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魔法を諦めたやり直しモブ少女、死んじゃう予定の大魔法使いを救う  作者: 京々
1章 才能を見つけちゃった

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14話 逃走

残酷な描写があります。


 左腕の、肘よりも下が、じゅうと肉の焦げる音を立てて焼け落ちる。


 痛みはあまり感じなかった。それよりも爆発で受けた衝撃の方が大きい。体が吹き飛ばされて、咄嗟に受け身を取ろうとしたけれど差し出した腕の先が片方なくて、不恰好に頭から地面に突っ込む。


「っ〜〜」

「ミュー!」


 すぐにトライが助け起こしてくれて、私はもう片方の手でその服を掴んだ。よかった、まだこっちの腕はある。私のその腕はぶるぶると震えていた。


「ッッ」


 そんな私の様子を見て、トライの目が瞬時に殺気を帯びる。ゴールドレッドから私がいなくなって盗賊の男が映り込んだ。

 トライの腕は持っている魔石に添えられて、多分魔法を撃とうとしている。


 そこで咄嗟に戦う選択をするところが、トライのすごいところだ。でも今に限っては悪手でもある。


「トラ、」

【ファイヤーボール】


 私の声かけよりも前にトライの魔法が発動した。盗賊の男はそれに片眉を上げて驚いた様子もない──うん、無理だなこれ、今の私たちに勝てる相手ではない。


 逃げ一択。


 私は咄嗟にトライの気を引くために思いっきりトライを叩こうとした。トライの服を掴んでいる方の手で服を引き寄せて、もう片方の手を振る。

 まあその腕の先がないのでトライには何も当たらなかったのだけれど、同時に振り回すはずだった腕の重さもないので私はバランスを崩してトライの支えからこぼれ落ちた。


 そのおかげで、トライはやっと私を見た。


「っ逃げよう! 逃げるの!」

「あ、ああ!」


 トライがハッとした顔をする。

 その目から殺気が消えた。


「まわりにウィンドブレイド、走るのはあっち!」

「ああ!」


 トライは一瞬で周囲を見回して盗賊たちの位置を把握、私の体を抱え上げる。ぐえってなりそうになったけれど、この緊急時に余計な気を使わせそうなので飲み込んだ。


【ウィンドブレイド、ウィンドブレイド、ウィンドブレイド】


 周囲にとにかく魔法を放つトライ。


 ウィンドブレイドは炎系統の魔法に比べて殺傷力は低いけど範囲は広い。多人数相手には目眩しになる。

 ダンジョンの周りの簡素な柵も周囲の木々もざくざくと切れ、バラバラと舞った。その隙間を、私を抱えたトライが走る。


「ガキが!」


【ファイヤーボール】


 盗賊の男がトライの背に魔法を放った。


【ファイヤーボール】


 私が何かを言う前に、トライが振り向きざまに魔法を放つ。ファイヤーボール同士がぶつかって、派手な音を立てて爆発した。風と熱気がぶわりと肌を焼く。


 けれど、間髪入れずにその熱気の向こうから、もう一つのファイヤーボールが飛んでくるのが見えた。しかも一見した感じ、一つ前の相殺できたファイヤーボールよりも大きい、同じ魔法じゃ相殺できない。


 あ、この盗賊、本当に人を殺し慣れているな。


 あんまり考える前に、私はトライの服を掴んで引っ張って、「真後ろ、エクス……」と囁いた。トライはそれだけ聞いて、振り返りもせずに私の指示通りにした。


 すなわち、後ろに向かってエクスプロージョンを放つ。


 ファイヤーボールとエクスプロージョンかぶつかって爆発した。先ほどの比ではない熱と風が押し寄せて、トライも思わずたたらを踏みながら足は止めない。


 私もぎゅっと目を瞑ってやり過ごし、揺れる視界で周囲を見る。


 包囲網は抜けている。

 今の爆発でだいぶ距離も稼げている。


 大丈夫、逃げ切れる。


 それを確認して、多分一瞬だけ私の意識は落ちた。




 ***




「はあ、はあ」


 熱い、熱い。あつい。チリチリとして、でもそれよりもじわじわと指先から肉が熱に侵されて、なんかすごく鈍くて痛い。痺れる感じ。


 息苦しさと体の鈍さで、ハッとした。


「っ」


 視界がチカチカと明滅している。乱暴に揺られていて、でもそれは私を抱えるトライが必死で走っているからだ。


 気絶していた、どれくらい経ったのだろう。ぼうっとするのを振り払って周囲を見ると、もう町が見えるところだ。あと少し。


 全身がじゅくじゅくと痛い。何よりも熱い。


 焼かれた直後は感覚が麻痺していただけみたいだ。少し時間が経つと片腕は焼けるように熱く、というか実際にまだぶすぶすと焦げ臭い。化膿するのは多分すぐだ。焼かれているので出血がないのが救いか。少なくとも失血死の可能性は低い。


「う、はあ、はあ、」

「ミュー、頑張れミュー、もうすぐだ!」

「ぁ、う〜〜……」


 痛みで声を我慢できない。トライの服を残った方の手でぎゅうと握った。


 町の門にはすぐにたどり着いた。


「君、」

「助けてください、盗賊です! ギルドに行きます!」


 ちなみに、町の門にも見張りの自警団はいる。


 でも町を防衛する戦力は主に冒険者ギルドだ。もっと大きな都市ならば貴族や国の持つ騎士団もあるけれど、この規模の町にそんなものはない。

 見張りの人に簡易的な説明をして、トライは私の治療のために冒険者ギルドに向かった。


 町に入って、道ゆく人がギョッとするのを追い越して、トライは私をギルドに担ぎ込んでくれた。


 ギルドは一気に騒然とした。


「回復魔法使いを!!」

「急いで! ヨームさんを呼んで!」

「回復魔法の技能登録していた冒険者のリストを! 早く!」


 職員さんたちが慌ただしく治療の手配をしてくれる。


 同時に、職員さんたちは私たちに話を聞きたくてもどかしそうに歯噛みしていた。町の近くにいた冒険者がこんな大怪我をするのは只事ではない。情報の報告は一刻を争う。他の冒険者も被害を受ける可能性が高いから。


「盗賊と言っていましたね! 状況を聞かせてください、緊急度は!?」

「えっと、町の外の小さなダンジョンで鉢合わせたんだ、炎の自然魔法を使う」

「人数は?」

「咄嗟だったから……四人以上はいた、と、」

「なな」


 怪我で朦朧とした頭で、私は口を開いた。


「ミュー!」

「はあ、はあ、ぅ〜〜……なな、にん。……うちひとり、が、ぐ、炎の自然魔法と……はあ、ぅ、補助魔法を使います。……は、はあ、ファイヤとファイヤーボール、あと、補助魔法のフィジカルアップ……」

「え、フィジカルアップなんか使っていたか?」


 トライが驚いた顔をする。


 いや、実はこれは一周目での情報だ。全部又聞きなのでちょっと曖昧だけど。でも遭遇した時盗賊のステータスも見たから間違いない。


 その盗賊は自分に補助魔法をかけて筋力を上げて、力押しするのだ。鍔迫り合いでそれをやるから力自慢でも負けたって情報があった。一周目では頭がカチ割られた死体もあった。


 そもそも、あの洞窟にはアクアスライムやブラッドスライムが出ると記憶していたけれど……ブラッドスライムが出始めたのが盗賊騒ぎの後なのだ。


 ブラッドスライムはアクアスライムの血液バージョン。血液に魔力が籠って発生する。そんなの、新鮮な血がたくさんあるとき、つまり大量虐殺が起こった直後じゃないと無いよ。時間が経つと血液なんか腐っちゃうから。


 ……なんか、やっと色々と思い出してきた。遅いよ。



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