第88話 電波塔
翌日、朝から旧王都行きの列車に乗って、キョルトの王宮の談話室を通信室に作り替え、机を配置しポールを立て、ディスプレイにカメラ、マイク、スイッチャーを取り付けた。
鉄塔を立てていくのだが、この地は高い建物もあり、塔も15mくらいになった。
幅広く鉄骨を組み、先端が避雷針、最上段にはパラボラ式アンテナ。
中段が全方向八木アンテナ、下段がケースに納めた『人口眼球NZ』だ。
屋敷とアンテナ調整をし終わって、急遽、宰相とシンシアを呼び出した。
本来は明日と言っていたのだが、まだ昼前というのに、完成してしまったからだ。
「宰相閣下、シンシア少佐、急にお呼びして申し訳ありません。予定より早く完成しましたので、少し機能説明をさせて頂きたく。よろしいでしょうか?」
宰相「うむ。かまわん。」
「では、現在ディスプレイに表示されているのは、この通信室の鉄塔に取り付けてあるカメラの映像です。鳥魔法と違い、誰でも見る事ができます。」
「本来、ディスプレイが1つしかありませんから、1ヵ所の映像しか見られませんが、今回はこのスイッチャーで、すべての拠点の映像が見れます。」
そういって、スイッチャーを操作すると、各拠点のカメラ映像が見える。
東の森上空、湖の上空、鉱山町の鉱山入口。白黒映像だが、鮮明に状況が見えている。
宰相閣下に机に座ってもらい、スイッチャーの呼出ボタンを押すと、鉱山町の王国軍連絡事務所の通信室が映し出されて、室内にブザー音が鳴っているのが分かる。
応答を待つ。
単に目の前のスイッチを入れるだけなのだが、右往左往しているのが見て取れる。
宰相「はっはっは。愉快、愉快。」
「では、こちらからマイクのスイッチを入れますので、宰相は『マイクのスイッチを入れなさい』と教えてあげてください。どうぞ。」
そう言って、マイクのスイッチを入れた。
宰相「マイクのスイッチを入れなさい。目の前にあるであろう。」
連絡事務所の人がスイッチを入れると、音声が聞こえてきた。
宰相閣下の顔を見て、敬礼をしようとして机に腕をぶつける隊員。
笑いが絶えない中継となった。
全ての拠点と初めての通信テストを終え、スイッチを切る。
「このスイッチャーという機械は、この王宮と参謀本部にだけ取り付ける機械です。これを使って、すべての拠点の外の様子が把握できて、その場で通信室の隊員と相互の通話ができるのです。瞬時にその場所の状況を把握する。それは参謀本部の機能であり、宰相の必要とする機能だから、王都に戻す。そういう事です。」
宰相「すさまじい能力だな。まるでその場に居るような事ができる。参謀本部を王都に移転する意味は理解した。」
「そして、なぜ王宮をショコラに戻すのか、と言えば、将来構想ですが、漁村リビウ村を港湾都市にしたいからです。リビウから他国の人々がやって来る。それを迎えるのがショコラです。せっかくの王宮が勿体ないのです。」
宰相「なるほど…。共和国は既に船を開発している。それは事実だ。いずれはわが国も船は必要になるのであろうな。」
「問題が一つ残りますが。」
宰相「騎士団だな?」
「はい。騎士団の方々については、ここキョルトを拠点にしてもらおうかと思っています。その理由は、古城跡がダンジョンになっているからなのです。」
宰相「なんと、キョルトがダンジョンになっているのか?だが、なぜそれを知っておるのだ。」
「鉱山町イワノフからショコラに向かう途中で立ち寄ったのです。1階はすでに見てありますが、その先はまだですし、なにやら過去の貴族たちの宝物が残されているとか。」
「ショコラには既に騎士団エリアはありませんが、ショコラからキョルトへ通う事は可能な距離ですし、キョルトは人の住んでいない家ばかりですし、騎士団の方々はほぼ貴族。実家からメイドなど身の回りの世話をする者は手配できるでしょう。どうです。」
宰相「つまり、騎士団の使命として、過去の騎士の無念を晴らし、ダンジョンを征服せよ。と言うのだな?」
「はい。それが怖くて嫌なら騎士団を辞めればいいのです。」
宰相「おぬしに掛かれば、逃げる事も叶わぬか…。」
「王族方には、納得しだい移動頂き、参謀本部は王宮が空いてから移動して頂きます。但し、研究所は移動した場所のままです。つまり、参謀本部は王太子と王国中央軍、そしてシンシア少佐とエリオット副官が情報部として在籍するという構想です。」
「宰相閣下の裁可を頂けましたら、早速にも王都の王宮にもこの設備を設置しますが、現在、更に偵察機なるものを開発中でして、それが完成しだいに王族方には説明をさせて頂きます。」
「シンシア少佐とエリオット副官にはご不便をおかけしますが、それまではここショコラ王宮にて、情報部の活動をお願い致します。」
この日、研究所が王都に戻り、カトリン士長とクラウディア士長は機器の設置を含め、職員とともに肉体労働をしていた。
ただ、官舎は綺麗だし、王都の都会暮らしは彼女達には歓迎されていた。
元々勤務地はここだったのだ。
いきなりど田舎のフェドラ村勤務になり、詐欺にでもあった気分だったのだろう。
みな一様に明るい表情であった。
フェルマ食堂も再開され、ご主人のロバートさんも用務員として雇用された。
設立当初と異なるのは、参謀本部の立体図と建設工事を担当している魔術師達が北部方面軍横の本部官舎に残されてきた事だ。
何でも、鉄道の2期工事、3期工事に向けて魔術師達は更に人員を強化し、工期短縮を図るらしい。
名称は研究所だが、最近では、有刺鉄線、セメント、線路、コンクリート製枕木、肥料などの戦略物資に加えて、鉄道車輛(客車、貨物車)の部品製造も一部任されている。
クラウディア士長とカトリン士長については、鋼鉄剣、鍛造剣、クロスボウなど銃を除く重要武器の製造もできるようになって、収入は格段にあがったそうだ。
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