第5話 魔法の先生
王国歴 253年4月第2週
ギルドから情報が洩れるとは思わないが、加護を3つ持つ貴重な存在の子供が、毎日往復1時間半歩いて武器屋に通うのは不用心だ、と父が主張したので、ダグザお爺さんの所に住み込む事になった。
毎日2時間のウォーキングの代わりに、冒険者ギルドの訓練所で走り込みを行う。
半年掛けて木剣も振れるようになった。
現役時代にあまりやらなかった腹筋運動も取り入れ、腕立て伏せも少しずつ回数を増やしていく。
容姿は母に似て、体全体のどこもかしこも柔らかい女の子のようであったのが、少し筋肉が付いてきて、逆に細く締まってきた。
やっと男の子の標準体型になったところだろう。
自分で素材の採集など、危なくてできないので、訓練後は主に資料室で素材の勉強と、実際に素材を購入して薬を作るなどして過ごした。
既にランクはお試しのGランクから、Fランクに昇格していた。
この半年は塗り薬などの外用薬を手始めにして、最近では漢方薬などの服用薬にも挑戦し始めている。
確かに錬金の加護は有効なようで、一度たりとも失敗はしていない。
さすがにポーションなど魔力を必要とするものをギルドの貸道具場所で作る気にならないため、資金をためて錬金道具を買う計画だ。
なので、まだまだ先の事になりそうだ。
分析の加護は、『分析!』と単純に唱和したり、念じても何も起こらない事が分かった。
主にその対象物を観察していると、どうすれば分析できるのかが頭に浮かんでくる。
刃こぼれが激しい鉄の剣を、スクラップとして買い取る事があるのだが、この剣をじっと見つめていると、『小さなハンマーで叩いた時の音の変化でヒビ、金属疲労が分かるのでは?』などと浮かんでくるのだ。
私の持つ『分析』の加護は、比較による分析力をサポートする能力ではないかと推察している。
魔法陣が自在に使えるようになれば、X線レベルの超短波長の電磁波を対象物に当てて、反射光のスペクトルを見ることで分析する事も可能かもしれないが、まさかね。
一般的な鉄では、炭素が5%ほど含まれているし、有害なマンガン、イオウ、リンなどもあるから、折り返し鍛錬や鋼材の合わせは、いずれは試してみるつもりだが、百練鉄や五十練鉄などの言葉があるように、今の私ではそれだけの回数鍛える腕力がない。
何をするにも魔法は必要なのだろうから、簡単な練習方法がほしい。
とは言っても攻撃魔法をバンバン打ちたいわけじゃない。
ポーションを作りたいのだ。
そして将来的には魔道具も。
冒険者ギルドから武器屋に戻って、ダグザさんに相談したのだが…
そもそも、防具を扱っていないのには理由があるそうだ。
革製品は縫製技術が必要だし、鎧などは金属部品の調整が必要だから金属加工の技術が必要なのだ。
魔道具を作るにも金属加工によって、筐体を作らなければならない。
ダグザが武器しか扱っていないのは、そういう魔法を使える人がいないからなのだ。
とりあえず、冒険者ギルドに相談してみよう。
トレーシーさん経由で、ギルドマスターに面会予約を入れてみた。
今のところ平和なフェドラ町のギルドマスターであるタイガーさんは暇みたいだった。
「カール君、順調に訓練できているようですね。ところで相談とは何でしょうか?」
「はい。ポーションの作成をやってみたいのですが、魔力操作さえした事がないので、指導してくれる人がいないか、聞きにきたんです。」
「なるほど…そもそも魔術師の加護を持った人は国に所属するし、ポーションもほぼ王国魔術師団が供給するからね。個人でポーションを納品している人がいるかどうかだね。ちょっと待っててください。」
そういって、トレーシーさんを呼んで
「確か、個人でポーションを納品してた人がいたね? 調べてくれ。」
「はい。分かりました。」
ふたりの会話を聞いていると、タイガーさんは名前と違って優しい人だと分かる。
「ポーション作りですか…。実は国としては、魔法の使用について10歳以降からを推奨しているのですよ。まー冒険者ギルドは国家に属さない組織ですが、確かに魔法が精神に関連している事実がある以上、悪い影響を受けないように注意はしてくださいね。」
そういえば、私のHPが20からスタートして、今やっと45。なのにMPは最初から240を超えていたのは恐らく、精神年齢43歳というのが関係しているのだろう。
トレーシーさんが戻ってきた。
「判明しました。南西地区の魔道具店、サマンサさんです。」
既に60歳は超えているだろうお婆さんらしい。
「トレーシーさん、ありがとうございます。簡単な店の場所がわかる地図があれば、ほしいんですけど…。それとギルドマスターも、ありがとうございます。」
「ダグザのお爺さんと相談して、一緒にいってみます。」
そういって、1階で地図を書いてもらい、店に戻った。
とりあえず、魔力操作をやってみよう。
そう思って工房へ入り、『魔力はどこ?』と分からないながらも、温かく感じる場所を探す…。
ダグザ「おっ!柔軟体操か。わしもやっておくか…」
そういって、隣に並んで真似をしている…」
(分かっててからかってんのかな?…だめだこりゃー)
はーー とため息をつきながら、工房内を歩き回る…。
溶解釜…石炭と木が燃料だ。
そのとなりが金床。
片方にサイの角のように尖った部分が突き出ている。
そのとなりは足踏み式のグラインダーが置いてある。
一回りすると作業台がある。
作業台には図面をぶら下げる竿が付いている。
隣にはいくつもの工具。
「いつになったらケインお爺さんの道具を使いこなせるようになるのかな…」
「焦らんでもいい!怪我だけはせんようにな!」
「そういえば、南西地区のサマンサさんの魔道具店に行ってみたいんです。」
そういって、ダグザ爺さんに地図を渡した。
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