第55話 近接戦闘演習
今日は、迷路での近接戦闘演習だ。
見張り台は2つある。
先日追加で中央に士長2人が建てたのだ。
この見張り台には入口の扉がある。
東には私とシンシア、西にジャックとマーガレットが登っている。
東西から入る訓練生は各3名ずつチームを組むのだが、得意武器として大剣持ちは除外した。
東西に分かれたチームは、中央の小屋を2つとも占領した方が勝ちとし、小屋の旗を取った者が占領したものとする。
武器は演習用木剣と丸盾である。
声出し禁止。
開始の合図で迷路の中になだれ込む。
今回は動きを見るため、兵にゼッケンを付けさせている。
迷路内の道を全員で入る奴、手分けして入る奴、色んな奴がいるが、自然とリーダーを任される奴がいる。
チェックだ。
ジャックとシンシアにも気になった人物を見つけてほしいと言ってある。
何も考えずに飛び込んでいくバカもいるが、今回は頭の良い者を見つけるのが目的だ。
中央に出た。
小屋に手分けして飛び込んで、クリアだ。
全員を集めて評価ポイントを説明し、評価の良かった者8名を以降のリーダーに指名した。
事前に学習した訳でもないから、慎重な性格、周囲から信頼を得ている者が選べたと思う。
だが明日は『演習用木剣と丸盾の装備で強いものを選ぶ』と言ってある。
次の日、恐らく練習してきたのであろう成果を見せてもらう日だ。
勝った者に防具を支給すると言い、ヘルメットと胸当て、籠手を用意している。
トーナメント方式で戦い、マーガレットが審判だ。
1回戦を勝ったものにヘルメットをその場でサイズ調整して与える。
2回戦に勝った者には胸当て。
この胸当ては後部はバックル式固定金具になっているので自分達でも調整できる。
1回戦で29名にヘルメット、2回戦は15名に胸当て、3回戦は8名に籠手を与えた。
いずれも奇数になるため、不戦勝が1名出たが、そのうち、全員に貸与する予定なのだ。
ここで彼らに、近接戦闘部隊は全部で8部隊4名構成である事と、昨日の演習で、リーダーに指名した8名に、同じく無作為に8番までのゼッケンを取らせた。
次に、3回戦の勝者には、ゼッケン番号9から16までを無作為に取らせ、2回戦勝者にはゼッケン番号17から23を取らせた。
複数のゼッケンを持つリーダーが3名いる。
理想的なリーダーだ。
資料に書き込んで、リーダーゼッケン以外は返却させた。
リーダーには、明日の演習から4名1組で戦闘を行うと説明し、ゼッケンを持つ者、持たない者を含めて、4人組になるようにパーティーを組ませる。
その間に、魔術師を10名を呼んできた。
彼女達は今後、偵察隊と名称を改め、方面軍傘下に配属されると全員に説明した。
そして、リーダーには、5人1組になるように、偵察隊員1名を勧誘するように要求する。
「残った偵察隊員2人が本部所属になる。」
私はあえて、このように言い、戦闘に自信がない者に逃げ場を与えたのだが、マーガレット少佐が『だまされるな…』とか、わけの分からない事をつぶやいていた。
確かに、戦闘訓練は受けてもらうが…その言い方は酷いんじゃないかな。
組み上がったパーティーから順に、方面軍でサイズ合わせした上で迷彩服を受け取り、解散とし、自主練習などは自由とした。
選ばれなかった者(予備兵)で、装備が無い者には、迷彩なしの装備(ヘルメット、胸当て、籠手)を支給して、丸盾の代わりの籠手の使い方をはじめ、簡単な戦闘方法を指導した。
彼らは以降『予備兵』と呼ばれ、無地の装備と補欠番号のゼッケンを付ける。
そして、次の日から新しい戦闘訓練が始まった。
予備兵は合計20名。
5名ずつ、迷路の指定された場所で待つ。
どちらかの小屋には2名。
朝、迷路の一部を変更してある。
今回からのルールで、迷路に入る前に、衝撃で旗が立つヘルメットを全員がかぶって出撃。
旗を立てられたら、死んだものとしてカウントされる。
要は『頭を守れ』という事だ。
安全のために、全員ゴーグルも着用している。
小隊の偵察兵は、見張り台の本部偵察兵に情報を聞く事ができる。
但し、返事は『はい』か『いいえ』しかできない。
どちらも伝言鳥によるものなので、伝言しかできない。
入ってから、小屋の制圧までの時間が計測され、時間と負傷者数が発表される。
優先順位は負傷者数、次が時間だ。
1日に午前と午後、2回攻略がある。
私はできるだけ装備を用意してあげたいが、一度には対応できないので、迷路に入る前に、順番に装備の調整をして与えた。
女性の迷彩服は一部の人を除いて、間に合ったみたいだ。
今日は胸当てのサイズ調整をしてあげているが、みな一様に胸のサイズアップを求めてくる。
シンシアの顔を見るが、『仕方ない』という反応だ。
シリコーン樹脂に変更しようかな…密着するのでサイズはバレるぞ。
2日目に3番のリーダー番号を付けたパーティーが、卒業レベルの動きをした。
狭い通路での戦闘、ハンドサインによる指示。
小屋への入念な偵察。
戦闘終了後にこれらの理由を述べて、正式な近接戦闘部隊と認め、リーダーを士長に昇任。
この第1小隊に背番号1から5までを与えた。
背番号は戦闘服に縫い付けるもので、上からかぶるゼッケンとは違う。
小隊長のヘルメットの後ろには桜紋が1つ付いている。
尚、偵察部隊は腕章が鳥のマーク。
ここ北方方面軍は漢字で『北』になっている。
昼休み中にジャックに屋敷に行ってもらい、雇用した護衛4人を呼んで、中央見張り台で待機させた。
昼食後にデモンストレーションを始めた。
できる限り見張り台や、防壁上から迷路を見させる。
私は38式改造自動小銃に赤色シリコーン樹脂を詰めた模擬弾を装着して、戦闘服で出撃する。
剣は一応、木剣。迷路には10人を配置。
正式な近接戦闘部隊を引き連れ、迷路に侵入。
銃は、いつでも撃てるように照準を見るように構えながら進む。
さっと、迷路内の進路を確認して敵兵がいれば
『パン』
模擬弾がヘルメットに当たり旗が立つ。
ハンドサインでリーダーの指示が飛ぶ。
私は単に指示に従っている兵の役なのだ。
普段の倍の敵兵数で、狭い通路では避けては通れない。
3回ほど、敵兵役を倒し、広場に到着。
音響閃光弾を取り出し、リーダーに見せて説明してから小屋に索敵をかけ、敵兵がいると思われる小屋に音響閃光弾のピンを抜き、投げ込む2,3、『パーン』
まぶしい光と音で、敵兵役がパニックになって、両手で耳を塞ぎながら出てきた。
「ごめんね」
観戦していた方面軍の全員が、驚いてフリーズしている。
やがて、再起動した者たちに向けて、大きな声で
「これが、私達が目指している戦闘なんだ。この爆弾は、音と光だけで、人は死なない!」
そう言って、護衛4人を見た。
代表のイザベラは頷いていた。
私は38式改造自動小銃を合格した小隊長に渡して、『これは小隊に1挺配備する。実弾を使うと3人なら貫通してしまう。
敵なら貫通する角度で撃ち、味方が背後に居るなら撃つな』と言って渡した。
そして、『一番上手な奴が使え。』とも。
この38式改造自動小銃は、いずれ皆が使えるようにするつもりだが、個人所有ではない。
出撃前に持ち出し、帰還時には返却するしくみだ。
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