第90話 配給肥料の不正調査
参謀会議、それは王太子、シンシア、エリオット、カール、アリスの5人で考える会議だ。議題は肥料配給問題。
カール「まず、肥料配給元はどこの部署ですか?」
「……」
カール「王太子、あなたに聞いているのですよ。」
王太子「えっ、そうだったのか…すまん、どこだシンシア。」
シンシア「王宮の配給倉庫です。」
エリオット「倉庫?そこはどこから指示を受けるんです?」
シンシア「執務棟の財務官です」
エリオット「財務官という事は、納税名簿を基に配給リストを作っているのですか?」
シンシア「そうです。どこに、なんという名前の農家がいるのか誰も知りませんから…」
エリオット「それで、倉庫はどうやって配れたのか確認するのですか?」
シンシア「受領書です。」
カール「誰の受領書です?」
シンシア「えっ、納税者つまり農家の受領書です。」
カール「農家の名前を知らないのに、農家がサインしたと分かるんですか?」
シンシア「……」
カール「肥料には誰宛か書いてあるんでしょ?その人の名前をサインすればOK?もしかして、全て同じ人の筆跡でもOK?」
シンシア「筆跡ってなんですか?」
これはダメみたいだ。皆で配給倉庫へ行く。そして、今年春の配給受領書を見る。
カール「王太子様、シンシア少佐。このTの字と、このTの字全く同じですよね?こんな風に、字にはどうしても個人の癖が出るのです。これを『筆跡』といいます。」
デリンジャー「なるほど」
エリオット「じゃ、行きましょう。」
そう言って、軽装甲車で前に私とアリス、後ろにデリンジャー、シンシア、エリオットが乗り、王都近隣の農家を訪ねる。
エリオット「今年、肥料を受け取りましたか?」
農民「はい。良く育つ肥料だけに取り合いになるそうだねー。うちは手に入ったよ。値段は今までよりも少し下がったみたいだねー。助かったよ。」
さて、参謀本部に戻ろう。
エリオット「まず作戦ですが、肥料が配給で無料なのに費用を請求しています。それに違う人なのに、サインの筆跡が同じ。これらに対応する人、管理者がいないのが問題です。どうすればいいと思いますか?王太子」
デリンジャー「どうやって犯人を捜せばいいのか全く分からない。」
シンシア「調査チームを派遣して…」
カール「違います。これは治安の問題です。国防の問題ではありません。つまり守備隊の管轄です。」
エリオット「守備隊の統括責任者は誰です?」
シンシア「市長だったり、町長だったり…」
エリオット「自治体の責任者ですか…。市長や町長を任命、指名しているのは?」
シンシア「宰相です。」
エリオット「内政の責任者って事か…。だったらそのルートで攻めましょう。」
明日、宰相閣下から、『配給肥料の横領、転売などの不正行為が発生している。各自治体責任者は、その責任において、不正行為を取り締まり、守備隊に今後の配給肥料の管理、運用を行うように指示せよ。』という命令書を発行してもらう事にした。
そしてシンシアは、どの地区に何と言う農民が居て、守備隊の誰の管轄かを農民ごとに名簿にして提出させるように、規則を定めて、公布するように提案した。
王太子には、バギー車を1台渡して、各町や村に行って守備隊本部を訪ね、実行を後押しするように激励してきてほしいとお願いしておいた。
人が足りないなら騎士団をやめた人間を、調査官として雇えばいいとも提案しておいた。
今回の対応会議で事前に打ち合わせはしておいたものの、エリオットの優秀さが認められた。なにしろシンシア少佐よりもエリオット副官の方が優秀なのだ。
今回の遠征は、ショコラ王宮に操作指導のために向かう予定だ。鉄道が開通したため、フエキ駅~フェドラ駅~ショコラという遠回りであっても車酔いもなく快適に移動ができる。
ショコラ駅へは迎えのバギー車がやって来た。
やはり一度バギー車に乗ると、タイヤのふわふわした感覚は楽しく、乗り心地もよく、近衛隊の兵士に訓練させたみたいだ。
王宮に向かう2人。
無地の戦闘服に付いた七曜の紋を見て、守衛は敬礼をしてくれた。
噴水の向こう側が入口だ。
通信施設は談話室を改造して設置し、カメラ映像は360度回転させて市内全域を見られるようにしてあった。
屋敷との通信テストを終えて、王族の方に操作説明をした。
ショコラのカメラ、参謀本部と案内が呼び出せるスイッチャーを設置してある。
案内とは七曜の屋敷を呼び出す機能だ。
方面軍各所はカメラ映像を見る事はできるが通信室を呼び出す機能をオフにしてある。
命令系統は参謀本部からだけなのです、と先に説明しておく。
参謀本部の呼出ボタンを押す。
シンシア「はい。参謀本部、シンシアです。」
「お疲れ様です。こちらショコラ王宮です。王太子は居ますか?」
シンシア「いえ、配給肥料不配の調査にお出掛けになっています。」
「了解しました。では。」
そう言って、マイクのスイッチを切った。
すると自動的に監視モードの人口眼球NZの画面に切り替わり、夕暮れのショコラが映し出された。
アンジェラ姫に操作パネル前の席を譲り、王族の皆さんから見えるように『案内』ボタンを押すと、監視カメラ映像はそのままで、自動応答メッセージが流れる。
ターニャの声だ。
自動応答「はい。こちらは緊急通信網、案内担当でございます。只今、案内担当を呼び出しております。いましばらくお待ちください。」
ターニャ「カシャ お待たせしました。操作案内係でございます。如何なさいましたか?」
姫「いえ、テスト通信です。えーと、湖の町の景色は見られるのかしら…」
「はい。スイッチャーという機器はお分かりになりますか?」
姫「はい。」
「機器の2段目に緑に光るボタンがございます。そこに『バルナ』と書かれたボタンが湖の町のカメラ映像です。但しボタンが赤色に光る時は、何らかの不具合が発生しており、見る事ができない状態ですので、ご承知ください。」
その説明で理解したようだ。
姫「分かりました、ありがとう。」
そう言ってマイクのスイッチを切り、ショコラの町の風景を見ている姫。この画面はどうやって消せばいいの?
「机から離れると、自動的に切れます。」
意外とそれが身近な存在になると、それほど面白いものでもないのだ。
皆さん一様に興味を失ったようだ。
前回泊まった宿に行き夕食を食べていると、冒険者ギルドのダニエルさんがやって来た。
「やあ、ダニエルさん。先日は用地買収の件、お世話になりました。」
ダニエル「いや、こちらこそ。てっきり七曜に取られると思っていたけど、妥当な金額で国が買い取ってくれたよ。」
「そうでしょう。今回はちょっと別の用事で来たんだ。今度、もう少し話せる時が来たら、話をしにいくよ。」
ダニエル「お待ちしています。」
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