第49話 北方方面軍への移動
屋敷に戻り、アリスとエリオットと3人で昼食を取っている。
アリスはエンジン後部のベルトからも、動力を得られるように改造したそうだ。
この駆動力を耕運機の爪に使える。
既に乗用タイプになった耕運機。
セルはゼンマイ式を改良して、板バネに連動するギアにラチェット機構を付けて、何回も紐を引いてゼンマイを絞る機構で対応した。
蓄積された回転力で始動できなかった時はない、安定の仕組みだ。
最後のブレーキは、てこの原理を利用した油圧式足踏みブレーキで、駆動側にブレーキを付けるのがメカとして難しいため、後輪を制動する事にした。
安定性のこともあり後輪の方が直径が大きい。
試作機は後日試験を行って、OKなら2号機も作り、農夫ロバートとフェルマで、『畑耕します』という代行業でもすればいいんじゃないかな?いずれは、農耕機械のメンテナンスは守備隊の事業にすればいい。
5月に入って、参謀本部が本格的に移転作業を進め、ほぼ完了となった時、マーガレット少佐が結婚した。
旦那が参謀本部にマーガレットを取られるとでも思ったのだろうか。
新婚旅行は、国境を越えた北の森で1週間の獣のような生活だったらしい。
森の獣もさぞ怖かっただろう。
私達の移転は遅れている。
それというのも、屋敷の資源が大量にあり、特に鉄材など馬車で運べる重量ではない。
軸をベアリングに改良しても車輪が木では、簡単に割れてしまうだろう。
だが、耕運機をたくさん作って資源を消費するわけにもいかない。
王都で作っても、各都市に運ぶ手段が無いのだ。
4人組で話し合いの結果、ジャックとターニャと私で先にフェドラ町に赴任し、国王との約束である王太子を鍛えるための実践訓練プランを考え、かつ、戦闘訓練施設を作ろうと思う。
アリスには、鋼鉄の薄い外装を持つ軽装甲指揮輸送車というべき車両の開発をお願いした。
コンセプトそのままの名前なのだが、戦闘時に前線に行き安全な環境で指揮ができる、いざとなったら、負傷者を後方へ輸送できる車だ。
ハンドルは円形を希望し、イラストは下手だが、書いておいた。
82式指揮通信車を参考に考えたのだ。
レナが学園に通っているが、元々影だった事もあり、特に一人にする事を心配はしていないが、かわいそうだ。
やはり身軽な形での赴任が良いだろう。
懐かしのフェドラ町まで5日間、ジャックに御者をしてもらって、私とターニャは馬車の中にいる。
シリコーン樹脂でクッションが作れるので、お尻の問題は無いが退屈なのだ。
品行方正というより、アリスが来てからターニャに興味を失ったのが本当の理由だ。
馬車から外の景色を見ているのだが、思考としては、王太子の剣による実戦経験だけで、王宮内で騎士団との戦闘に勝てるのか?と自問自答していた。
もちろん、精神的ストレスに強くなることが、パニックに陥らずに危機を回避する事になるし、それこそが王太子に必要なことではあるのだが。
そこで荷物から取り出した38式歩兵銃の全長を300mm短くして照準を作り直し、38式騎銃に改造した。
これで全長950mmくらいになって、通路での戦闘にも使える。
更に機関部のボルトアクションを外し、銃身先端からのガス圧力を一部、撃針後部へフィードバックさせて、薬莢の排出を自動で行う機構に変えた。
薬莢を排出した後に、戻ってきた撃針を受け止めている間に次の銃弾が上昇してくる。
これをスプリングで機関部が押してやれば、次にトリガーを引けば、撃針が前進して再び発射できないか?
そんな事を考えながら、機関部の改造をして、また、馬車から見える樹木を撃っては改造を繰り返して過ごした。
最後は今までの安全装置が使えないため、トリガーを引けない形の安全装置と、10発装填できるマガジンを練り練りして完成した。
38式改造自動小銃。
引き金を引かないと弾は発射できないが、ボルトアクションが不要なので、3秒に1発は打てるだろう。
これで騎士団に対抗できるだろう。
練習用にシリコーン樹脂を弾頭にした模擬弾を100発作成してフェドラ町に到着した。
現地に到着して真っ先に、実家に挨拶に行く。
だが、実は家族に対する感情があまりないのだ。
私は既に王国軍の中佐というポジションと165cmの肉体を得ていて、子供の感覚は既にない。
父と母と兄に挨拶したのだが、むしろターニャを彼女か?と聞いてくる程度だ。
このような会話に、忙しかった生前の両親から放任されていた子供時代を思い出していた。
愛情の問題ではなく、田舎の山奥から都会に出てきた両親は、生きるために猛烈に忙しかったのだ。
次に、サマンサ魔道具店に顔を出したのだが、湖の町バルナに行ってしまったのか、店は閉まっていた。
仕方なく、借りた屋敷を探すと魔道具店の近所だった。
このオレンジ色のレンガの壁に見覚えがあったのだが、中は貴族屋敷だったとは知らなかった。
鍵は北方方面軍の本部に預かってもらっているらしい。
方面軍本部に向けて、南東方向の武器屋に向けて歩き出した。
この辺りは貴族の住んでいない屋敷が多く、人通りが少ないのは、昔から知っていた。
そんな静かな裏道に酔っ払いが3人、大声で話しながら、右にフラフラ、左にフラフラ。ジャックと私が目を合わせた時、ターニャ目掛けてよろめいてきた。
「危ない!」
お読み頂き、ありがとうございます。




