16話 情報聴取
ヨームさんは私たちを慮ってか、両手を広げて冗談めかして治療費の話を教えてくれた。
「トライくんは冒険者なので保険がおります。実質無料。やったね」
「は、はわ」
「そうお察しの通り、君、ミユミニさんは冒険者登録をしておりませんで」
「はわわわわ」
「めんこい怯え方するね、脅しがいのある」
「め、めんこく怯えたら割引が」
「入りませんな」
ダメか。ですよね。
「本来ならコレ、お金が必要なんだけどね、君たちの事情を鑑みるに酷なもんですけど、でも例外を作ると後の子の良い影響になりませんで。で、ちょいとギルドでも話し合いがもたれましてね」
おや、と私が顔を上げる。話の風向きが少し変わった。
そして今更だけどトライの方を見ると、ジトッとした目でヨームさんを見ている。そこに慌てた様子はなく、なんというか……呆れている感じだ。あれ? もしかして?
「報奨金で手打ちにしようかと」
「そんなのあるんだ」
「君たち盗賊の情報持って帰ってきたでしょう。しかもかなり詳しそう。こういった情報は冒険者の生死を分けますからね。積極的に情報をいただけるように、情報の有用度によって報奨金を出している。ギルド支部によってはやっていないところもあるんだけど」
つまり、実質治療費は許してやると言われたのだ。
私はへたりと脱力した。トライがそれを支えてくれる。
そっか、トライはこの話を先に知っていて、大丈夫なのにやたらと脅すヨームさんに呆れていたというわけか。
あー良かった。ありがたい。本当に。
治療費って高い。いや、場所によってはそもそも回復魔法自体を受けられないから治療してもらっただけでも本当にありがたいんだけど、でも、回復魔法ってそれだけ貴重だ。その治療費は、私たちには一生かかっても返せない金額の場合も普通にあり得る。それが情報料で相殺。ありがたい。
「その代わり、情報提供のために色々と聞きますがね」
「たくさん喋ります」
「頼むよ。ああでもデタラメはダメ。まあそれも含めて明日改めて聴取するから、今日はもう寝なさい」
「はい」
ヨームさんは「良い子だ」と私の頭を撫でてくれた。
「君は体力見ながら、明日からゆるゆる治していくからね。とにかく食べて寝なさい。私の魔法じゃ片腕は無理だけど、それ以外は痕にもならないようにするから」
「回復魔法すごい」
「どうだろう、魔法使いをやっていると、特に回復魔法使いだと人間の体の方が脆いという感覚になってくる」
眼鏡のツルをいじくって、ヨームさんは憂いを帯びた顔をする。トライも痛そうな顔で私の無くなった片腕を見ていた。
「なにせ攻撃魔法として一番弱いファイヤーボールとかアクアボールなんかで吹き飛ぶし」
「私の腕もファイヤーボールで弾けました」
「だよね。魔法使いと戦うなら魔法耐性は必須だ」
「防御魔法?」
「違う。魔力が育ってくると、魔法使いは無意識に自分の肉体を魔力で守る。魔法以前の基礎的な力だ」
「私には無理そうなやつ……」
「そう。だから魔法使いの仲間は魔法使いに補助魔法や防御魔法で助けてもらって、魔法使いと戦う」
なお、魔法使い以外も何かを極めていくとそういった耐性が育つ。いわゆる、レベルが上がるってやつだ。HPが高くなって、一撃が致命傷じゃなくなる。
レベルに差がある人と戦うのは、自殺行為なのだ。
ましてや、トライはまだ12レベルだし私なんか1レベル。当たりどころが非常によかった。普通ならファイヤーボールで一撃死だ。
だって、相手は31レベルあったし。
***
バラム
レベル31
HP 289/289 MP 150/150
自然23/B
補助4/F
防御0/E
回復0/--
精神0/G
召喚0/--
特殊0/--
使用魔法
(自然魔法 炎系統)ファイヤ、ファイヤーボール
(補助魔法)フィジカルアップ
これが件の盗賊のステータスだ。
この世界にはレベルの概念が、なんとなくふわっとある。HPもMPも、ふわっと話が通じる程度に存在する。
戦いに慣れて強い人だと、力は強く打たれ強くなる。
例えば同じ高さの崖から落ちても、戦い慣れない人は大怪我するけど、戦い慣れた人は無傷だったり。もちろん体の使い方に慣れていて受け身を取ったというのもあるかもしれないけれど、それ以前の頑丈さが違う。
私のステータスを見る魔法は、それらをふわっと数値にするものだ。厳密じゃないけど、目安にはなる。
「では、聴取を始めます」
次の日に、ギルドの職員さんが何人も集まって聴取を受けた。
嘘やデタラメが無いように嘘を見抜く貴重な魔法具を使って、同じような質問でも聞き方を変えて何度か聞かれる。間違った情報だと困るからね。
「魔法が使える一人が、とにかく厄介です。銀ランク下位の魔法使いと同等、もうちょっと強いかも。魔法使いもいる銀ランク以上じゃないと危ないと思います」
「……こちらのギルドでも、討伐の依頼を受注した銅ランクパーティがまだ戻りません。もう五日が経ちます」
職員さんの一人が重い口調で教えてくれた。
高確率で、そのパーティはもう生きていないと思われる。
基本的に前衛と魔法使いがいるパーティに、同レベルの前衛だけのパーティは勝てない。魔法使いはそれだけ強いのだ。魔法使い単体だったら距離を詰めれば勝機もあるけれど。
それに、私の魔法で分かるのは魔法に関するステータスだけだ。盗賊ならば武器を持っての戦闘の方が得意だろう。魔法を使う盗賊なんか滅多にいない。
ちなみに、この盗賊は魔法の才能が結構ある方だ。普通はほとんど適性なしで一つ二つだけ適性があるだけとか、あってもCでまあまあいいじゃんって感じ。トライが才能ありすぎなのである。
あの盗賊も自然魔法の適性がBだし、十分魔法の才能にあふれている。勝ち組と言って良い。こんな人がなんで盗賊なんかやっているのか。
「……多分、拠点を、ダンジョンの洞窟に移そうとしてて、でも私たちと鉢合わせたからまた移動してると思います。結構派手にトライが魔法を使ったし」
「ありがとうございます」
長い時間をかけて、聴取はやっと終わった。
そしてすぐに職員さんたちは動き出す。
「町全体に引き続き移動制限を。近くの町のギルドに応援要請を出します。銀ランク以上、魔法使い必須、すぐに連絡して」
バタバタと大人が走る中で、メインで聴取をしていた偉そうな初老の男性が私たちに声をかけてくれた。
「詳しい情報をありがとう。そして、よく生きて情報を持って帰ってきてくれました。これが無ければたくさんの冒険者が死んだことでしょう」
「はい」
私は頷く。
実際に、一周目であの盗賊はたくさん殺した。何人もの冒険者を、町を行き来する商人を、ちょっと稼ごうと町の近くに出た孤児を殺した。その中の一人がトライだ。
この冒険者ギルドも大打撃を受けて、しばらく他の町の冒険者が出入りしたらしい。
──結局、誰が盗賊を討伐したんだっけ。
忘れちゃった。それに、私は一周目の盗賊の件の顛末を噂でしか知らないのだ。




