第82話 偵察犬
屋敷に戻って来て、CCDの生産を再開した。
私はバカだ。
丁寧にという思いが強すぎて、1素子ずつ作っていたが、感光層下部の半導体部分は、シリコンSi+リンPのN型を一気に作ってから、1素子毎の境界線から不純物を取り除き、その上にシリコンSi+ホウ素BのP型を形成、1素子毎の境界線を一気に引けば良いのだ。
更にシリコンSi+リンPのN型を一気に作ってから、再び境界線を引く。
これでNPN型半導体が作れるのだ。とは言っても機械でなく手作業(魔法)だけどね
。この方法でCCDを1週間で1個作る事ができた。
このCCDを円形のボール内部に貼り付け、炭素チューブの配線をシリコン内を通して外部に出す。そして、人間の水晶体の代わりにズームレンズを入れて、円筒を形成し、対物レンズを嵌め込む。
フォーカスは、画像処理による自動調整を採用した。
これは焦点が合っていないと像がぼやけ大きくなり、逆に焦点が合うと像が最も小さくなる原理を使って、CCDに出力される範囲が最も小さくなるようにすればいい。
今回も魔力ではなく電気が必要だが、電圧だけあれば良いので摩擦帯電による静電気を利用する事にして、下敷きと繊維のように、静電気を発生させるシロッコファンを風魔法で回転させて、電圧を得る方法を実験中だ。
やっと魔法陣の登場だ。
私達の意匠である七曜の中心は、精霊が入るのだが私には使えないから空白。
周囲にある6つの円に計算式、言わばプログラムが入り、この円の計算式を右回り、又は、左回りにループ実行させる事ができる。
人間の眼球は、1.5倍程度らしいが、『人口眼球40』は40倍ズームの望遠機能付きだ。
監視犬の眼球制御は以下の通り。(構想段階です)
・480万画素の出力変化を監視して、変化のあった画素を注目画素にセットする。
・注目画素の周辺1万画素にズームして焦点を合わせる。
・風魔法は音声を扱えるので、画素の出力を20KHzの音声にして、お尻の穴から後方に。
プログラムエリアは3つしか使っていないが、これだと秒間2コマにか送れないが、周波数を上げると障害物に弱くなる。音声による伝送の限界だ。
人口犬の開発はまだこれから。実際に『人口眼球20』、『人口眼球NZ』も作って、完成したのは、3月が終わる寸前だった。
王国歴260年4月1週
4月に入り、アリスに人口犬の開発をお願いした。
今は犬のメカを作ってくれている。
吠える音は周波数が500~600HZなので、データ伝送には使えない。この辺りの事が全く理解できないようだ。
犬の制御プログラムは、自分がかつて家電メーカーの総合エンジニアだった事もあり、よく知っている。
問題はメモリーだった。最低BOOTプログラムのメモリーと、動作プログラムのメモリーが無いとどうにもならない。
エリオットが聞いた精霊さんのアドバイスは、画期的なものだった。魔石には記憶の機能があるとの事だ。
犬の顔の中心に、一ツ目のズームレンズが前後する『人口眼球40』が付いた犬。そして、少し可愛い『人口眼球20』を搭載した小型犬。
アリスに『どうして偵察犬と言ったのに、こんな犬を作るのか?』と少し怒ったのだが、『偵察犬40』に偵察をさせて、『偵察犬20』には伝送の中継をさせればいいと思う。
などと上手い事を言う。勘弁してほしい。
また新しいプログラムを考えなければならない。
『人口眼球NZ』は、人間の目と同じような目でズーム機能は無い。
だが、人形に埋め込んでテストするためには、単なるCODEC~音声伝送~CODECという風魔法の使い方ではだめで、精霊などの頭脳による処理が必要なのだろう。
魔法鳥と同等性能にするには、CODEC~電磁波伝送~CPU処理という流れが実現できなければならない。
それができない今は、ただ部屋の中で、動く者を目で追いかける。それしかできる事がないのだ。
屋敷の庭で、『偵察犬40』に偵察をさせてみたが、課題は、手足の動作に使うモーター音が大き過ぎて、1つ、騒音によって隠密行動ができない。
2つ、画像伝送時にモーターノイズで画像信号が乱れる。
という問題がある。
得られた事は、魔石に約20分間の映像が記録できた事と、犬の肉球にシリコーン樹脂が良く似合うし、消音、振動防止に有効という事だ。
アリス「今度は猫のロボットを作ってみたいな。」
「うわー、あのしなやかな動きを再現するのは難しいけど、出来たらすごいよねー。」
私はからかったつもりなのだが、本人は至って真面目なようだ。
王国歴260年4月2週
偵察犬のモーター音対策として、風魔法の空気ダンパーを使ったものに変えた。
余った電気を使って、水晶発振子による発信回路を作り、本格的に電波を使った送信に切り替える。犬のしっぽはアンテナの機能を果たす。
CODEC~電磁波伝送の2段目までが、完成したことになる。
今までは、リモコン操作により進む方向を制御していたのだが、鼻先に『人口眼球NZ』を使い、白目を全て黒色にする事で、瞳の動きが違和感に繋がらないようにした。
この『人口眼球NZ』は、犬の進行方向の衝突回避と、視野確保の自律制御に使っているのだが、これでAIとまでは言わないが、捜索モード、追跡モード、帰還モードの3つのプログラムを切り替えてやれば、十分に自律行動ができる。
尚、鼻先を木の間から出したり、出会い頭に鼻先に障害物が当たる事例が発生したため、鼻先にシリコーン樹脂の鼻を作り、その中に『人口眼球NZ』を埋め込む方式に変えた。
これにより、必ず進行方向に顔を向けなければならなくなり、『人口眼球40』を顔面の正面に1個付けていたのを、両目位置に2個取り付けて、送信画像を切り替えする事にした。
目がズームする以外は、意外と犬らしくなった。
おおよその機能が出来てきたので、骨格にアルミプレートを採用し、その上にシリコーン樹脂製の短毛毛皮を貼り付けて、より一層、犬に近くなってきた。
両目ともに『人口眼球20』にするとズームによる突起もなくなり、完成の域に達した。
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