第63話 初めての3人旅
王国歴 259年9月第1週
9月に入り、私とエリオットは3年と4年の終了試験を既に突破している。
レナも無事に4年の終了試験をクリアして、全員が5年生になっている。
来年に5年の試験を合格すれば、3年間で卒業という事になる。
教師に魅力が無いのは前世と同じだ。
所詮、実社会での成功体験もなく、自分の力でテキストを作る能力もないのだろう。
七曜鉄道は、主に屋敷のメンバーで運営されている。
厩舎の世話係アンガスとベル夫人が支配人として、客車の車掌や王都西駅の人員を雇っている。
朝、一番に車両基地から動力車に乗り込み、王都西駅の1番ホームに停車。
動力台車にガスを充填して駅舎に入る。
運転手は王国側が出して来ているが、基本は騎乗が上手な者だ。
騎士団とは関係ないらしい。
今のところ、興味本位の貴族の子女だが、試運転期間の往復運転で、スピード感覚があり、恐怖心が湧かなかった者を合格としている。
行きと帰りで異なる動力車を運転するが、運転は今、2名が交代している。
フェドラ駅は庭師のベルナーさんが単身赴任で駅長業務を遂行中だ。
まだ3週間だが、ベルナーさんには中年の綺麗なご婦人が、茶飲み友達として出来たようだ。
私の方だが、砂漠のサンドワーム対策は、38式改造自動小銃を3挺作ってから38式尖頭弾で銃身と照準をできる限り調整し、精度を上げた。
更に、38式炸裂徹甲弾と呼ぶべき弾丸を作成している。
これは弾頭を丸型にして3つに割れるように筋を入れた弾丸だ。
空気抵抗もあり弾速が落ちて、長距離の命中率は落ちるが、魔獣に当たった後、弾頭が割れ、貫通せずに標的内で広がる弾丸なのだ。
今までの38式尖頭弾のように、貫通させるべく、なるべく標的が重なるように撃つのではない。
近距離で心臓付近を狙う事になる。
つまり打ち方自体が変わるので、練習も必要だろう。
アリスとエリオットと私の3人は、以上の事を念頭に練習した。
38式尖頭弾では、標的は穴が開いただけだったが、38式炸裂徹甲弾は標的が砕け散ってしまう。
弾丸の先頭部分が見た目に異なるので、間違う事は無い。
今日は、王都の教会に来ている。
教会という宗教組織が隠れ蓑になる場合が多いからで、我々七曜も利用が可能なら、使いたいと考えているからだ。
それにしてもこの教会、どうなっているのだろう。
王都の教会だというのに神官の姿も見えない。よく見ると、女神像にほこりが積もっている…。
不意に騎士団の人が2人入って来た。
「おい、久しぶりだな。確か『カール』とかいったな。こんな所で何してんだ。」
「こいつ、王国軍を立ち上げて幹部になったそうだが、北方でマーガレット少佐と喧嘩になって軍を首になったそうだぜ。」
「そりゃ、天罰ってもんだ。お前のお蔭で俺たち騎士団には護衛任務さえ来なくなっちまったんだ。」
可愛い服で来ていたアリスが嫌みを言う。
「貴方達もこんな教会の中まで何をしに来たのですか?騎士団の管轄ではないはずですよね。」
アリスが不良騎士達に反撃した事は、私の心臓を躍らせる結果になった。
私もエリオットも普段着で、剣しか持って来なかったからだ。
「うるせぇー。ここにはもう管理する神官さえいないんだ。俺たちが何をしようと勝手なんだよ!」
「えっ、神官がいない?」
「そうさ、罰当たりな事に『フリアノン女神はもういない』とか本部に言ったらしく、罷免されたそうだ。誰かさんの名が轟けば轟くほど、この国の教会に神官はいなくなるのさ」
「という訳で、俺たちは信者が騙されて寄進した物を返してもらってるって訳だ。」
「この女神像も、こうしてやろう。」
そう言って槍で女神像を突こうとしたその槍先を、私の剣で弾く。
『ガキン!』
「何をするんだ。罰当たりめ!」
「フン!お前が神なんていないって言い出したんじゃないか。」
「フリアノンさまがもういないとしても、神を槍で突いていいという話じゃない!」
「へん!せいぜい良い子ぶってろ。」
そういって団員たちはいなくなった。
(大変な事になってる!)
女神像に跪いて、祈りを捧げる。
アリスとエリオットも仕草をまねている。
靄の中に女神さま、男神さまが見える…。
「なんということでしょう。王宮に罰を…」
「お待ちください。もちろん彼らに非があるのは確かですが、そもそも、本部がフィアナ様の事を信ぜず、神官を罷免した事が原因なのです。本部はどこにあるのですか?」
「…帝国なの。そもそも、教会の発祥の地は帝国。どういうわけかフリアノン女神の存在を信じる一部の者から、その名が広まり、帝国は女神の名を利用して勢力の拡大を図ったの。もはや信仰ではなく、政治なのよ。」
「ちょうど教会を経営したかったのですが、いかがでしょう?」
女神の後ろで会話を聞いていた男神
「あー 君は農民に農機具の手入れ方法や、算数など、生活を向上させる教育の場が欲しいようだったね。」
「お見通しのようで、恐縮です。」
「だがそれは、やはり人の世界の事だ。神の名の元で行う事ではない。一方足りないものもある。回復魔法を普及させる機関というのは、どうかね。」
「出来るのですか?私に。」
「うむ。これまで通り、人を助けていれば可能になるだろう。それと、同じ教会同士で争うというのも問題はある。『教会』という形を変えて『神殿』というのはどうだ。『神社』だと個人崇拝の色が出てしまうだろう?
『神殿』にフィアナ、フリアノンなど、本当に君が知っている女神を祀り、信じれば良い。」
「そういえば、男神様のお名前は?」
「女神は別として、神という存在はひとつ。偶像を作りそれを信仰することも、名を呼ぶ事も避けるようにと教えている場合もある。」
「女神さまは良いのですね。」
「女神とは、いわゆる『天使』と呼ばれる存在でもある。神とはそもそもが違うのだよ。」
「はは~なるほど…」
「教会については、現状そのまま捨て置けばよい。いずれ、神殿を建て、女神像を作り、回復魔法を示せば、奇跡として信じる者が増えるだろう。だが、それによって帝国教会の政敵となる事が決定するのだ。そうなる前に君の一族が2部隊帝国に派遣されているのであろう?準備をしておけ。」
「北の国の周辺隊か…分かりました。ご忠告ありがとうございます。」
しばらくして目を開けた。
現実の時間は経っていないようだ。
ふたりも目を開けて立ち上がった。
そう言えば、マリリンが里帰りしているため、夜のメイドをアリスが担当してくれている。
本当の事を言えば、私には必ずしもメイドは必要ないのだ。
今度セバスに相談しよう。
「アリス、君がさっき騎士達に突っかかっていった時、僕の心臓はバクバクしたよ。悪いって言ってるんじゃなくて、3人共、常に万一を考えた服装で外に出るようにしよう。」
「分かったわ。心配掛けてごめんね。」
「僕もうかつだったよ。今度から外出時は警戒態勢でいよう。」
この事件以来、僕たちは外出時に戦闘服を着るようになった。
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