9/15
「青羽が泣いた日」
ある朝、校舎裏で青羽が立ち尽くしていた。
顔を背けるようにしていたが、頬には涙の跡があった。
澪がそっと近づいて声をかける。
「……泣いてるの?」
「わからない。……でも、なんか、痛い」
青羽はふるえる声で言った。
「澪が、何も言わずに笑うとき、俺、わかんなくなるんだ。
“感情が欠けてる”のは俺の方なのに、どうしてこんなに怖いのか、意味がわかんない」
それを聞いた澪は、小さな手で彼の頬を拭った。
「それ、好きってことだよ」
「……なんで言い切れるんだよ。好きって、いつだって答えが曖昧なのに」
「そうだね。でも私、
誰かが“わからないままでも側にいたい”って思う気持ちの方が、よっぽど本物だって、
……青羽くんに会って、知ったんだ」
その瞬間、青羽の胸の奥で、何かがふるえた。
わからないものを“信じたい”と思った。
失うのが怖いと、初めて思った。