうことだよね。補助魔法と防御魔法をやりたいのは、また私を冒険に連れて行ってくれるつもりだから」
「!」
トライがゴールドレッドの目を見開く。
私は続けた。
「嬉しい。また行きたいね、ダンジョン。トライはもっと強くなるよ。あんな盗賊はすぐに追い越すよ。じゃあ私のこと守ってね」
「……」
おもむろに、トライは黙り込んでしまう。その顔を覗き込むと、彼はビックリした顔をしていた。何かに気づいて、微かに戸惑っているような顔だ。
私が話を促すと、トライはおずおずと顔を上げてくれた。
「ミューって、なんというか、すごいよな」
「ん?」
「魔石を見つけても生活費にせずに魔法の練習に使わせてくれたり……庇ってくれたこともそうだ。もちろん俺を大切にしてくれているというのもあるのだろうが、それとは別に……」
ゴールドレッドの行き先を彷徨わせて、言葉を選ぶトライ。間もなくその瞳は私のところに戻ってきた。
「魔法が好きなんだな。本当に」
「……」
「君みたいな人が、冒険の末に魔法の真理に辿り着いたりするのかな」
今度は、私が言葉をなくしてビックリする番だ。
思い出すのは、私が小さな頃に大好きだった本のこと。魔法使いの冒険物語。
ワクワクドキドキ、最高の魔法を探して修めてみせるのだ! 死ぬ危険だってあるけれど、酷い目に遭う時もあるけれど、魔法があれば、仲間がいれば、懲りずにまた行きたくなってしまうのだ!
物語の中の小さな魔法使いたちがそう叫んだ。ような気がした。
私なんかに、そんな冒険が?
「──そうなんだ?」
「なんでミューが首を傾げるんだ」
「そんなの思ったことなかった」
「普通は嫌になるだろう、あんなことがあったら」
「トライは嫌になったの?」
「……」
トライは一瞬躊躇って、それでも私をまっすぐに見た。
多分そのゴールドレッドの輝きは、私と同じ色をしている。そんな気がする。
「酷いやつだと罵ってくれ。実はまたダンジョンに行きたい。他の町も、もっと大きなダンジョンも行ってみたい。ミューと一緒に」
「お揃いだ。気が合うね」
トライが一緒にいてくれて良かった。
こんな気持ちを一緒に持ってくれる人、普通はいない。一周目には、私の周りには誰一人としていなかった!
「トライ、ありがとう!」
「なんでそうなる!?」
私はぎゅっとトライの手を握り返した。




