決して振り返るな
夏のホラー2023投稿用です。
『ねえふーちゃん、助けてよぉ』
『ふー、体が痛いんだ。 どうなっているか診てくれないか?』
『文数、こっち来いよ。 遊ぼうぜ』
『安いよ安いよ! 今ならスマホの最新機種が買い替え割引で、なんと5000円! この価格は今から30分限定! この機会を逃せば大損だよ!』
「…………………………」
僕は文数。 オカルト知識を憶えるのが好きな、ちょっと内向的な男子学生です。
それで僕が今、どこにいるか……なんですが。
端的に言うと世界的に有名なサンドボックス型のボクセルゲームで、和訳すると低位置とか下の方とか訳される、荒れ果てた大地とか溶岩の海とかばかりの様な場所を歩いています。
『なんでお前だけ……』
『俺も連れてけよ!』
『死にたくない死にたくない』
『なんでオレだけ死んで、お前はまだ生きているんだ?』
打ち明ければ、地獄とか冥府とか霊界とか大霊界とかあの世と呼ばれる所です。
そこに敷かれた石畳の通路を、ひとりで歩いてます。
家族でバスツアーに参加してたのですが、そのバスが事故に巻き込まれてドカン。
言うまでもなくですが、バスの乗員乗客全てが命を落とす結果になりましたとさ。
死んだ直後には、自分の死を受け入れるためのプロセスってネタがある。
死を受け入れられなくて怒ったり喚いたり暴力的になったり茫然としたり。 そこから死者の魂を案内する者に、あらゆる手段で死を回避しようとしたりするってやつ。
驚いた事に、僕もそれをなぞっていました。
でも、でもです。
それで本当はこのまま死ぬだけだったのですが、僕はオカルト大好き人間。 抜け道を知っている訳です。
死を回避できる方法を知っていた訳です。
それで魂を案内する者と交渉して、家族でその方法を試させてくれとお願いした経緯です。
だから家族全員でその抜け道であるこの石畳を通っていたのだけど、僕以外は知識がなくてダメでした……。
一応、ちゃんと説明したのですが、みんなまともに取り合ってくれず……。
これ、オカルト知識を仕入れた事がある人なら、大体が知ってるアレですよ。
現世へ帰る道を、1度も後ろに振り返らずまっすぐ歩いて帰る。
って有名なやつ。
物語や神話では誰1人成功していない方法。
オルフェウスと言うギリシャ神話の吟遊詩人が大切な人を地獄から連れ帰るために、生きたまま地獄へ赴いて連れ帰ろうと“した”話は有名。
世界各地の古い話で似たような……あの世から生き返ろうとする話が有ることから、実在している可能性が……………いや、有るんじゃないかな〜と妄想していました。
本当に存在するかの確認は無理でしたが、まさかこうやって僕自身が実在の証明をすることになるなんて……。
まあ生き返れても、あの世から生き返れる手段があると証明する証拠は出せないので、誰も聞き入れてくれないでしょうが。
『どれだけ使っても使い切れないお金で、一緒に遊ぼう?』
『美味いものがいっぱい有るぜ?』
『そろそろ休まない? フッカフカで寝心地最高な寝具が有るよ』
『オカルト話で盛り上がろうぜ?』
………………くっ!!
生き返る方法は…………振り返るな! 絶対に振り返るなっ!
僕は生き返るんだ!!
様々な呼びかけや誘惑に耐え、前だけ見て地上への出口を必死に目指す。
僕は…………僕は………………!!!
『私メリーさん。 今、あなたの後ろにいるの』
「ひゃっほーぃ!! 生都市伝説だーーーーー!! 実体験できるなんて最高ーーーーぅ!!! ……………………あ」
振り返っちゃった……。
それはそうとして、このメリーさんの人形はよく手入れされていてキレイだなぁ。
この、あの世から脱出するために後ろを振り返らずまっすぐ歩くってやつ。
またはそれに類似した話。
成功者は1人もいないそうです。
オルフェウスは現世へ帰れたそうですが、彼は元々生者のまま冥府だったかな? へ赴いたのであり、死後訪れるはずのあの世からすれば異物である。
なので、そもそもとして死んでいないので、生き返るのに成功したと言えないそうです。
イザナギノミコトもそうですね。 黄泉の食べ物を食べていないので、黄泉への馴染みが無いので帰れました。
2023/08/22追記
主人公が生き返ろうと歩いている所で響く声は?
そんな旨の感想を頂きまして、ちょこっと解説。
自分の想定では生き返ろうとするモノを邪魔する、形無き亡者達の呼び声。
メリーさんは人形って実体があるし、主人公の名前を読んでいたのは身内の霊でしょう。
それら以外の声ですね。
ですが頂いた感想では、主人公の内なる声かな?
なんて感じて下さっていて。
じゃあどっちが正解なのと。
正解はどっちもです。
他にも正解は沢山あります。
作中で描写されないモノは伏線などであえて伏せられているものでない限り、読者様が受け取ったまま。 感じたままの情報が正解です。