第75話 ショコラのギルド
夜の部スタートです。
さて、ギルドに戻ろう。車でギルドに横付けして、中で例の大男がどうなったか聞くと、教会に運ばれたらしい。ここ旧王都の教会には今でも神官はいるのか…、そんな疑問を胸に、中央広場の教会に車を止めて、中に入る。
「おい、見舞いに来てやったぞ!」
そう言って、中に入ったのだが、中にいた全員の顔が青い。特にギルド幹部。
幹部「あなたは七曜の幹部、カール様なのですね?」
「名前も名乗らない一介のギルド員に答える筋合いはない。」
跪いて
幹部「失礼しました。私、冒険者ギルドショコラ支部のギルドマスターを務めます、ダニエルと申します。」
「そうか、私は七曜の幹部、カール・ラングリッジだ。彼はエリオット。彼女はアリス。いずれも七曜の幹部だ。知らないだろうから教えてやる。七曜とはその紋の如く、主要な7名によって運営される組織だ。配下に加わるというなら早い方が良いぞ、私に潰される前にな。」
幹部「……我々は国から独立した組織。その組織を七曜の配下に納めようと言うのか…。」
「ところで、例の頭のいかれた大男はどこだ。見舞いに来てやったぞ」
幹部「彼は君達の使った魔法の武器で膝を壊して…今は礼拝堂で薬師に見てもらっている。もう杖を使わなければ歩けないそうだ。」
礼拝堂に入ると、大男が恐怖の目で私達を見た。
大男「何しに来やがった。これ以上どうするって言うんだ。」
「謝ってもらおうと思ってな。『七曜』のメンバーに因縁を付けようとした事をな。」
大男「…すまん。俺がわるかった。あの白い女の子は、絶対、白い魔女様に関係があるに違いない。そう思ったら、居ても立っても居られない。そんな気持ちになったんだ…」
この男の曾祖母は薬師だったそうだ。伝え聞いた話だが、と前置きして話したのは、曾祖母は白い魔女に連れられて、各地の治療に行ったそうだ。白い魔女は、魔術を単独で使う事はなく、薬と一緒に使う事で効果を補い合えると言っていたそうだ。
大男「俺と白い魔女も補い合える。」
「どうすれば、その結論に至るのか意味不明だし、竹の棒でつつくのが、補い合うという事なのか?意味が分からん。」
そう言って、ベッドから上半身を起こしている大男の包帯が巻かれている右足を持ち上げて、包帯をほどき、患部の観察と分析を始めた。
大男「頼む、もうやめてくれ! うう!」
魔力が流れ、神経を刺激するため痛みが走るのだろう。(弾丸は貫通しているが、表面はポーションのせいで傷口の皮膚がふさがってしまっている。)
「静かにしろ!治してやらんぞ!」
止めに入ろうとしていた周囲の者が固まった。『治す?』全員が混乱の渦中にある。
膝の皿、いわゆる膝蓋骨の右側が骨折していて、関節部分に散乱していた。この骨は大腿四頭筋という強い筋肉につながり、膝の曲げ伸ばしに重要なパーツなようだ。
分析を使った診断を終え、散乱した骨を材料にして、膝蓋骨の再生を試みる。
「誰か、タオルを持ってこい。」
タオルに水魔法で出した水を含ませ、加熱、ホットタオル状態にして、膝の上に乗せる。
「痛みは当然あるが我慢しろ。泣いても構わんが、暴れるな。」
ゆっくりと指輪の知識通りに、膝蓋骨を再現していく。そして、雑菌などが無いように、出血した血液などを膝裏の傷口から出して、最後に、皮膚を再生し傷口を塞いで終了だ。
膝関節内部をいじられる感覚に、それなりに痛みもあっただろうが、良く悲鳴を上げなかったものだ。
「終わった。治療成功だ。」
痛みはまだある筈だが、さすが大男。膝を確かめるようにゆっくり曲げ伸ばししている。
幹部「本当に、あの怪我が治せるのか?」
「ダニエル、お前は夢を見てるのか?あんな遠くから人を傷つける事はできないし、こんなひどい怪我は治せない。それが常識だ。変に口外してみろ、変人扱いされるぞ。」
「今回は、七曜がどれほどの価値があるかを見せたつもりだ。次は、ショコラの冒険者ギルドにどれほどの価値があるか、見せてもらいたいものだね。」
そう言って、私達は教会を後にした。この中央広場から貴族エリアは近い。少し歩いてみよう。王族エリアにあったデパート群は、高位貴族向けの商売だろう。でも出店しているのは中位貴族を背景に持つ商人たち。
彼らの屋敷や、魔道具店、銀行もこのエリアに作られていたが、人の流れはほぼ無い。商業の振興勢力と言えば、七曜商事だからな。飲んで食べて買う、そんなのが主要経済なら、このエリアの衰退は必然だろう。
自分ならどうするか、ここから西へ200km、レビューの港町の開発だ。ここを整備して外洋船が使える港にしたい。
今はかなり遠い夢だね。では宿に行こう。
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