ジャンケン
スーパーで特売のイチゴを買ってきた。
これを使って今夜はカプレーゼを作ろう。
ふたり並んでキッチンに立つ。
隣に立つひとは、綺麗な指先で器用にイチゴのヘタを取っている。
真っ白なTシャツの肩に、そっと鼻を近づけてみた。
お日様の匂いがした。
「何?」
「なんでもない」
このひとの瞳は、なぜこんなに澄んでいるのだろう。
まっすぐで嘘のつけない瞳。
この瞳で見つめられると、息が止まりそうになる。
イチゴと生ハム、モッツァレラチーズも準備オッケー。
緑の彩りは私の大好きなクレソン。
ソースを作りはじめて気が付いた。
ハチミツがない。
朝食のとき使い切ったことを思い出した。
ハチミツなしでも作れるけれど、
やはりちょっと甘みが欲しい。
「よし ジャンケンしよう。
負けた人が買いに行く。勝った人が洗い物。」
お日様の匂いはジャンケンが好き。
寒いし暗いし、朝からちょっと頭痛いし、
でもコンビニは歩いて3分だし。
渋々「うん」と頷いた。
負けたのは私だった。
「なんでここで負けるかな。じゃ、負けた人洗い物ねっ。」
「えっ?負けた人が買いに行くんでしょ?」
「なに言ってんの、負けた人が洗い物でしょ。」
「えっ あっ あれっ?」
Tシャツにダウンをひっかけ、スマホをつかむと
あっという間に玄関ドアをすり抜けて出て行ってしまった。
これが元カレだったら、夜道をコンビニまでとぼとぼ歩いているのは、
私だったに違いない。
調理に使ったボウルやまな板を洗う私。
負けた人。
気づけば鼻歌まじりの私。
負けた人。
勝った人は、こんなさりげない思いやりをさらりと示せるひと。
まだなんとなく残るお日様の匂いにぼうっとしていたら、
早くも外階段を上がって来るあのひとの足音が聞こえた。
あのひとこそ、これ以上ないパートナーだ。
なんとなく が
確信 に変わった。
ただ ひとつ
欠点をあげるとすれば、
あのひとが
わたしと同じ
女であるということ。