第83話 マリリンの双子
今日のお昼は、本当にあった悲しい話が含まれています。
は~ご注意下さい。
王国歴260年5月1週
マリリンが里から『双子の赤ちゃん』を連れて戻って来た。
私は大いに驚いたのだが、セバスは知っていたようだ。
里では『大手柄』という事で、彼女は一気に重要人物になっていた。
彼女は『母神』という加護を持っていて、自在に排卵を制御できるそうだ。
1年前の5月の夜、私が初めて主導権を取ったあの夜に、マリリンは私の訓練の終了を決め排卵し妊娠したそうだ
彼女の『母神』という加護により、順調に育って2月初旬に男と女の2卵性双生児を出産し、今は3か月だ。
彼女の要望も聞いたうえで、セバスが旧王都の貴族街に中古の屋敷を買い、補助の人員としてジャックとターニャを付ける事になっている。
従来ジャックが担当していた御者などもレナが学園から戻っているので問題はない。
マリリンは、アリスが子供を産んだ時には、育児を教えてあげるとも言っている。
母神の加護は、子供の育児にも効果を発揮するらしい。
それにしても、私の子供という扱いでは無い。
私の精子によって誕生した子供であっても、婚姻関係の無い女性が産んだ子供の親権は、母親にあるようで、マリリンの意識は母系社会のルールのようであった。
それが里の伝統的な価値観なのだ。
寂しそうな私の表情を見て、セバスはいう
セバス「そう気落ちする必要はないでしょう。そもそもマリリンが双子を手元から離さないつもりなら、王都に戻って来なかったでしょうし、ジャックやターニャを欲しがる事は無かったはずです。5歳まで生きる事ができた時、カール様に『名付け』を求めて来ると思います。」
その説明を聞いて、初めて今まで何気に行っていた『名付け』の儀式の意味を理解した私だった。
あれは『あなたに仕えます』という意味だったのだ。何となく、そんな意味だろうとは思っていたのだが、それほど重要な意味を持つ物とは思わなかった。
それにしても、マリリンとの夢の中の行為は、加護による『恐怖心や羞恥心を軽減する』ためのもので、過去には王族の性教育に使われたそうだ。
本人にとっては夢のようだが、実際にその行為をしっかり行っているそうだ。
道理で気持ち良かったはずだ。
夢ではあるが、マリリンとの性行為で常に騎乗位で最終段階を迎える屈辱を晴らすべく、ただ一人前の男に成りたかっただけだったのだが、マーガレットの屋敷の大きな浴槽での刺激により、現実のまま性行為に及び、一矢報いた気持ち良さは今も忘れていない。
あの時、確かに私は『一人前の男になった』という実感が持てた。その結果が父親とは…。
だが、その双子を私の正式な後継者にする事はできないらしい。
七曜という国家級企業の後継者にするには、正式な妻との間に生まれた子供に限られるからだ。
だがマリリンは8歳年上、それはこの社会では王家の娘が婿を取る時以外には、あり得ない事だそうだ。
双子に重要な事業を任せる事はできる。
いわゆる七曜の幹部には成れるし、母親から引き離す必要もない。
この社会では、できちゃった婚による権力の奪取を許さない暗黙のルールがある。
後継者にしないなら、このルールに反する事もない。
もちろん私はマリリンの合意なしに、双子の親権を奪うような事はしない。
双子が常にマリリンと共に暮らせるようにするつもりだ。そう言えば、生前の世界では強引に子供を奪う事件が周囲では起きていた。
日本人女性が、中国から来た実業家の青年から熱心にプロポーズされて結婚した。
この男性の両親は中国でも資産家だと聞いていた。
中国の各地方にマンションを有しており、全く経済的には困る事はない。
そんな家の息子が日本で事業をしたいと、日本国籍の女性を求め、彼女の名義で会社を設立し、事業が順調に進んで男の子が生まれた。
事業主を男性に移し、しばらくして彼は幼い子供を連れて中国に帰ってしまう。
いつの間に子供のパスポートを得たのか、妻は知らなかったそうだ。
とにかく、中国に連れ帰った子供の消息が知れない。
そこで会社の重要な物を妻が確保し、子供を連れ帰らなければ、事業の継続ができないようにして、交渉を進めたのだが、裁判は中国で行われ、結局、負けてしまう。
5年ほどして息子に会えたそうだが、既に息子は中国語しか話せなくなっていたし、母親という認識も、もちろん持っていなかった。
祖母と祖父に育てられたそうだ。離婚した夫が言うには、中国では子供が一人しか持てないのに、できた子供は女の子だったそうだ。
つまり、新たな子供を得るために、中国で離婚して日本に来た青年だったのだ。
その計画のために、祖父も祖母も積極的に協力したそうだ。
その元夫は言う。『日本で庶民として生きるより、中国で金持ちの息子として生きる方が幸せに決まっている』と。
この話を思い出した私には、この世界の常識に合わせようと思うしかなかった。
私は今、通信機の受信側の制作に取り組んでいる。
風魔法により魔石から受信データを取り出し、2進数4bitデータから明るさ信号に復調できたのだが、表示装置が無い。
LEDは、発光するので見やすいのだが、色ごとに材料が異なるようで作りづらいし、私は扱った事が無い。
そこで、なじみの深い液晶パネルを作る事にする。材料が単一で作れるし、色表現は今後の課題としよう。
明るさの度合いは、4bitだと16階調の表現ができる。
だが、電圧を各素子で変化させる事は難しいので、画素を細かくして、面積階調表現を使うことにした。
これだと4bitのデータをそのまま使えるという利点もある。4×4を1画素として扱うのだ。
表面に凹凸の無いガラス板に、透明電極を薄く貼り、画素ごとに切る。
炭素ナノチューブで接続後、液晶を薄く広げて、再び電極とガラスでサンドイッチにする。
これを偏向フィルムと衝撃に強いガラスで挟んで、出来上がり。
白黒だが、どの程度見えるだろうか。
モニターにも表示用電圧として、風力小型静電発電器、魔石メモリー、風魔法陣、風魔石を採用した、魔法と電気のハイブリッドタイプだ。おそらく今後の製品の主力になるだろう。
アンテナ装置は八木アンテナを採用した。
簡単な構造ながら感度が良いのだが、指向性も高いため、左右に少しずれると信号レベルがガクンと落ちる。
そこで、16方向にアンテナを単独に引き、アンプで信号を増幅して、最大出力のアンテナに自動的に切り替わる方式とした。
さて、テストだ。昼間屋敷の周辺を偵察犬1号が『捜索モード』で動いている。
昼間の明るさでは、瞳の採光シャッターは3分の1ほどしか開いていない。
敢えて屋敷から音を立てるが、音を拾うけれど、視線に影響はしない。
(プログラム変更だな…メモメモ)
何のトラブルもなく、ひたすら屋敷の周囲をぐるっと回るだけ。
そう思っていたところ、エリオットがさくらになり、街道から屋敷方向に歩いてきた。
偵察犬は、屋敷の影からじっと見ているが、隠れるという仕草ではない。
玄関前まで来たエリオットに対して、ただじっとその様子をみているだけの偵察犬。
まだまだ不自然だな。とりあえず、今日はここまでにした。後はアリスにお任せした。
お読み頂き、ありがとうございます。




