第54話 音響閃光弾
退勤時刻になり、王太子に訓練施設が出来た事を連絡してほしいとマーガレットに伝えておいた。
ジャックに伝言鳥は使えるの?と聞いたら、元気よく『もちろん』と返事がくる。
屋敷のアリスに、『伝言鳥が届かない』と伝える事をお願いした。
確かに以前レナが『3人とも伝言鳥が使える』と言っていたはずなのに。
ジャックに『魔術師系の加護を…』と言った所で、『いいえ』と返事がくる。
「訓練ですよ、訓練。俺は出来るんだ!って自信を持って、諦めずに訓練すれば、そのうちに使えるようになるんすよ。女神さまにも負けない美貌を持ってるんだ。カール様にできねー筈がねえ。」
あまりにも強い押しに、『15歳になってからね…』と逃げてしまった。
気分的には、ターニャに夕食はいらないと言いたかった。
帰りにふらっと居酒屋にでも寄って、好きな物でも、気まぐれでもいいから注文して、ほろ酔いで帰宅できれば最良の一日なんだけど…。
「ターニャに今頃『外食にしよう』って言ったら、怒るかな?」
「いやー 逆に喜ぶでしょう。でも結局は屋敷に迎えに戻らないといけない訳で…」
そうだった。今日は諦めよう。
一旦屋敷に戻ると出るのが億劫になるんだ。
次の日、午前中に工房で音響閃光弾を作った。
アルミニウムケースの中に、マグネシウムと硝酸アンモニウムの炸薬を4.5グラム入れる。
穴がたくさん開いた鋼鉄の外装に、アルミニウムケースを入れて、外からピンを刺して、液状薬剤を入れる。
これを持って、迷路の小屋に行き、ピンを抜いて部屋の中に投げ込むと1,2,3秒で液薬剤がアルミ内部に染みこみ、
『パーン!』
大きな音響とともに、まぶしいマグネシウムの閃光が周囲に広がる。
ジャックがうかつにも部屋の開いた扉から、中を見ていたようだ。
『うわぁー』とか言って目を逸らしたが、もう遅い。
しばらくは目が見えないだろう。
鋼鉄の外装を回収。
再利用するのだ。
さて、液薬剤の粘度を調整すると起爆までにかかる時間も変わるが、今くらいでいいだろう。
そう思っていると、何事かと参謀本部からマーガレットとシンシアが来たが、迷路から出て来た私を見て、『やっぱりか』とかブツブツ言っている。
参謀本部には食堂が無いので、一旦、防壁内の方面軍で食事を取り、再び、参謀本部の工房で秘密の作業をして音響閃光弾を80個ほど作った。
午前中の20個を入れて100個ほどになる。
今日も午後3時で作業は終わり、自分用の戦闘服を作っている。
(まだこれから大きく成長するのにもったいないのだが…)
適当な迷彩柄のシリコーン繊維製。
これだと錬金スキルで作れるから便利なのだ。
木材加工はどうにもならない。
上着の襟には階級章。
私は中佐だから2本線に☆2つ。
腕には部隊章、研究という帯と参謀部の絵柄。
(右三つ巴がある)
左右に胸ポケットは無い。
鋼鉄製の中空胸当てを付けるからだ。
中空部分にもシリコーン高粘度樹脂が入っていて、割れず貫通しない設計だ。
ズボンはお尻部分が厚く、馬車用に尻ポケットにシリコーンジェルを入れる事ができる。
太もも部分にもポケットがついているが、いずれもマジックテープ式だ。
ブーツもシリコーン樹脂一体成型で、靴底に鉄板が入っている。
ブーツは紐で縛る方式。
さて、ヘルメットを鋼鉄の中空で作り、中に高粘度樹脂を入れて、完成。
ついでにヘルメットに薄く樹脂でシール状の迷彩柄で覆っておこう。
上から下まで迷彩柄で統一。
(やり過ぎか?)
参謀本部2階の応接セットへ行くと、マーガレットとシンシアが魔物を見るような目で各部をチェックしている。(違うだろ!)
この国の敬礼である、右手を胸の前へ持っていき、敬礼をした。
反射的にマーガレットが敬礼で返すが、シンシアがパニックになってから敬礼をした。
「シンシア少佐。お茶を入れてくれないか…」
そういって、応接ソファーに座る。
シンシアが紅茶をいれてくれる。
ジャックも飲んでいる。
「マーガレット少佐、今までの部隊運営とは、少し変えることにする。」
私の構想を黒板に書いていく。
現有の王国軍は総勢200名、参謀部6名、北部方面軍は78名、南68名、東が48名。
(各2名が参謀部に出向)。
北部方面軍には、38式歩兵銃を配備し訓練を経て、射撃成績の良い者を砦の防衛を任務とする砦守備隊(21名+魔術師3名)を編成する。
魔法師3名は偵察隊と名称を変更し、従来通り魔法鳥を使い偵察を主任務とする。
残り57名+魔術師10名だが、兵士4+偵察1の5名を小隊とした『近接戦闘部隊』を新設する。
4つの小隊を有する20名の中隊を2部隊作る。
つまり兵士32名+偵察隊8名が近接戦闘部隊となり、兵士25名と偵察隊2名は、予備隊となる。
マーガレット少佐
「私はどこに所属するのだ?」
「君は参謀部の少佐であり、戦闘教練の教官だ。あの訓練施設で『鬼教官』と呼ばれるようになる予定だ。」
「お前という奴は…」
「待て!そんなに怒るな! お腹の子にさわるぞ。」
シンシア
「えっ!」
ジャック
「おっと」
「な、何を言っているのだ!まだ出来たわけじゃない。」
「そうなのか? もう生理は来たのか?」
「いや、遅れているだけだ!って…お前は一体いくつだ!」
「マーガレットよ、とにかくだ。結婚した以上は子供が出来て当たり前なんだ。そのつもりで勤務内容を考えるのが当然だろ。」
「確かにそうですわ、姉上。」
「マーガレットの後継者を早く作らなければ…私が王立学園に戻ったら、魔術だけでは卒業できないように、仕組みを変えるつもりだ。近接戦闘力のない者を前線に出すのは、危険だからな。」
自分用の1サイズ大きい戦闘服を作ってあるので、シンシアに渡して、『これと同じような戦闘服を色々なサイズで大量に作らせてくれ、素材は普通のでいい。』そういって今日は帰る。
帰り道で、再び居酒屋が頭に浮かぶ。
「あ~刺身が食いたいー」
「どういう意味です?」
「合言葉さ。」
煙に巻くしか方法がないのだ。
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