第67話 鉱山の不審者調査
王国歴259年10月2週
この鉱山、古くから洞窟として存在していたそうだ。左側にある第1坑道が最も古い坑道だそうだ。次に掘られた第2坑道も湖方向にまっすぐ進んだあと、右に旋回するように徐々に登って行くルートだ。最新の第3坑道は山脈沿いに西に進むルートだ。
左側の第1坑道を進むと途中で交差点のように2差路になったり、3差路になったりする。初めての坑道で迷いながら、手探りで掘り進んだのだろう。だが、大抵は途中で掘削が終わっている。ライトの魔法を頭上に出して歩く。
私は坑道で落盤に会うのがいやなので、時々は左右の壁に手を付いて分析している。時には希少金属を見つける事もあるが、採掘はしない。すべての分岐で左を選択したルートの解明が終わった。
第1坑道はそもそも下りルートだし、左方向は湖の町方向であり更に下降方向になる。選択肢を徐々に右に振っていく。1時過ぎに休憩のため、坑道入口に戻り、休憩室でトイレと軽い昼食を取った。
午後に入って、落盤事故の現場に到着した。水分の含有量が多い。水が浸透してきたのか?とりあえず、道を塞いでいる崩れた土を土魔法で壁面に固める。私は左側面、アリスとエリオットは右側面を固めていたのだが、右上方向に大きな亀裂を発見した。
その後、土の中から遺体を発見。アリスが伝言鳥を使って坑道入口に連絡を入れ、守備隊が2人やってきた。隊長マックスと副隊長ハンターだ。
「服装から共和国魔術師と思われる。本部地階の牢屋に収容して所持品を確認。情報部シンシア少佐に連絡を。それと、悪いけど運んでくれませんか。私達は捜索を続けますから。」
隊長「了解しました。ハンター、運ぶぞ。」
そう言って、2人で遺体を運んで行ったが、寒さのため腐敗は進んでいないようだ。
「本当に共和国から侵入して来たんだな。でも死因は何だろう?」
アリス「綺麗な顔した女性だったのに、こんな所で土まみれで亡くなるなんて…」
エリオット「でも、確かに外傷らしきものは無かったね…服装にも乱れは無かった。」
「坑道が開通するまで続けよう。」
そう言って、復旧作業を再開するが、壁面の亀裂はその先を調べたいため、そのままにしておく。坑道を塞ぐ土は壁の一部となり、通路が開通したのだが、その先は下方向に傾斜していて、そこには1面に水が溜まっていた。
比較的透明な水ではあるが、底は見えないから水深は入ってみないと分からない。足首がつかり、膝がつかった。どうやら潜らないと先へは進めなくなりそうだが、まるで雪解け水のように冷たい。このまま潜るのは危険なので、一旦水分子を動かして水温を上げよう。
「ちょっと見てくる。ここで待っててね。」
アリス「カール様、大丈夫ですか?」
「君達、泳げる? 潜水ってした事ある?」
そう聞くと、ふたりは同時に首を振った。
「『私は』泳げるし、25mを潜った事もある。『私はね』」
ふたりが姿勢を正した。
笑顔を返し、潜る。そういえば25mプールを潜水した時、20m地点で水面に出た事を思い出した。(見栄を張ったなー、頑張ろう)
10mほど潜ると明りが見えた。『ぷはー』水面から頭を出して息をすると同時に足が底に届いた。靄がかかりはっきりと見えないが、人工的な空間があるようだ。前方に階段があって、水面から出る事ができた。すると、靄が消えて視界が開ける。
なんと、目の前のタイル張りの空間に金庫がある…ダイヤルが0から9までの暗証番号式の金庫のようだ。とりあえず1234と入力すると、表示板に1234と表示され、これ以上は表示スペースは無い。暗証番号は4桁のようだ。決定ボタンを押すとエラー音が響いた。
『ピーーー』
ここからの操作では、性格が出るだろう。
1.『0000』から『9999』までを順番に押す。
2.これだと思う任意の数字を押す。
3.この金庫ごと持ち帰る。
とりあえず、レバーをひねるが動かない。ダイヤルに私の誕生日『1001』を入力し、決定ボタンを押すと『カチッ』と音がした。正解のようだ。(神が知る私の情報はこれくらいしかない)
レバーをひねると
『ガシャ!』
と音がして、金庫の扉が開く。中には1辺が5cmくらいの三角錐の水晶体とメモがあった。
戦闘服のズボンのポケットに入れて、マジックテープで口を閉じ、金庫の蓋を閉めると、金庫はその姿を消した。
さて、戻ろう。階段を下りて再び水中を約10m。明るくなったら足が届き、二人の姿が見えた。私は全身が濡れていた。靴の中も…。とにかく寒い。一旦服を脱いで水分を飛ばす。
今日は、とりあえず、終了だ。坑道を戻り出口へ。
宿に戻って装備を外す。三角錐の水晶体とメモをポケットから出し、アリスが入れてくれる紅茶を飲む。メモには『これは精霊の鍵と呼ばれるものだ。育てるのに何が必要かは器の底に記されている』それだけが書かれていた。器の底を見ると『喜』の文字がある。
二人にもメモを回覧する。三角錐の水晶体を見せながら
「これは『精霊の鍵』。水に潜った先にあった物だ。どうやら『喜び』を与えて育てるようだ。」
そう言って、興味深そうなアリスに渡すと
『私は『喜び』の感情で育ち、いずれ精霊となって旅立つ』
『私をいつも身に付けておけば、私もその人を助けられる。』
という声が頭に響く。アリスもエリオットも驚いている。全員の頭にこの声が届いているのだ。
頭に響いていた声が途切れ、三角錐の水晶体はペンダントの形になった。緑の地に白い渦巻模様。風の精霊のようだ。ペンダントのチェーンを首に掛けると、チェーンはその色が目立たなくなった。
風の精霊が助けてくれるペンダント。但し『喜び』の感情を与えてあげないといけない。
「エリオット、このペンダントを付けてシンシア少佐の副官を務めれば、役割が果たせる。」
そう言って、彼にペンダントを渡した。
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