「好きって何?を、君と生きることにした」
卒業式まであと数週間。
澪と青羽は、少しずつ「ふたりでいる」ことが日常になっていた。
いつも通り一緒に帰って、一緒に黙って歩く。
それは恋人らしくもなく、友達以上で、でも名前のつけようがなかった。
ある日、教室の黒板にふと目をやった青羽がつぶやいた。
「“桜”って、咲くときも散るときも、全部きれいだよな」
「好きってのも、もしかしたら……結果じゃなくて、過程なのかもな」
澪は静かにうなずいた。
「私、最初は、“好きかどうか”をゴールにしてた。
でも、今は“好きってなんだろう”って考える時間そのものが、
誰かと一緒にいられる理由になってる気がする」
卒業式当日。
青羽は自分の第二ボタンを取られることもなく、ただ静かに教室にいた。
そんな中、澪がやってきて、言った。
「青羽。私ね、やっぱり今も“これが好きなのか”って確信はない」
「でも、君のことを、ずっと忘れたくないって思ってる。
それは、好きとはちがうのかな?」
青羽は、しばらく黙って、澪の目を見てからこう答えた。
「俺も、君のその“迷い”ごと、ちゃんと受け止めたいと思ってる。
だから、“好き”って言葉じゃ表せないけど──
君と一緒に、“好きってなんだろう”を生きていきたい」
その瞬間、澪が少しだけ笑った。
「ねえ。きっとこれが、私にとっての『本物』だよ」
ふたりは、桜の咲く校庭を並んで歩き出す。
周りがどうであれ、答えがどうであれ。
この先、何度でも確かめていけばいいと、思えたから。