第73話 もうひとりのアンジェラ姫
次は、既に移転した王族エリアを見に行こう。馬車置き場から車を出して、ゆっくりと進んでいく。王族エリアは入った途端に違いが分かる。なにせ道路の綺麗さが全く違うのだ。綺麗に隙間なく敷き詰められた石。浅い側溝まである。
道の左右には、お屋敷を改造したデパートが並ぶ。なるほど銀座だ。だが正面にそびえ立つ王宮の門は閉まっていた。接近すると門番を務めているのが、例の騎士団の連中だと分かった。相手もこちらを認識しているようで顔が強張っている。車を止めて、話を聞く。
「誰か来ているのか?」
思いっきり上から目線の言葉に、憎たらしそうな表情を見せる門番だが、私達の後方に何か別の不審者でも見つけたのだろうか、そちらに顔を向けて、目を細めている。
カトリン士長が作った倍率が大きすぎるスコープを取り出して、望遠鏡代わりに見てみると、例の大男が大剣を片手に何やら叫びながらこちらに走ってきている。その後方にギルド幹部が続く。
「アリス、狙撃準備を」
アリス「了解」
「膝を撃ち抜いてやれ。あとで回復の練習台になる」
そう言うと、軽装甲車の上部ハッチを開けて、2脚を付けた38式歩兵銃のスコープを覗くアリスが
「ちょっと遠いけど、練習ね」
と言って1発撃った。『パーン』という音と同時に大男が倒れた。
エリオット「命中!おみごと。」
アリスが「ありがとう」と言い、ハッチを閉めた。後部ドアが開いてアリスが車から降りてくる。さて、尋問再開。
「で、誰が来てるんだ?」
門番「アンジェラ姫であります!」
私達も驚いた。姫は学園にいるはずだったからだ。
エリオットに『レナに姫の所在を確認して折り返し連絡を』と伝言鳥を頼んだ。
門番に、我々七曜が姫との面会を希望していると、取り次ぎを指示した。
20分ほど待たされ、王宮の入口付近にある部屋で面会となった。今や私を知らなくても七曜を知らない者はいない。どうやら姫は、メイドを1名伴っただけの内密な滞在だったようだ。
レナから『姫は図書館でぶらぶらしている』と回答があり、同じく図書館で監視しているレナに、『引き続き監視を』とエリオットに伝言鳥を頼んだ。
先に部屋で待つように言われ、ヘルメットを脱いで待っている3人。メイドがドアを開けて、姫が中に入って来る。我々は一応敬礼の姿勢で待つ事にした。
初めて見る姫だが、驚いた事に顔面がパウダーまみれで真っ白なのだが、凹凸がひどい状態のように見える。
姫「初めまして。アンジェラ・グランデです。いつも兄がお世話になっております。」
「初めまして、アンジェラ姫さま。私はカール・ラングリッジ、彼はエリオット、そして彼女はアリス。ともに王立学園の同級生です。」
(アリスが同級生にされて驚いている)
姫「まあ、そうでしたの。同級生と旅行ができるなんて、なんと羨ましい事でしょう。」
「ところで姫さま。姫さまは私の事を嫌っておられるとお聞きしていたのですが、本当の事なのでしょうか?」
姫「……なんの事でしょう? エミリー、何か知っていますか?」
メイド「はい、姫さま。少々お待ちください。」
そう言って、メイドは手帳のような物をエプロンのポケットから取り出して、ペラペラとページをめくっている。
メイド「ございました。お嬢様がグレース様と交代されたおり、町で執拗に付きまとわれたとグレース様が申して、撃退の許可を取りに来た事がございましたでしょう?その相手がカール・ラングリッジとなっております。」
「襲撃されたのは私ではなく、当時学園の1年生だったソフィアという女性と、私の親戚で入学前だったオリビア、そして私の屋敷で働いていたデイジーという女の子が、犠牲になっています。」
再びメイドが手帳をペラペラとめくり
メイド「ありました。ローン子爵とその従者が女子3名を襲撃したとして逮捕された。と報告が入っています。」
姫「なぜそんな報告が私の所になされたのです?」
「彼らは姫さまに依頼されたと供述したそうですが、証拠はなく、平民に対する事件でしたので、狂犬病に掛かり、発狂して女子3名を襲撃したとして処刑されたそうですが…」
メイド「守備隊に対しては、面識はあるが親しくはない。と回答を出しております。」
姫「確かに親しくありません。だってあの人達4年生と5年生だったから、挨拶程度しかした事がなかったわ。」
姫「エミリー、どうなっているの?私の知らない所で、どうしてこんな事になっているの?」
メイド「いえ、ジョージ侯爵様が全て対応されたと回答がありまして…」
(ジョージ侯爵って、例の王太子の叔父さんか…)
「世間では、姫さまの事を『わがまま姫』と称しているのはご存知ですか?」
メイド「グレース様はジョージ侯爵様の庶子。姫さまによく似ているのです。彼女の性格はわがままそのもの。彼女が学園で好き勝手に行動しているせいでしょう。」
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