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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第1章 カルバン王国
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第85話 少女フローレンス

夜の部、スタートです。

今日から、毎日10話投稿で、第1章は120話までにしています。


戻ってきた方面軍兵士に『向かいの庭に敵の死体があるから』と、回収をお願いして、私は荷物を持って、2階の部屋に戻る。


タブレットには、銃の発射音の前後10秒間の映像が残されるように設定してある。その発射前の映像をフローレンスに見せると、この男が自分達をつけてきた人だと言った。


犬から見た犯人は、角度がより下からになるので、吹き矢を撃つために屋根から顔を出した時しか映っていない。


それでも街灯の光に映る顔は、高感度カメラが捕らえた映像であり、肉眼で見るより鮮明だった。画像処理の自動ゲインコントロールは適正範囲に効いているようだ。


東方方面軍の視察のつもりだったのだが、偵察犬の実践テストになって、思わぬ収穫を得た旅となった。緊張が解けたのか、フローレンスはベッドで少し仮眠を取り、我々も服を着たまま、仮眠を取った。



朝になり、屋敷は慌ただしくて騒がしい。フローレンスにも七曜の戦闘服に着替えてもらい1階に降りる。


朝食を3人分出してもらい頂くが、町長の屋敷は途中の村とは違い、野菜が豊富に出てくるのは、肥料が届いている証拠だろう。


なぜ途中の村には届いていないのだろう。


食事を頂き庭に出ると、方面軍兵士が10名ほど庭に来ていた。隊長と副隊長も来ていて、階級章は横線1本に星ひとつ。ともに3曹のようだ。


『カシッ』


10名全員が敬礼をして、私も敬礼を返す。


隊長「おはようございます。東方方面軍隊長を拝命頂いております、アンドレアと申します。」


副隊長「おはようございます。同じく副隊長のマチルダと申します。」



「七曜のカールです。本来は東方方面軍を視察するつもりだったのだが、ここで共和国の魔術師が殺され、その犯人と思われる者から毒針攻撃を受けた。犯人を射殺したが、所持品など確認してくれ。」


「それと犯人の似顔絵を作成して、南部方面軍へ送り、高級宿の料理人に見覚えが無いか確認を頼む。他に怪しい人物がこの町に来ていないか、また、犯人がここへ来るまでの足取りも探ってほしい。詳しい報告書は宰相閣下へ提出してくれ。」


「以上だ。」


隊長「了解しました。おい5名ほどで手分けして、まずは周辺の捜索と聞き取り調査だ。」


副隊長「はい。」


「うむ。頼む。では悪いが、我々は王都へ帰還する。また、改めて視察に来るから、その時は、よろしく頼む。」



そう言って、3人で軽装甲車に乗り込んで、屋敷を後にした。


途中で魔術師とフローレンスの荷物を隠しているという場所に寄り、回収する。

中々に用心深い。


それなのになぜ、あの場で共和国の魔術師の服など着ていたのだろうか。この考察は屋敷に帰ってからだな。




帰り道は、ハリコフから王都まで、直線的ではなく、ロープが垂れ下がったような南迂回ルートを通って戻った。


途中で3時間ごとに休憩を取り、肥料を配りながらの旅をした。

最後の50kmは暗くなってしまい、ライトの魔法を3個先行させて進んだ。


屋敷に到着したあと、自律神経を整える漢方茶を飲み、お風呂に入って、やっと眠れる状態に回復した。車に長時間乗ると毎回この調子だから…と言っても、他に方法はない。




翌朝7:30分、朝食にアリスと一緒に寝たフローレンスも来ていた。

今日はこのあと、2階応接室でフローレンス自身の今後について話し合う事になっていた。


朝食後、応接室に入ろうとすると、アリスが作戦室に誘導する。


昨夜、フローレンスから色々聞いた話をしたいとの事だ。


作戦室はこの国の全景が立体で分かるように土魔法でミニチュアが造成してある場所だ。アリスが指し棒で


アリス「フローレンス、昨日言ってた家って、どの辺?」


フローレンスに指し棒を渡してあげると、少し考えてから、何もない場所を指して言う。


フローレンス「家は、このあたり。帝国南部です。家から国境を越えて、共和国に連れて行かれて、ここを通って首都に入って…、それから湖を渡って山に登って…」


そこでやっと、鉱山町のイワノフに出てきた。


フローレンス「ここから、こう来て、ここを通って、昨日の所へ行ったの。」


イワノフからオルゲイ、そして湖の町バルナ、王都経由でハリコフに着いたのだ。

つまり、そのまま国境の森を抜けて、帝国へ行くつもりだったのだろうか。


「そのまま帝国に行くつもりだったのか?」


フローレンス「いいえ、魔術師の人が、この国の要人の方を知っていて、その方に王都で会うと言っていたんですが、結局、その方からは何の返事もなくて…、その時に教会に現れたのが、あの犯人の男だったんです。」


「君達は王都の教会にいたの?」


フローレンス「いいえ、魔術師の人は、その侯爵様にお会いすると言って、きちんとした宿に泊まっていましたが、私は危険が及ぶといけないからと、教会に隠れていたんです。」


フローレンス「そして魔術師の人が、『侯爵と会えないなら帝国に逃げよう』と言って、あの東の森ハリコフへ行ったんです。」



「君のお母さんは?」


フローレンス「母の名はフレア、教会の神官をしていました。でも、共和国の兵士が訪ねて来た時、母が私に『何があっても出てはいけない』と強く言って、それきり戻らなかったんです。何日か隠れていましたが、食べ物も無くて…」


フローレンス「裏の畑に出たとき共和国の兵士に捕まり、私も共和国へ連れていかれそうになったんですけど、馬車が帝国の国境警備隊に見つかって、戦いになっている間に、馬車から逃げ出して。」


フローレンス「夜になるのを待って、近くの教会に逃げたんです。助けてくれた神官さんは、私も何回か会った事があって。その神官さんの話ではお母さんは首都に連れて行かれたのだろうって言っていました。」


「それで、どこで共和国軍の魔術師と知り合ったの?」


フローレンス「違います。共和国では魔術師は教会の所属です。例外はありますけど軍隊は男だけなんです。」


「それじゃー鉱山で見つかった2人の魔術師は、全て教会所属の人だったのか。」


フローレンス「他の魔術師の人達も鉱山から出て来たんですか?」


「いいや、鉱山の内部で2人の魔術師の遺体が見つかったんだ。落ちて来た穴の上にクレバスを発見したけど、それ以外の人が居たかどうかはわからないんだ。なんと言っても共和国側の山の中腹だからね。」


フローレンスは、『わっ』と泣き出してしまった。


何でもその人達も、自分を逃がすための協力者だったそうだ。


共和国では冒険者に扮したスパイがこの国の情勢を頻繁に探っていて、今回の鉱山ルートも彼らからの情報だと魔術師の女性は言っていたらしい。


鉱山坑道ルートは雪山の中腹で凍死、クレバスでの滑落、坑道での生き埋めというリスクがある代わり、南方方面軍に見つからないルートとして選ばれたそうだ。


そして、我が国のお金を得るためにイワノフで印籠を売ったそうだ。



そう言えば、帝国でフリアノン女神を崇拝する教会が出来たのち、その教会を誘致したのが、あのジョージ侯爵だそうだ。


だから彼女の言う侯爵とは、ジョージ侯爵の事だろう。

だが、なぜ面会を拒んだのだろうか。

やましい事が無いなら『教会関連の繋がりで』と正直に言えば良いのに。



「本題に戻そう。確かにこの国は外国に関心がない分だけ、野心がなく安全と言える。とりあえず、この屋敷に居てもらうとして、年齢はいくつですか?」


フローレンス「この5月で11歳になりました。」


「それじゃ、目立たないように、環境に慣れるまでは外出をしないでね。ほとぼりが冷めれば、外に出られますからね。」


侯爵が絡む事案では、国の機関は全くあてにならない。

つまり、王族の誰にもフローレンスの事を話す事はできないという事だ。


「しばらくこの屋敷で勉強と、身の回りの事をできるようにしよう。」


そういって王立学園の教科書を手渡した。




お読み頂き、ありがとうございます。

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