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1話 はじまり


 幼い頃、魔法使いの冒険物語を食い入るように読んだ記憶がある。

 繰り返し繰り返し、飽きもせず。同じ話を。


 ワクワクドキドキ、自分勝手で個性豊かな魔法使いたちが、最高の魔法を目指して旅をする。時には町に寄って魔法で人助け、時には魔法に失敗して散々な目に遭ったり、時には魔法を気味悪がられて追い出されちゃったり。ひどい目に遭うときも辛いときもある。それでも、仲間と魔法があれば楽しくってくだらない。

 命と矜持と人生を賭けた大冒険、なのに「次はどこに行こうか」と思えるほどの楽しい旅路。


 孤児で一人ぼっちだった私は、ただ憧れた。

 私もいつか、仲間と魔法を探求する大冒険を──


「なーんてね。魔法の才能なかったんだな、私」


 机に置かれた一冊の釣書を前に、私は諦めとも笑いともつかない表情で肩を落とした。




 ***




 私の名前はミユミニ。

 あるお屋敷の下働きだ。年齢は、立派な行き遅れと言われるくらい。


 孤児だった私は、とても恵まれたことに、魔法の勉強もさせてくれるしこんな歳でも縁談を持ってきてくれる旦那様にお仕えすることができた。

 いや、いくら召使いの数が少ないからってそんな面倒を見てくれる旦那様はいませんよ。本当に。


 旦那様のおかげで、魔法も使えぬ身で道楽として魔法の勉強を続けて十年ほど。


 魔法陣という、魔法が使えなくとも描けば魔法を構築できるすべを見つけた私は、結局魔力がないから発動もできないのに、仕事の傍らにずーっとそれをいじくって遊んでいた。

 自分で操れはしないけれども、魔力を使える人に描いた魔法陣を渡せば、それは自分の描いた通りに具現化したのだ。実用も何もないそれに、私は夢中になった。


 運の良いことに、それを人類で最高峰の魔法使いであるサフィリスさまに見つけていただく機会があった。

 彼女は私に、「ひとつだけ、自分の描いた魔法陣の魔法を、お前に使えるようにしてあげる」と言ってくれた。私は三日三晩悩んだ末に、ひとつの魔法陣を手に彼女に頭を下げた。


 私が習得できた唯一の魔法が、これだ。


【ステータス】


 呪文を唱えると、私の目の前に透明な文字の羅列が現れる。これは私以外に見えることはない。書いてある文字は、こんな感じ。



 ミユミニ

 レベル4

 HP 15/15 MP 100/1

 自然0/--

 補助0/--

 防御0/--

 回復0/--

 精神0/--

 召喚0/--

 特殊1/G+



 そう、私が得たのは「ステータスを見る魔法」だ。

 これを見た私は、「やっぱりな」と納得しつつも人生最大に落ち込んだ。


 参考までに、他の人のものを見せよう。



 サフィリス

 レベル99

 HP 6830/6830 MP 10092/10092

 自然88/A-

 補助93/S

 防御80/A

 回復75/B

 精神99/S+

 召喚81/S

 特殊43/E



 サフィリスさまは、まあ人類で最高峰の大魔法使いなので比較するには不適切なのだが、さておき言いたいことは明快だ。


 HPやMPは生命力や魔力に該当する。HPが多ければ生命力が強くて死ににくくなるし、MPが多ければ強い魔法をたくさん使える。

 私のMPの分母は1なので、私にはMPがほとんどないらしい。分子が100なのは、サフィリスさまに分けていただいたからだ。


 また、「自然」から「特殊」まではそれぞれ魔法の種類だ。数字はそれぞれの魔法の熟練度で、アルファベットはそれぞれの魔法への適性である。私のステータスを見ると、特殊魔法以外、「--」だ。アルファベットですらない。本当に全く使えないのだ。


「はあ……」


 内心の落ち込み具合は決してため息ひとつで表現しきれないが、しかし落ち込みの表現を私はため息しか知らない。


 まあ、今の私は、今を逃したら婚期のない行き遅れである。今更才能があると知れたところで、冒険なんかできない。魔法の勉強も、外聞が悪くなるから結婚するにあたってやめないといけない。

 むしろ才能がなかった方がいいかもしれないけれど──


「──でも、してみたかったな、魔法の真理を探究する大冒険」


 若い頃、一つだけ手に入れた魔法書を名残惜しくめくる。

 一度だけ、夢を語って、それがきっかけで魔法書を譲ってもらった。まあ、誰にも使えやしない紙クズ同然と言われていた魔法書だ。それでも、私には宝物だった。


 魔法を覚えるためには魔法書が必要だ。魔法使いになるための第一歩が魔法書である。だから、例え紙クズ同然でもこの魔法書は私の希望であった。

 持っているだけでワクワクして、胸が弾んだ。この気持ちは今もあるほど。


 これも、結婚するなら捨てなければならないか。捨てたくないなぁ。


「結局、何の魔法書だったんだか」


 ──知りたい?


「へ?」


 声が聞こえた気がして、顔を上げる。男とも女とも、子供とも大人とも分からない不思議な声。


 すると、ぶわりと風が巻き起こった。何かと思えば、手に持つ魔法書が一人でに開き、バラバラバラと捲れ上がっていく。


 一体何が起こっているのか、私に知るすべはない。

 ただ、何かが起こっていたことだけは分かって、それから私は間も無く意識を失った。


 こうして私の2周目の人生が始まった。



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