「さよならは、嘘にしないために」
その日、放課後の公園で、僕は彩音と向かい合っていた。
彼女は、僕が今“付き合っている”はずの人だった。
──告白されたから、付き合った。
──期待に応えようとした。
──でも、どこかでわかっていた。
「青羽くん、顔に出てるよ」
「え?」
「私のこと、好きじゃないでしょ?」
僕は、言葉を失った。
彩音は笑っていたけど、その目は少し赤かった。
「ううん、ごめん。わかってた。ずっと、わかってたのにね。
“好きってなんだろう”って目で、ずっと私のこと見てたから」
「……ごめん」
「謝らないで。ただ……ね?」
彩音は立ち上がって、ふっと背伸びした。
涙を隠すように、空を見上げながら言った。
「君みたいに、ちゃんと“わからない”って言える人はね、優しいと思うよ。
だから、私もちゃんと終わらせたかったの。ありがとう、青羽くん」
その夜、僕は澪にメッセージを送った。
簡単な報告じゃなかった。
ただ、“共有したい”という気持ちだった。
「今日、付き合っていた子と別れたよ。
本当は最初から、うまくいくわけがなかった。
でも、今日の別れは……すごく、ちゃんとしてた気がする。」
少し間をおいて、澪から返ってきた言葉は、短くて、優しかった。
「それ、ちょっとだけ……心が痛いってことじゃない?」
僕は、思わずスマホを見つめたまま、黙ってしまった。
──たしかに、胸の奥がチクリと痛んだ。
それが、ほんの少しの“情”で、ほんの少しの“好き”のかけらだったとしても。
少しずつでもいい。
ちゃんと、自分の感情を育てていけたらと思った。