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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第1章 カルバン王国
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第43話 エンジン模型


さて、アリスは可愛いのだが、まだ12歳。


それなのに誰よりも積極的にアプローチしてくるので周囲が警戒している。

というのも、12歳で妊娠などしたら…って生理も無いのにする訳ないのだが、いわば、『行き過ぎる行為がないように』という配慮から、最低限の体力を身に付けるまでは、『カール様禁止』だそうだ。


プロパガンダの日?なので、今日は仕事はしない。

だがレナは終了試験の勉強のため、セバスの特訓を受けている。


宰相の所の姉妹は今や完全に射程圏外だ。

などと考えながら、朝食を食べて、自主トレを行う。

最後がジャックとの模擬戦。

最近は30分経っても、くたくたにはならなくなっていた。


シャワーを浴びて、シャツを着替える。


9時前、これからする事が無いのだ。

みんなはそれなりに一生懸命、何かをしているのだろうな。


ターニャが紅茶を入れてくれる。仕方ない。今日は頭脳労働だな。


「ターニャ、これから考える仕事をするけど、そばに居てね。」


「はい。」


エンジンの事を考えよう。

何を作るにせよ、構造が簡単な事が優先事項だ。

部品を作るのは自分しかいないからだ。


基本構造は直列4気筒エンジン。

燃料は硝酸アンモニアに酸素混合。

このままだと650℃付近のディーゼルエンジンになってしまうが、これを魔力反応によって分子結合させる、名付けて『魔力酸化方式』を採用し、常温での爆発を実現する。


もちろん、まだ作ってもいないし、実験さえ始まっていないが、筐体さえ無いのだから仕方ない。


排気量だが、実験的に始めるのだし、もし動けば、カブ号でも作りたいので、小さめサイズでスタートだ。


法令ではなくマジで30Kmしか出ない籠付きカブや、農耕機械を作りたい。


燃料タンクは硝酸アンモニアと酸素の2つの高圧ボンベを使用するが、今回の小型エンジンでは、カセットボンベタイプのものを開発する。


バルブはSOHC方式。


作成する部品は、多岐にわたる。


シリンダー+リング、クランクシャフト、カムシャフト、バルブ、スプリング(各種)、エンジンフレーム、タイミングベルトなど。


小さいサイズなら、小さいほど難しいバルブからだな。

次がスプリングか。これで最小サイズのシリンダーが決まる。


変速クラッチが要る。

フライホイール、クラッチディスク、プレッシャープレート、ダイヤフラムスプリング、板バネなど。でも、カブはクラッチ無しだな。

農耕機械も。ギアか。


必要な部品リストを作っているだけで、気が遠くなるね。


「ターニャ、ちょっと休憩。お茶ちょうだい。」


そういって机から離れ、応接ソファーに座ってターニャの入れた紅茶を飲む。

何故かCADデータのようなものが頭をよぎる。

しかし、理解できない。

やっぱり普通の鉄を使って、隙間の大きい模型を作った方が、構造を検討しやすい。


「カール様、昼食の用意ができております。」


「はい。行きましょう」


丁度工房へ行こうかと思っていた所だ。


食堂へ行き『軽い食事を』とお願いした。

本格的に食べると、頭が働かなくなる。

気が付くと、誰も来ていない。

ターニャは私が考え事をしていると、『思考の邪魔をしないように』という合図を各所に出すことがある。それだろう。



ご期待にお答えして、工房へ移動するとエリオットが合流した。


「ありがとう、エリオット」


とりあえず高速度鋼を練り練りしていると、なぜだか、頭の中に様々な部品の形状が浮かんでくる。


それを、次々に形にしながら、金属籠に入れていくと、流れ作業のようにジャックが溶解釜に入れていく。


ここでも私の思考の邪魔をしないようにしているようだ。


空きになった籠が元の位置に来たので、再び、部品を思い浮かべて、練り練りして部品の形を忠実に加工していく。


3回目の練り練りでは、シャフト類とエンジンフレームなどの大きな物を練り上げて、頭の中に残ったのは、タイミングベルトやエンジンオイルやパッキン類であった。


エリオットが釜の温度を上げている間に、化学合成室のなかで、シリコーン樹脂に何かを加えて練り練りして、一つはベルトに。

同じく樹脂から粘度の低いオイルに。

そしてパッキンに。


ここで、魔力切れを起こした訳ではないが、少し休憩を取りたかったので、一旦、自室に戻り、昼寝タイムにさせてもらった。


あとはエリオットがいつもの焼き入れをしてくれる。

ベッドに入りつぶやく。


「おやすみ。そしてありがとう、女神さま」


だって、あんな知識が頭に浮かんでくるなんて、あり得ないのだ。


定着させる必要はない。

ただ、浮かんだ時に、浮かんだアイデア、形を加護の力で再現するだけでいい。

あとはすっきり忘れてしまおう。

そして、今は疲れた頭を、魔力をやすめよう。


おおよそ、2時間ほど寝ていたようだ。


既に5時。


夕陽に照らされて綺麗な畑を眺めてから、工房の扉を閉める。

閂を下ろし、工房一面に広がる部品たちを、組み立てて終わりにしよう。

部品を手に取ると構造が頭に浮かぶ。


組み立て手順に準じた部品が浮かび、それを作業机の上で、組み立てていく。

アリスが後ろで見ていたが、作業机の前まで来て見ている。


エンジンの上半身まで組み立てたら、最後にカムシャフトやタイミングベルトを取り付けて完成。


駆動用のハンドルをクランクシャフトに取り付けて、手で回す。

『ペコッ シュー』

『ペコッ シュー』


なるほど。

って、自分で作ったのだが実際には頭に浮かんだ部品を成形し、組み立てただけなのだ。


シリンダーの燃焼タイミングは、72°、144°、216°、288°だったかな。

それにしても、これは、学習用じゃない。

大まかに作るつもりだったのに、空気が漏れない精度だ。


ただ、完成品にするには点火プラグの代わりに、銀プラグに魔力を供給する仕組みが必要になる。

電池の代わりは魔石だけど、この部分は課題だな。


明日、学習用に石英ガラスで同じ構造のエンジンを作ろう。

もっと小さいエンジンを作るつもりだったのだが、小さい部品は魔法でも難しいのだ。

コンビニ弁当を4つ積み上げた大きさだ。

排気量がシリンダーの容積だとすると、4室分で400CCはある。


アリスがしきりにハンドルを回して観察しているが


「明日ガラスで同じ物を作ってみるよ。それだと、もっとわかりやすいと思う。」


そういって食堂に行くことにした。




お読み頂き、ありがとうございます。


ところで、そのうち第2章とかの章で区切らなければならないと思っているんですけど、どうすればいいんでしょう?どなたかご存知の方で、教えて頂ければありがたいのですが…


おそらく初期設定ページでするんでしょうね…(コメントや誤字報告などを使って教えてくださると助かります)


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