「“好き”が誰かを壊す時」
放課後。澪の机の中に、落書きされたノートが入っていた。
《青羽クンって変人が好きなんだ笑》
《告白されたから付き合ってるって、実験ごっこかよ》
《あの子、前もフってたくせに三条くんも使い捨てか?》
それを見た瞬間、心が沈んでいく音がした。
文字は、黒ではなく、薄い赤のインクで書かれていた。
──まるで、じんわりと滲んだ“怒り”みたいに。
澪は黙ってそのノートを閉じ、ランドセルの奥にしまうように鞄へ押し込んだ。
「こういうの、よくあることだから」
青羽は偶然それを見かけていた。
「それ、本当に“よくある”で済ませていいのか?」
「いいの。私は、“自分で決めて”こうしてるんだから」
その強がりが、痛いほどわかってしまう。
そして、青羽はふと気づく。
(誰かに何かを言われても、自分の“好き”に揺らがないって……
もしかしたら、“本当の好き”にいちばん近いのは、澪なのかもしれない)
一方、望月燈の視点:
「……ああ、なるほど。やっぱり人は、自分の物語を“傷つけてでも完成させたい”んだ」
彼女は廊下の隅で、ノートに落書きしていた同級生たちを目撃していた。
その一人がぼそりとつぶやく。
「三条先輩って、澪のこと絶対忘れてないよね。うちらには見向きもしないのに……」
燈は軽く首をかしげて、何も言わなかった。
でもその後、澪の机にこっそり、付箋でこんなメッセージを貼っておく。
「あなたの“選んだ痛み”は、あなたの強さになる。
でも、“無視する痛み”は、誰かを弱くするから気をつけてね」――望月より