プロローグ
かつてゼクターと呼ばれた英雄がいた。
魔物や亜人が張梁跋扈するアストレア大陸にて、人類を束ね戦乱を平定し、この地に秩序をもたらした。
軍備を整え、城塞を築き、新しい魔法を編み出した。そしてそれらの力であらゆる魔物を打ち滅ぼした。ここにアストレアの平和は築かれた。
しかし、束の間の平和に人間は堕落した。
享楽にふけり、戒律を破り、人の妻を犯した。そして再び相争いを始め、ついにアストレアは、再び戦乱の炎に包まれた。
もはや人類に絶望したゼクターは、魔界の扉を開いてすべての人間を滅ぼそうとした。
悪魔の軍勢が地上を覆った。そしてまた多くの人間が死んだ。
もはや人類の滅亡は確固たらんとするその時、名もなき英雄に討ち取られゼクターは死んだ。
人類は争いをやめた。そして武器を捨てた。再び束の間の平和が訪れた。
しかし、ゼクターの悪魔たちは、平和を望まなかった。
彼らは再び魔の軍勢を集めた。
位階第一位にして力の悪魔、ゼアルに率いられた悪魔たちは、名もなき英雄の後を追い、陸を越え北の海へ渡った。その途上にある人々の国を、破壊しながら。そして砂漠の国セルカンへとたどり着いた。
悪魔たちは、千の船と十万の軍勢を海に浮かべた。そして今セルカンを破壊せんと、進撃の喇叭を空に響かせた。
そのとき、突如、雲が割れ、大地の上に神が降り立った。
人の作り出した偽物ではない、真の神。
その神の名をエトといった。
エトが指を揺らした。それは赤子を撫でる母の指のようだった。
突如大地から突風が吹いた。海は荒れ、高い波が船を襲った。次々と押し寄せる波のうねりは、悪魔の軍団を攫った。そして魔の軍勢は、セルカンの大地に触れること能わず、海の底へと沈んでいった。
さらにエトは、太陽に向かってその両手を掲げた。そして呪文を唱えた。すると、空から眩しい光が降り注いだ。
憤怒の悪魔アフトバーンは、光に撃たれて死んだ。
地震の悪魔ガープは、光に撃たれて死んだ。
日照りの悪魔オミニスは、光に撃たれて死んだ。
色欲の悪魔イヌスは、光に撃たれて死んだ。
ゼアルは見た。エトの背後に、彼と同じ力を持つ8人の神が、ただなにもせず佇んでいるのを。
ゼアル達は北の大地を去り、アストレアへと引き返した。
その後悪魔たちは、人類の行方を巡って対立した。
ゼアルはただちに人類の抹殺を主張した。たとえ神の領域を荒らすことが叶わなくとも、ゼクターの遺言を忠実に守り、アストレアのすべての人類を抹殺しようとした。
階位第二位にして知恵の悪魔、アスタロスは、人類の保全と進化を主張した。彼は、人に知恵を授け、やがて人の力が神を越えたとき、はじめてその力を利用し、世界すべての人類を滅ぼすことができると主張した。
やがてこの二人は激突した。そして後者が勝利した。
こうして悪魔は偽の神、すなわちアルコーンを名乗り、人々の上に君臨した。




