第42話 鉄道ルートの構想
平日は昼前に2~3話投稿の予定です。
昼休みの暇つぶしに読んで頂ければ、大変、嬉しいです。
研究所に到着して、事務所に行く。
いつも通り、マーガレットとシンシアは既に出勤していた。
「おはよう!」
「カール中佐……おはよう」
「おはようございます!」
「マーガレット。何なんだよ。その中途半端な反応は。」
「大きくなったなー、とか、綺麗になったなー、とかあるだろう。」
「自分で綺麗になったなんて言うな。腹が立つ。」
「本当にきれいになりましたね。」
「本当は男らしくなりましたねって言われたいんだけどね。ところで、何か変わった事は無かった?」
「車両基地からまだ外へは出ていませんが、先が見えないんです」
「そうだろうな。鉄道ルートの第2工事は、王都南駅~鉱山町イワノフ、そして湖の町バルナ~砂漠の町ボルスキー、そして王都南駅のルートを考えている。」
「鉄道ルートの第3工事は、王都東駅~東の森ハリコフとの往復ルートだ。その先はセントラル帝国になる。」
「最終的には、王都の周囲を鉄道線路が一周する事になるだろう。参謀部の方面隊諸君には、そのつもりで実施計画を考えてほしい。鉄道線路の幅は4mでいいだろうが、実際に必要な土地は倍の8mで確保してもらいたい。駅だと列車が2輌並び、人が乗り込む、人が降りる、そんな場所も必要になる。」
「この鉄道計画は1年や2年で完成するものではない。いわば国を作るのと同じ10年20年の単位で考えるべき事だ。長い時間が掛かるからこそ、早く着手しなければならない。必要だと気が付いた時にはもう、手遅れになっている。」
「宰相閣下とも話し合えばいい。これまでと違い、鋼鉄剣からクロスボウ、そして肥料が生まれ間もなく望遠鏡だ。新しい物が生まれ、それが新しい技術となって、次々と新しい物を生み出す。そして数年後にはフェドラ町から王都まで、24時間で大量の人と荷物が届く時代が来る。」
「それらは私が生み出した物ではあるが、言い換えれば『女神の意思』。私が死ねば、他の者が加護を得て、同じことが起こる。」
「考えてみろ!もし、攻撃的な南の国で、私が生まれていたとしたら、今頃グランデ王国がどうなっていたかを。」
マーガレットとシンシアは気がついたようだ。
平和な気分でいられるのは、自分達の国がリードしているという、ただ、その思い込みによるものなのだ。
事実、帝国で、ノロ共和国で同じような人物が現れていないと断言できるのか?
研究所から屋敷の工房へ戻り、倒れる前の作業を思い出していた。
棚にあるのは直径5mmの高速度鋼のボールであった。
『そうだ、ボールベアリングを作っていたんだ』。
そして、中に入れるグリスと、漏れを防止するパッキンを開発していたのだった。
ケイ素(Si)をシロキサン結合(Si-O-Si)の構造体にして…。
頭に構造が浮かんできた!(こんな構造だったのか!)早速、二酸化ケイ素を練り練りして、シロキサン結合にして、シリコーン樹脂が出来た。
微粉末シリカを混ぜて、シリコーンゴムにもできるから、これがパッキンになる。
この小さいボールベアリングが記念すべき第1号のベアリングだ。
100個のボールから組み上がったのは、たった10個のボールベアリング。
一つの部品にボールを8個使って試作した結果だ。
内径は10mm。
ここから、コツコツと高速度鋼のボールの大きさを大きくして、焼き入れして保管。
この鉄球が数種類出来たら、再びボールベアリングの作成をする。
この繰り返しなのだ。
学園帰りに作業をしているので、1日で1種類。1週間で6種類しかできない。
この間、エリオットとアリスが手伝ってくれた。
特に焼き入れの際、焼けた鉄球を油の中に入れる時が要注意なのだ。
本来は、小型クレーンで釣り上げて、籠ごと油曹に下すのだが、ここにはそれが無いので、細長い網を作って、刀剣用油槽に入れている。
さすがにエリオットも怖いらしい。
そんな午後もベアリング作りだった。
2週目に入り、急激に効率が良くなってきている。
先週は内径が10mm~20mmを作り、今週は22mm~55mmまでの15種類を作った。
さて、日曜日と言っても、私が勝手に日曜日と呼んでいるだけで、1週間が7日なのは同じだが、日曜日とは言わず全て祝日のような『国王婚姻の日』とか『王太子記念硬貨配給の日』とか、王族に感謝する気持ちを持たせるプロパガンダの日なのだ。
そう言えば、襲撃事件に関し、デイジーが自白するのは簡単だったそうだ。
魔術師団では魔法鳥と同じような魔道具が作れないか?という課題に対応するため、掛け時計を改造した物を開発していた。
これに必要だった物が目玉だったのだ。
実際には目玉に映った画情報を魔法で何とか試行錯誤している段階だったのだが、これらは死刑囚や、目を持つ魔物から採集されていた。
それをデイジーの目の前で、スプーンを使って目を取り出すのを見せたのだ。
もちろん、胃の内容物を吐いてしまったそうだが、すぐに知る限りの情報も吐いてしまった。
人間なんて弱い物だ。
慣れて乗り越えていく者も居る。
それも含めて切ない生き物だと思う。
あのソフィアを圧倒したのは、学園の最終段階、15歳の男と14歳の子爵家の者だった。
不良では無かったが、優秀でもなかった。
この実行犯も、自供はしたのだが、わがまま姫は証拠など残してはいない。
手紙には決定的な証拠になる文言は書かれていなかった。
これで、今回の事件の捜査は終結になった。
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