第61話 七曜鉄道
7月第1週に入った。私は暑いのが苦手だ。
私が作ったエンジンは、本来なら650℃付近で起こる化学反応を、点火プラグならぬ魔力プラグによって、魔力場に燃料をさらして分子結合力を弱め、常温で一気に酸化反応をさせるエンジンなのだが、所詮は水素が燃焼(酸化)するのだから温度は上昇する。
早い話がエンジンは熱い。
だから、排気量の大きいエンジンの開発も暑い。
涼しい朝のうちに練り練りして、部品を4倍の大きさに拡大して作っている。
幅40cm、長さ60cm、高さ30cmって、いかにもエンジンらしい大きさと言える。
これで3200ccだ。
しかし、道を走るなら時速40kmでさえ危険なのだが、今回は線路を走る。
駅には登山鉄道のアプト式という歯型線路が2列ある。
このエンジン2基を使って軌道はバラストと呼ばれる石を使わず、コンクリートの短かい枕木をコンクリート製の道に固定し、その上にレールを敷設する構造だ。
この構造は軌道狂いがほとんど無く、保線作業による保守が不要で手間がいらない。
定期的にドクターイエローのような点検車輛を走らせてチェックすれば良い。
まーこの世界にはドクターイエローは不要だと思うけど。
そんな午前中の仕事が終わり、私とエリオットは学園で飛び級試験を受けてきた。
屋敷に戻り同級生トリオで休憩を取っていたところ、宰相から手紙が届いた。
宰相の影達が砦の西側の小屋を見つけて、訓練と同じように、音響閃光弾を使って拠点制圧に成功したが、すぐ後ろからローガン士長が小屋に入ってきて、影達3名を殺害したらしい。
だがイザベラが何とかローガンを仕留めたという情報が入ってきた。
宰相としては、何が伝えたかったのか不明だが、ともかく、4対1でも3名が殺害されるというのは鋼鉄剣を持たない者の悲劇だと言える。
しかもローガンは薪割という加護持ちだ。
背後からイザベラが袈裟懸けに切らなければ、つまり、捕獲を目的としていたなら、間違いなく全員が死んでいた筈だ。
それなのにローガンを背中から切ったという理由で、マーガレットはイザベラを非難し、出入り禁止にしたそうだ。
小屋から得られたものは、鍛鉄剣数本と38式歩兵銃だった。
だが弾薬は別管理のために手に入れていなかったそうだ。
しかも銃に装填されていたのは訓練用の模擬弾であり実弾ではなかった。
このことから、訓練施設に保管されていた銃だと判明した。
どちらにせよ、マーガレットの夫は他国からの工作員だと断定された。
そしてやはり、マーガレットは妊娠していたが、今回の事件があり、お腹の子は流れたそうだ。
それにしても、シンシアがどこまで情報を得ていたのかが気になる。
シンシアの精神状態も気になる。
宰相には、シンシアの苦悩が心配だと記し、イザベラはシンシアに付けるべきだと進言した。
マーガレットに処罰が及ぶかどうかは不明だが、参謀部の職は解かれるだろう。
だからこそ、シンシアにはサポートが必要だと思う。
だが、私はサポートできない。
私は七曜の幹部であり、もう一人ぼっちのカール君ではない。
しかし、それにしてもなぜ、ノロ共和国はこの国に侵入してくるのだろうか。
動機があるはずだ。思えば最初は堂々と湖を渡って来た。たった5艘15名の先遣隊だった。例え圧倒的に戦力に自信があっても、占領するには全く足りない戦力。
つまり、占領が目的ではなかったという事だ。こちらから潜入するにしても、湖には見張りがいるだろう。
砂漠を越えるにはサンドワームという魔獣がいるので、こいつを何とかする手段が必要だ。
今の銃では無理だ。
38式改造自動小銃に炸裂徹甲弾が必要だろう。
何やら創作意欲が湧いてきた。
「だめですよ、カール様。今は鉄道会社の立ち上げに全力をあげてください。」
そうだった。
顔バレ防止のため、徹底的に外出禁止になっているアリスは欲求不満なのだ。
それなのに砂漠の魔物退治など、レナが進級して姫の所在が明確になるまでは言ってはいけない事なのだ。
鉄道事業の予想日程では、エンジンの各部品製造と組み立てに、約1週間を見込んでいる。
動力車は燃料タンクである液化アンモニアのタンク2個を装備し、4輪ともに駆動するのだが、クラッチを同期させて、操作するしくみをアリスが設計している。
それと同時に、動力車だけで客車や貨物車が動かせるかどうかを考え、動力台車と車輛を分ける設計も考えている。
早い話が、動力台車の駆動をあてにするのは起動時だけで、動いてしまえば慣性力で駅には到着する。
このため、台車には燃料タンクやクラッチは必要なく、各車輛にガス状の燃料を一時的なタンクに一定圧だけ貯めればいいのだ。
この動力台車を客車分2つ。
貨車分2つの合計4つ製造する。
今アリスはこの部分を設計中なのだ。
だから、後ろからそっと近づき、ウエスト部分に抱きつくと
『ひャー』
と驚かれてしまった。
楽しいけど、このあとアリスの反撃が始まった。
私の体のあちこちを撫でまわし、匂いを嗅ぎ、最後は顔面ドアップで軽くキスになる。
この時、綺麗に整った顔のパーツが全て魅力的だ。
まるで整えたような眉毛、青色で透明なキラキラする瞳。
そういえば、軽装甲車を作った事もあり、馬車は処分したが馬はいる。
厩舎の世話係ベルさんを先生として、これから乗馬も教わっていきたい。
それと、女子には性教育があった。
この屋敷には大人の女性はベルさん以外にいないのだが、マーガレットの事件がきっかけで、セバスがベルさんに依頼したのだ。
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