第94話 人型AIロボット
私は人型ロボットを作成したいと考えていた。
私とアリスだけでは心配なのだ。
骨格は中空の金属で人体と同じ構造とし、筋肉はシリコーンポリマーで主要な部分は全く同じように再現しておく。
そうすれば、裸の状態から見ても筋肉の盛り上がりが自然で人間に見えるだろう。
血管は要らないが偽装として皮下脂肪の部分にだけ再現しておく。
皮膚はシリコーン樹脂を使って内部に高粘度ジェルを10mm厚で入れて、防刃性能を高め、簡単に切断されないようにしておく。
手の指だけは精密な動きができるステッピングモーターを採用し、制御用CPUを手のひら部分に単独で入れて制御をする。
足の指は更に小さなモーターが必要だ。
逆に膝と大腿骨の関節部や、腰部には大きなトルクのモーターを入れ、筋肉に頼らずに基本動作ができるようにしたい。
四肢の制御は各CPUでおこない、空洞となる頭部、胸部、腹部に主要なCPUを格納しよう。
基本的に、CPUは魔法陣を主とする演算部、魔石をメモリーとしてBOX化する。
頭部CPUは目玉や瞳、口の形、頭の方向の制御を行うが、各CPUの総合的なバランスや、五感の感度調整と分析は各パーツにCPUを内蔵するものとした。
つまり、右目と左目で3D映像を作成してから頭部CPUに送るし、右耳と左耳で受信音響を3Dに変換して頭部CPUに送る。
胸部CPU-BOXは右胸部に4感器官からやってきた信号を取捨選択する魔法陣で、視覚、聴覚、嗅覚、味覚を処理する。
左胸部CPU-BOXは、四肢から来た触覚を分析し、体の姿勢制御を行う。右足、左足、右腕、左腕、そして、頭部。
最後が腹部CPU-BOXは戦闘術、魔法、会話内容の制御を行う。
基本構想は出来たが、これをひとつずつ具現化して行かなければならない。
私とアリサは、新しく用意した七曜ショコラ支部の屋敷で、2人で生活している。
船の設計や部品製造も、工場が出来上がる半年先になるだろうから、生活第1で設計や試作をしていて、充実している。
王国歴 261年6月
ついに工場が完成した。
小型溶解炉が複数作られ、様々な合金の試作がされている。
リバースエンジニアリングの手法、つまり、知識の指輪から現代日本の合金の種類と配合をダウンロードして、試作リストを作成し、溶解温度を無視した魔法による錬金を行うのだ。
すっかり忘れていたが、騎士団によるキョルトの古城跡ダンジョンの捜索が終わった。
そもそも、地下1階で当時の貴族達の遺品が長持に納められていたのだが、更に地下には、当時の上位貴族のアンデッドや、遺品がそこら中にあったそうだ。
最初こそ盾に槍という騎士団らしい装備で挑んでいたのだが、次第に魔力を付加した取り扱いやすい武器に変えていったそうだ。
回収された武具には貴族の紋章が入っていて、現存する貴族達に高い値段で引き取られていった。
既に途絶えた貴族家の武具は、現在では骨董品としての価値しかなく、大した金額では無いにしろ、騎士団のメンツを維持する金額にはなったらしい。
最下階は地下5階だったそうで、一度は男神のリビングアーマーの洗礼を受け、撤退したそうだが、再挑戦した時はリビングアーマーはいなかったそうだ。
無事ダンジョンを制覇した後、神官により慰霊の儀式が行われ、その後は単なる遺跡になった。
ショコラ宮殿の中庭で盛大に表彰式が行われ、無事に騎士団の解散が宣言され、一財産作った団員達は、満足して故郷に帰っていった。
だが、ショコラの貴族街は既に無く、ほぼ工業地帯に変身していた。
国王の命により、この地帯には住居は作れなくなったからだ。
機密だらけの工業地帯には昼間は入れるが、夜間は七曜商事の関係者以外は立ち入り禁止なのだ。
動いているのは偵察犬だけだ。
また人型AIロボットの機体改造も進んだ。
まず、皮膚が損傷した場合に血液が出るなどの偽装が施された。
涙や排せつも同様に可能としたのだ。
一方、重要な神経などの配線は骨格内部を通す事にして、切断が起こらないようにした。
また筋肉なども偽装できるような高粘度ジェルをシリコーン樹脂で成型し、関節駆動モーターが故障しても、実際に関節を人並みに動かせるように内部に魔石を入れて、魔力電池とした。
これにより、出力、反応速度ともに圧倒的なパフォーマンスを発揮できる人型AIロボットになった。
人型AIロボットのデータ量は膨大になるため、頭部はデバイスコントロールを主とし、本来、腸がある腹部にデータ格納を行う構造にした。
総合的な性能として、体重は50Kg程度で金属骨格。
心臓に相当する部位には魔石発電機を配し、馬力は不明だが人外のパワーを持っている。
更に私と人型AIロボットは情報共有し、近距離ではセンサー情報も共有する事になった。
これにより、AIロボットが複数体になった時、F-35のように相互のデータを利用して連携した動きができるようになるだろう。
これで魔力残量や飲料や食品分析の結果が即時に私に伝達される、いわば分身のような存在になったのだ。
しかしAIの触覚を共有するという事が、思いもよらない結果をもたらした。
私がAIに触れ、撫でるとその感触が私にフィードバックされるのだ。
触覚共有によりAIは、どこまでの行為が気持ち良く、どこからが痛いのか分かる理想的なパートナーになったという事でもあった。
もちろん、この事実は私以外には知らないし、今後、触覚共有を通常モードでONにする予定はない。
だがこの発見はタイミングが良かったとも言える。
なぜか…と言えば、アリスが妊娠したからだ。
高速哨戒艇の設計図や船外機の設計図は出来ているし、この半年は本当にのんびりと夫婦ふたりで生活をしていたので、そろそろ子どもが欲しいと、お互いに思い始めていたところだったのだ。
一方で人員不足になった。
王都の屋敷を閉め、屋敷にいたセバスとレナ、そしてフローレンスを、このショコラ支部の屋敷に来てもらう事にした。
この工業地帯は七曜の要塞みたいな場所になった。
関係者以外は夜間、入れないのだから。
王国歴261年10月
私も14歳になった。あれからの4か月で、AIは随分と人間の女性らしく行動できるようになった。
レナの仕草を見て学習したせいか、多少雑なところがあるが、セバスの指導のお蔭で偵察任務もできそうだ。
私と人型AIロボットは、戦闘訓練や機体改造、そして、本当の人間としての行動を身に付けるべく、訓練を重ねてきた。
おかげで大抵の料理は作れるようになったし、採取した成分別に分離したカプセルを、へそから排出できる体にもなっていた。
夫婦としての偽装活動も今や本当にお互いの皮膚の感触を、心地よい触れあいとして認識するまでになっていた。
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