第93話 高速哨戒艇
王国歴260年12月
エリオットを参謀部に派遣してから、シンシアと王太子と一緒になって内政問題に取り組んでいる。
偽領収書問題を解明し、中間で搾取していた町長やグルになっていた守備隊員を『王政をだます重大な犯罪』として市中で絞首刑にした。
その王都の処刑状況を電波塔にて各方面軍へ放送したうえ、通達で『自首した者には減刑』とする旨を王太子が放送。
もちろん、偵察機で農作物の生育状況を見れば、どこで不正が行われているかは一目瞭然なのだが、不正は割が合わないと理解させるのが目的なのだ。
これからの課題は、住民の登録だろう。
国民総背番号制の導入が鍵になる。
基本的に徴税は誰から取っても成り立つが、福祉政策のためにはバラマキも必要になる。
生前に10万円支給などを経験したが、電子的手段でギルドカードにポンと即日振り込んでくれるのが良い。
電子的なお金や銀行が機能している王国に次に必要なのは、コンピューターだろう。
研究課題はCPUだ。
簡単なところでZ80の量子版を作りたい。
私の知識には2進数の回路しか無いが、Z80CPUは5V駆動だから、0Vから0.5V単位で論理回路が組めれば、0から9までの10進数が扱える。
この8bitのZ80CPUでは、0を合わせて256種類の入力なのだが、これを10進数が可能なら、3bitで999までの入力種類が扱える。
106キーボードとか言うけど、999種類の入力が扱えるなら、どんな文字だろうと記号だろうとダイレクトに読み込みができる。
出力も3bitを1セットとして使うと、アルファベットだけでなく、実用的では無いが、ひらがな、カタカナも表示可能だ。
半導体は大きな回路図面を光学的に縮小露光して焼き付けていたはず。
同じように考えるとシリコンに電圧を扱える論理回路と魔法陣を書きこんで、これらの分子密度を凝縮するイメージで魔法を行使すれば、十分に1cm角のCPUにできるのだろう。
住民の基本台帳だから、背番号8bitだと0から9999万まで。
この国の人口が何人なのかは知らないが充分だろう。
名前は20桁か?性別、生年月日、ギルドカード情報、職業、そして付属情報だ。
親族情報、所有不動産情報、犯罪歴。
ギルドカードと連携できるなら犯罪歴はギルドカード側のデータを使っても良い。
CPUは入力された情報(999種類のもの)を、該当する属性情報として魔石に記録して行けば良い。
本人かどうかの判別は指紋が有効だろう。
これは画情報だろう。
私の扱う七曜の魔法陣では、中央の精霊エリアは使用できないが、周囲6つの命令が使える。
魔石に対する入力、検索、出力、画情報の比較。こんな物だろうか。
キーボードと魔石メモリーを内蔵したCPUボックスに、ファン式摩擦静電気発電器、ディスプレイなどを作ろう。
約1週間で錬金術を使って作った。
この住民登録セットを、王都、東方方面軍、南方方面軍、鉱山駐在所、北方方面軍に配置して、治安部隊である守備隊が集めてくる住民情報を入力していく事になった。
問題は旧王都ショコラだが、マリリン親子とジャック、ターニャの住んでいる貴族屋敷の近くに七曜商事ショコラ支部の屋敷を作って、ここでショコラの住民登録を行う事にした。
物件確保の事もあり、ショコラの冒険者ギルドまで、アリスと一緒に装甲車で移動する。
いつもと同じく、ギルド側の厩舎に装甲車を預けて、ギルド受付でギルマスとの面会を求めた。
どうも装甲車が見えた時点で用意はしていたようで、すぐに3階応接室に通される。
「お久しぶりです。ダニエルさん」
ダニエル「お待ちしておりました、カール様、アリス様。今日はどのようなご用件でしょう。」
「王立学園も卒業したので、本格的にレビューの港町の開発と、鋼鉄船の開発を始めようと考えてまして…。」
ダニエル「ようやくですか…ありがたい。」
「そこで現在所有している貴族屋敷に近い場所に、七曜商事のショコラ支部を開設したいので、支部用の屋敷を1つ。それと、あの貴族街には線路が走っていますね。その線路に隣接した土地を150m×150mほどを確保したい。」
「場所がある程度見込みが出来たら、国王様に承認を頂きにいきます。」
ダニエル「この広さの土地なら、代替屋敷を用意して移転をしてもらわないといけないかも知れませんね。」
「場合によっては、騒音のうるさい線路際を450m×50mでも構わない。これだと是非移転したいと言う所有者の方もおられるでしょう。」
ダニエル「では、その案を第2候補として土地の選定を行いましょう。」
「2つ目だが、この土地で工房、製鉄所を操業する事になる。ついては、ギルドで管理、運営をしてもらいたいのだ。」
「具体的には線路から引込線という線路を自前で引いて、北方からは木材や石、王都からはセメントや樹脂、鉱山からは鉄鉱石などを、ここに運び込み、製鉄所や工房で船の部品に加工する。」
「設計や材料の手配はこちらでするが、実際に運び込んだり、鍛冶師や木材加工をする職人の雇用や賃金の支払いなど、労働者たちを集め面倒を見る必要がある。この工場の幹部については機密漏洩防止のために、七曜の社員になってもらう。もちろんギルド職員と兼務で構わない。」
ダニエル「つまり、鉄工所や工房などの工場をギルドで経営しろという事ですか?」
「その通りだ。月単位でも週単位でも構わないから費用を七曜に請求してもらいたい。七曜商事は、製造してもらいたい品物の設計図と原料を手配してギルドに注文する。ギルドは注文された品物を作る職人を手配し、賃金を払い、完成品を納品する。」
ダニエル「どれほどの人数の職人たちが必要になるのでしょう?」
「さあ、わからんな。小人数だと日数が掛かる。多人数だと早く出来るが管理が大変だ。まー親方クラスを雇ってきて、その者に職人の規模を決めさせれば良いだろう。とにかく、最初は小型船からだ。」
ダニエル「でも、どうやってレビューの港町まで運ぶおつもりですか?」
「港町に組み立て工場、いわゆるドックという工場を作って、そこまでは鉄道を引かなきゃいけない。この鉄道も国家事業だな。鉄道ができるまでは車で運ぶさ。」
ダニエルには想像できない物ばかりで、現実的な話には思えないだろうが、まずは土地の確保だ。
3日ほどして、候補地が決まり、貴族屋敷に住んでいる者は立ち退き料をもらって移転して行った。
住んでいたのは全て商人達で、貴族屋敷は実際には売り払われていたのだった。
そのように、もめ事も無く土地の確保もできて、宰相からは『国王の裁可が降りた』と回答をもらった。
結局、線路沿いの450m×50mの工場用地を確保した。
さすがに150m級の大型船を作る必要はない。
貨物列車の台座を使って港町まで運搬するのだから、最長で20m単位にしなくては運べない。
製鉄所や港湾の組み立てドックはまだ先なのだが、設計プランだけは考えた。
米軍が使っていた高速哨戒艇CR-34を模倣した船を作ろうと考えたのだ。
全長約10m、幅約3.7m、エンジンは船外式を2基、後部に銃座を2基据える。
時速は60kmほどを考えている。
船外機の構造を指輪の知識から得て、大きく書いた図面をアリスに渡して試作をお願いする。
要は今あるエンジンの駆動力を離れたプロペラに伝達する方法に工夫が必要なだけだ。
エンジンは拡大率を変えるだけで、構造を何種類も増やすつもりはない。
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