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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第1章 カルバン王国
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第72話 ギルドあるある


私も男神のくれた指輪の知識を見ることにした。


白い魔女は、この世界の薬草などの自然の力を活かす存在。『生命の天使』と言われた所以ゆえんなのだ。彼女の回復魔法は自然治癒の力、つまり患者の遺伝子を使う治療法だ。例えば、新しい腕を生やす事はできないが、切り落とされた腕があれば、繋いで元に戻せる魔法。


本人の細胞を使って回復するこの『自然治癒法』は、すぐに施術しても問題はないが、効果限界が分かるまで時間が掛かる。


一方の神が使う回復は、神の力そのもの。骨から人が作れるのだ。つまり、人の構造、骨や筋肉や神経や筋や血管など、構成要素を知り、それを構築できる知識に基づいている。IPS細胞などの新しい細胞で、傷口や欠損を埋める『移植法』とも言える。


神の回復魔法は、腕を失った人に、全く新しい『標準仕様の腕』が生える事になる。鍛えられた人にとっては、リハビリと称して、鍛え直さないと使えない腕になるだろう。



そして、これから指輪の知識を使って覚えるアリスの回復魔法は、魔女の『自然治癒法』。私は神が使う『移植法』の回復魔法に限定されている。貴族など鍛えていない者には『移植法』は効果が早く、評価も高い。



確かに、この議論に正解はないし、言い争う理由もない。だがこの議論を王家にも公開する事はできない。



「アリスの回復魔法って、どうすれば使えるの?」


アリス「基本は回復を願う事だけど、それだけじゃなくて、その人の元気な時をイメージする事が必要みたい。腕の怪我なら、腕を元気に振り回している姿だったり、足なら元気に走っている時の姿ね。でも回復を促進する事で痛みが強くでる事もあるみたい。」


アリス「指輪には、回復魔法と同時に薬を使って痛みを軽減したり、患部の消毒が先に必要になる場合についても書かれているわ。確実に理解しないと返って状態を悪化させる事もあるみたい。」



さて、回復魔法ヒールの呪文と、そのイメージについて理解はしたのだが、イメージトレーニングは必須だ。私には人体に関する知識は無いので、指輪をはめてイメージを引き出しながら魔法の発動を継続させることになる。



「なるほどね。じゃ、ダンジョンを出ようか。」


そう言って、エリオットに先導してもらい、白い魔女の部屋から1時間掛けてダンジョンを抜け出し、軽装甲車に乗り込んだ。



「アリスは回復魔法を使えるようになったし、エリオットは風の魔術が使えるようになった。これを今後、どう活かしていくかが各自の課題だね。」



それにしても、なぜ教会は、どうして教会は『移植法』の回復魔法を使えたのだろうか。または、違う型なのだろうか…


その答えを求めて指輪の知識の中をさまよう私…。


代理戦争から遡ること20年。フリアノン女神は第7位の権天使。その役目柄、帝国の政権争いで傷ついた国家の指導者、つまり、若き国王を治療したのだった。


それまでは傷口の化膿が進み、右腕を切り落とす他に手段がないと思われていた右腕が、目の前でみるみるうちに癒える。


当然、若き国王は、フリアノン女神に感謝し、報いたいとの思いから、フリアノン女神の名を冠した教会を作り、その偉業、その奇跡を世に広めた。


その恩恵にあずかった自分こそが、正当な後継者の証しなのだと主張し、反対派の次男一派を葬り去る事に成功する。


教会は、フリアノン女神に感謝を捧げる場所であったはずが、いつしか同じ奇跡を求める空気が生まれ、自然に回復した者から『祈りが通じた』という都市伝説まで生まれる。


フリアノン女神は困った。権天使の対象者は国家指導者であって庶民ではない。


そこで、考えられたのが加護『神官』であった。ひたむきに努力し、女神に少しでも近づこうとする者に加護『神官』を与え、その者にフリアノンの力を使えるようにしたのは神であった。


加護『神官』を持つ者を急激に増やす事はできない。そこで、『神官』の力を発現するアイテムが、ダンジョンを経由して、この世界にもたらされる事になった。それは『神官』の力を求める貴族が、ダンジョンを占有する事につながっていく。


白き魔女が広めたものは平民(薬師)による自然治癒であった。だが、貴族の求めたものは奇跡の力であり、その力の独占であった。教会をバックにした帝国と、薬師保護に力を注ぐ王国。それが、あの代理戦争に繋がっていく。




旧王都ショコラまでは約120kmの距離だ。エリオットの話では、ショコラの町は大きく3つのエリアに分けられている。


1つは王宮エリアを中心とした行政区である。1つは文官を中心とする貴族の屋敷街。残る1つが騎士団を中心として、飲食街や歓楽街がある。ここにギルドや庶民が住んでいる。


昔は産業革新もなく、他から奪う事でしか繁栄する事は出来なかったのだから、騎士団は国営やくざ組織だったのだろう。酒と女が唯一の楽しみ、そんなエリアだった筈だ。


今は騎士団はいない。主人公が冒険者や庶民に変わっても、結局、このエリアはそういう所なのだろう。では、冒険者ギルドに行こう。ゆっくりと軽装甲車で進むが、めっちゃ驚いているようだ。


まだ私達の情報が出回っていない証拠だ。何が飛び出すか興味深い。


ギルドを発見して、入口を通り過ぎて、馬車置き場へ車を駐車する。馬車を預けるのと同じ金額を払えばOKだ。


冒険者ギルドに3人で入ると、一瞬、すべてが止まる。


戦闘服でさえ初めて見るのだろう。カウンターにエリオットが行き宿の紹介をお願いする。エリオットのハンサム笑顔に冷静な女性などいない。宿に丸印を付けてもらった簡略図を受け取るエリオット。


階段から降りて来た精悍せいかんな顔をした幹部らしき男が、こちらに歩いてくる。


そして食堂エリアの奥から、細い竹の棒を振り回しながら、大柄な男がこっちにやってくる。

お決まりのイベントだ。大男が近づいて来て、ニヤッと


「お嬢ちゃん…」


私の腰に向けたその細い竹の棒を、反射的に中央と手元で切り落とす。


『ティン ティン』


驚愕の表情から、怒りの表情に変わり、いったん下がって大剣を抜く大男。そして、右手からはギルドの幹部らしき男も走ってくる。


「制圧するぞ」


小声で伝えた指示に、アリスが音響閃光弾をベルトから外し、ピンを抜く。エリオットがサックをはめ耳を塞ぐ。1,2,


『パーン』


閃光弾は爆発地点から約10mは拡散するので、注目していたほぼ全員は目が見えなくなっているし、部屋に居た人は皆、耳が『キーン』と鳴っていて、音は聞こえない状態だろう。


私達3人が耳を塞ぎ地面に向いたその姿勢から立ち上がり、エリオットが大男のボディーに1発入れ、かがんだところへあごにも1発膝蹴りを入れて戦闘は終了した。


まだ、会館内の人達の視聴覚が回復していない内に、私達は平然とギルドを出る。こういう力が支配力を持つエリアでは、圧倒的な力を示す事が大切なのだ。早い話、町一番の暴力組織、冒険者ギルドを力でねじ伏せ『七曜には手を出すな』を分からせればいいのだ。




お読み頂き、ありがとうございます。

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