第70話 キョルトの古城跡
たくさんの人にお読み頂き、驚くとともに感謝しています。
今日も皆さんの暇つぶしになればいいなと思っています。
翌日の朝も、腹筋と腕立て伏せを宿でやったあと、庭に出て素振りなどで汗を流す。
今日は北東方向に進路を取り、旧王都であるショコラに行ってみようと思う。ショコラまでは約200km。ルートは2つ。
1つは直線距離で最短距離。もう1つは、古代のキョルト城跡を経由するルートなのだが、この城、3代前の国王の時代、白き魔女とフリアノン女神の争いがあったと伝えられている。
3人でそんな話をしていると、風の精霊がみんなの頭に直接話し掛けてきた。
『キョルトの城の戦いの話ですが、本当にお二人が争うはずはありません。なぜなら、フリアノン女神さまは、第7位の権天使さま。国の指導者を守り導くのがその役目。』
『そして白き魔女と呼ばれた方は、純白の翼に純白の衣を身に纏う、第9位の生命の天使さまと思われます。そのような神のしもべ同士が殺し合うなど、ありえないのです。おそらくは権力者対自然界の掟を守ろうとする者の代理戦争があったのでしょう。』
『この時の人々の行いに失望したお二人は、共に帝国に行き、城は朽ち果て、亡霊の住処になっているのでしょう。ですが、ここには当時の研究資料が残されているはず。』
『方法論は違えども、きっと回復魔法はカール様のお役に立つと思うのですが、果たしてこのメンバーで、亡霊どもを駆逐できるかどうか…、それが問題です。』
アリスは思い悩んでいたことを打ち明ける。
アリス「私の戦闘力が問題なのは分かってる。でも、小さい頃から『白き魔女の系譜』って言われて、ずっと気にしてた。今の精霊さんの話を聞いて心が軽くなったの。でも、やっぱり資料があるなら見てみたい。」
「戦闘力というより、有効な攻撃が何かという事かな。とりあえず、物理なら打撃武器かな。スケルトンとかね。問題は亡霊なんかの実体が無い敵だな。」
精霊『実体の無い系統のアンデッドなら大丈夫ですよ。精神に影響を与えるだけで、物理的な攻撃はしてこないですから。』
エリオット「だったら大丈夫だね。行ってみよう。」
私はアルミを練り練りして金属バットを作り出して、ふたりにも渡す。名付けてライトニングバット。ライトの魔法が重心の部分で光るからだ。よし、出発だ。キョルトまで100km。
道が細いため、ゆっくりと進む。約3時間で到着。間違って街中に人が入らないように柵が置かれている。ちょうどお昼だが、全く人の気配はない。いわゆる警戒地域なのだ。軽装甲車を柵の前に駐車して、戦闘服に医療キットを付けて出発。
バットを振り回すのだから、お互いに距離を取らないと危ない。レンガ作りの古い建物たちの間をくねくねとした路地がある。私達はメインの馬車道の端を歩く。街中に侵攻していく兵士達の姿をアメリカ映画で見たが、そのままだ。(楽しい)
ふわーと飛んでくる淡い光、亡霊だな。
「試しに叩く」
アリス、エリオット「了解」
『バシッ』
「手ごたえがあるぞ!有効だ。」
精霊『魔力を纏わせる武器ならダメージを与えられます。』
アリス「じゃー、次私の番ね。」
「了解」
左から飛んできた亡霊を叩く
『バシッ』
アリス「私も有効だよ。楽しい!」
何も言わずに、エリオットが亡霊を探して、攻撃したのだが、バットは空を切る。
エリオット「やっぱり僕はだめだ。うまく魔力が流せない。」
精霊『エリオット、ウインドカッターを使ってみて。』
エリオットが金属バットをカールに返して、ウインドカッターで亡霊に攻撃してみるが、動きが早くて、遠距離攻撃はふわっと躱されてしまう。
エリオットの金属バットをメイスに変形させて、先端のソフトボール状の所が魔力で光るように変形させた。
「これでどうかな?光っていれば大丈夫だよ。」
エリオット「スケルトン相手なら、魔力はいらないけど、試してみるよ。」
「そうだね、レベルアップしたら魔力って全回復するのかな?」
アリス「は?」
エリオット「レベルアップって何?」
「ごめん。単なる妄想。」
そんなこんなで、アリスは本当に魔女の系譜なのが証明され、『モグラたたき』ならぬ、『亡霊たたき』をしながら、城の壊れた城壁部分に辿り着いた。
精霊『ここから先は、まずお城の地下倉庫を目指しますが、魔力切れに注意してください。厳しいようなら、打撃の瞬間だけ魔力を流すのが理想ですけど、かなり難易度は上がるでしょう。』
城壁の内側に沿って進む。崩れかけた入口から内部へ入った。目が慣れるまで少し待って、螺旋階段がある奥を観察する。クモの巣が光って見えにくいが、ドアの類は全て朽ちていてレンガの四角い枠だけが残されている。
エリオット「中のほこりなんかを、一旦、飛ばしてみるね。ウインドストーム!」
『ヒュー』
風の渦が部屋の中の枯れ葉やほこりなどを、どんどん吸い出していく。
「ナイス!」
エリオットは風魔法の事について知識が増えて、気負いなく使えるようだ。綺麗になった螺旋階段を下りる。大きな地下空間を松明にように光るメイスを手にしたエリオットが先行してくれる。
エリオット「あっ、迷路みたいだ…」
入ってすぐに目の前が今までのレンガでなくなり、土壁になっていた。進路は右側しかないのだが、光が届く限り突き当りは見えないし、スケルトンがゆっくりこちらに来ていた。
『バキッ』
エリオットがスケルトンを粉砕していく。10mごとに左壁面のくぼんだ位置に扉があって、その中をアリスや私が確認しているが、ここまで6畳ほどの空間には何も無かった。驚いた事に、1辺が100mもあるダンジョンと化してして、古城の敷地を越えているのだった。
約2時間、延々と同じような作業とも言うべき戦いを繰り返し、外周部分から渦巻状に中心に向かっていたのだが、3周したあとは、本当の迷路のようなものになり、度々引き返す事になった。さすがに精霊さんの予想のはるか上をいっているようだ。
3代前の『1年にも及ぶ内戦』のあとも、貴族と王家がこの遺跡に侵入しては全滅を繰り返して以降の事だから、約70年は放置していた事になる。何も無い部屋で小休止。
「まさかダンジョン攻略になるとは想定外だった。食糧もないから3時になったら戻ることにしよう。」
エリオット「そうだね。」
アリス「軽装甲車に戻れば、カップ麺もあるんだし…、でも夜はさすがに無理だね。」
「悔しいのは分かるけど無理は禁物だよ。この周辺には宿も無いし、一旦イワノフの町へ戻って、早朝から丸1日くらいは攻略できるように、次は頑張ろう。」
そう言って、再び迷路に挑む。少し進んだ所にあった小部屋には、椅子や机もあったが、それ以上の収穫はない。ここから先は荒らされていないという事か。
「時間が来た。一旦引くよ。」
そう言って、出口に向かっていくが、ゲームのように繰り返してスケルトンや亡霊と出会う事はなかった。しかし、初めての挫折だった。
お読み頂き、ありがとうございます。




