第79話 人口眼球、道遠し
王国歴259年12月末日
あれから2か月が経って、年が明けると、まもなくアリスの誕生日だ。2月はエリオットの誕生日。これでふたりは13歳。私は1つ年下の12歳だが、実質は14歳くらいにしてもらっているからいいか。
でも、仲間がいるって素晴らしい。毎日、一緒にエンジン作りをしてるけど、労働って感じがしない。これまで、どうだったろうか。何ができただろう。農産物の増産、食肉の増産、武器の強化、組織と戦闘力の強化。
来年は、映像関係の技術を開発したい。宰相に手紙を書いた。
来年の開発目標
目標1:魔法鳥に頼らない偵察力の確保
⇒眼球の提供をお願いしたい。
第1ステップ
・機械式眼球の開発
・音声伝達による画像送信
年明けに宰相からサインが入った回答書を頂き、契約は成立。早速、捕まえた犯罪者の眼球が届けられた。せっかくのアリスの誕生祝いの気分はどこかに飛んで行った。
私がやりたい事は、知識の指輪から得られる眼球の知識と、実際の組織を照合する事で、正確な情報にしたいという事だった。人間の目の細胞で明るさを検知する細胞は杆体とよばれる細胞である。約1憶2千万個あると言われている。
また色を検知する錐体は700万個ほど。タンパク質の違いで検知する色が異なり、L,M,Sの名前が付いている。では実際にどのようにこれらの細胞が配置されているのかを知りたかったのだ。
細胞の代わりに、光半導体を使う。これは光が当たると電気を流すもので金属セレンSeが私は扱いやすい。錐体細胞の代わりには、シアン、マゼンタ、イエローのフィルターを掛けて、赤、青、緑の細胞代わりとしたい。
極めて小さな領域に、1憶3千万の機械細胞を並べるので、簡単ではない。構造や配置は理解したので、製造作業のために双眼実体顕微鏡を作らなければならない。
錬金スキルを使って金属セレンSeの薄膜、その裏側にシリコンSiを薄いシートにしてホウ素Bを混ぜてP型半導体とシリコンSiにリンPを混ぜてN型半導体を作り、ダイオードを形成する。
この光ダイオードを5×5のブロックで1画素として扱う。
25個の光ダイオードでは白黒画像になるから、ここへ色フィルターを掛けた3原色の錐体細胞を各2個×3原色の6個を混ぜると1画素だ。
これで1憶3千万の細胞から、480万画素のCCDが生まれたようなものか。
頭で考える事を終え、実際にやってみよう。
レンズ作りから始めて、構造を理解して、各パーツを組み、双眼実体顕微鏡ができるまで、3週間が掛かった。
そこからCCD作りに入って、光ダイオードの形成に1素子分に10秒、1分で6素子、1時間に300素子しか作れない。私は機械ではないからね。
顕微鏡を見ながらの作業が続く。開き直り、1日に2500素子、100画素分を作る事にした。ぼちぼちと進むしかない。
転生前の世界でも、200万画素だったように記憶しているのだが、とにかく、人間の能力に近いものを作ってみたかったのだ。
1月はCCD作りに励んだが、この作業ばかりでは飽きてしまい、集中力がすぐに落ちてしまう…。
そこで2月は、砂漠のサンドワーム狩りをすることにした。学園が落ち着いた事もあり、セバスの同意が得られたのだ。
1月いっぱい、ジャックに鍛えられた二人とともに、軽装甲車で南へ。
朝8時に屋敷を出て4時間。お茶タイムに漢方薬を飲んで30分休憩した。1時に出発して到着は6時。もう随分慣れて来た気がする。
南方方面軍の官舎手前の厩舎横に駐車する。すでに、入口の警備兵がニコニコ顔になっているが、なぜ?
警備兵「ご案内いたします。」(何も言ってませんが…?)
3階応接室に行くと、フレディーとシャーロットが居て、敬礼をしたので、私達も今回はすんなりと敬礼を返す事ができた。
「3か月ぶりだけど、元気そうだね。」
フレディー「お蔭さまで、南方方面軍隊長になり、階級も2曹に特進致しました。」
シャーロット「私も、正式に副隊長になり、3曹に昇任しました。」
「おめでとう。良かったね。私は特に何もしてないけどね。」
フレディーとシャーロットが顔を見合わせ
フレディー「宰相に『とても対応が良かった』とおっしゃってくださったと聞いております。」
シャーロット「その『推薦の言葉』を受け、私達が隊長、副隊長になったと王太子が…」
「あはは。そういう事ね。確かに間違いじゃないけど。」
「ところで、今回来たのは、東の砂漠地帯にいるサンドワーム退治で来たんだ。」
「今は実戦訓練が北方方面軍でしかできないし、主として遠距離攻撃と近距離演習だよね。そこで、この東方の砂漠で、近距離での実戦を経験しようという訳だ。」
フレディー「それはすごい」
「今回実施する近接戦闘の実戦には、北方での訓練修了者を条件とする。君達2人を含む5名を選出してくれ。」
明日は、実戦前の説明と簡単な訓練を行う。
フレディー「分かりました。」
そういう訳で、再び宿泊券を頂き、高級宿に泊まりに行った。宿の女将さんは驚いた表情で
女将「ようこそおいでくださいました。」
と丁寧に挨拶され、最上階のスイートルームと2階の部屋の鍵をもらった。最上階に上がると、下から微かに
「来たぞー」
という物騒な声が聞こえてきた。お茶を持ってきた女将さんは
女将「いえ、前回の食事がいまひとつだったと、カップ麺に負けたと料理人が悔しがっていまして、今度こそと張り切っております。」
「どうして今ひとつだと?」
女将「長年この仕事をしていますと、その経験が返って本当のお客様の気持ちに気づかない図太さになるのでしょう。それが、あそこまで料理を残され、かつ、何やらカップまで、ゴミ箱に入っておりましたから…。」
女将「料理長もまさかと思い、恥を忍んでカップに残っておりましたスープの味を確かめたのです。カール様が作られた素人の味の方が、インパクトが強かった。それはもう料理長のプライドなど、吹き飛んだのでしょう。」
女将「まさか、また当館に宿泊いただけるとは思いもしませんでしたが、あれ以来、料理長も魚のだしや、調味料を求めて、海のある町まで行くなど、それなりの努力をして来たのです。どうぞ、今回もダメならダメとバッサリと切りすてて下さいませ。」
「そーですか…では、夕食を楽しみにさせて頂きましょう。」
お読み頂き、ありがとうございます。




