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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第1章 カルバン王国
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第35話 化学の授業


朝食はジャックとエリオットと3人一緒に取っている。


このあとの訓練と、研究所までの護衛をお願いするからだ。

要はこれから屋敷に戻るまでは、ずっと一緒なのだ。


今までやってきた訓練メニューをジャックに見てもらう。

裏庭に出て、広い裏庭を5周、腕立て伏せ30回、腹筋30回、剣の素振り30回、守りの剣の型。


「本当にあっしでいいんですかい?カール様にも王太子様を教えた奴を付けられるんですぜ、上品だし、綺麗だし…目の保養にも。」



「だから、私は貴族じゃないって言ったでしょ。庶民の、それも11歳のなよなよした女の子みたいなのを指導したいと思う人は、ジャック以外にはあまりいないと思うけどな。」



「はいはい。じゃー明日からメニュー変更って事で、研究所に向かいますか…」


「すみませんが、よろしくお願いします。ジャック先生。」


「あはは。でも人前では『先生』は無しですよ!」


「分かってますよ。じゃ、着替えてきます。」


軽くシャワーを浴びれば、脱衣室にターニャが居て、タオルで体を拭いてあげる、そんな姿勢で待ち構えていた。


「自分で拭くから、今日着る物を用意して!」


「はい。ただいま。」


帯剣用ベルトに今日はポーションや薬を入れる革袋(タバコの箱サイズ)を3つ付けて、屋敷1階の資料倉庫の所から、厩舎側に出て馬車に乗り込むと、エリオットが追うように乗り込み向かいの席に。


御者台のジャックが鞭を入れて出発だ。

ターニャの見送りを窓越しに見ながら、屋敷内道路から、公道へ出た。



「今週、里から来る人はどういう人達なのかな?」


「他の者も知ってると思いますが、虚弱体質と言われていた女の子で現在12歳くらい。母親は元周辺隊で帝国貴族の妾だったそうですが、妊娠して正妻に殺されそうになって、里に逃げてきて産んだのが、その女の子でさぁ。」


エリオット

「その話、聞いた事があります。色が白くて病気みたいな。」


「そりゃ人種特有の特徴で、病気じゃないってセバスが言ってました。けど、メイド技能習得者が、この子しか残ってなかったそうです。病気がうつると言われて、いつも一人室内でいたようで、余計に白くて虚弱という噂になったのだろうとも言ってました。」



そろそろ研究所に到着だ。


入口で先にジャックが降りて周囲を確認してから、私が降りて、一緒に中に入っていく。

まだ、早い時間なのに参謀本部棟に入ると、そこに姉妹が立っていた。


「私にはジャックさんが消えてしまったように見えたんだけど、姉さんは見えた?」


「いや、私にもどこへ行ったのか、全く見えなかった。」


「私達の後ろ側の廊下を走り去っていったとか…かな?」


応接ソファーにエリオットと座って、シンシアにお茶をお願いする。

事務机を見ると書類が積まれていた。


「仕方が無いかー」


そう言って、事務机で書類を上から片付けてゆく。

ハンコという訳にはいかない。

全てサインが必要なのだ。


『カール』だけでは偽造も簡単なのでフルネーム『カールラングリッジ』とサインする。


カタカナのサインを偽造できる者はいないだろう。



さて、始業時間が来た。

今日は第2班の化学合成室に20名全員を集めている。

マーガレットとシンシアと私が部屋に入ると、一斉に挨拶の声がする。


「おはようございます。」


黒板の前に立つ3人。中央の私が最も背が低いのだが、気にしない。


「そこの挨拶しなかった1班の2人と、そこの2班の2人。工房室で待機を命じる。」


いずれも良く私語をしているふたり組だ。

彼らをマーガレットが工房室へ連行している間に、今日のルールを説明する。


「今日は特別に、自然界の法則のごく一部を教えてやる。但し、メモは厳禁だ。もちろんこの情報を漏らせば、極刑となる事を覚悟しろ。ではメモを回収するからシンシアに渡せ。教える事は直接頭に書け!」


そう言って、シンシアにメモを回収させて、袋に収納する。

マーガレットが戻ってきたので、講義を始める。


「では、講義を始める。一同礼!」


私も含めて全員がお辞儀をする。


「化学合成で初めにしている作業、まずは水だが、これをH2Oと呼ぶ。Hは水素、Oは酸素と呼ぶ。」


ここで土魔法を使って、ポケットから取り出した水晶をガラスのビーカーに変形させる。

(水晶や石英、珪砂と呼ばれる物は全てO+Si+O 二酸化ケイ素だ。)


「ここにウォーターで水を入れていく。この水の正体はH2Oだ。これを最初の工程で、水素と酸素に分解しているのだ。」


そう言って、ビーカーの上に蓋をして左右からホースが出ている状態にして、魔力を流す。


「すると、このように液体が減って、流す方から水素が、流された方から酸素が出る。」


「そして、この水素は危険な燃える気体だ。」


そう言って、ホースの先にファイアで小さな火を出すと、『ボッ!』という音がして、一瞬火が大きくなった。


全員が混乱中だが、クラウディア士長が真っ先に再起動したようだ。


「水の正体は、酸素と水素という気体、つまり空気という事ですね。」


「そうだ。但し、空気には別のものも含まれている。だから、ウォーターの魔法は空気から酸素と水素を取り出していると考えてよいだろう。」


実はウォーターの魔法は、空気中の水分を収集しているのだが、そこはいいだろう。


「2人目がおこなっている作業は、空気の中にある窒素Nと水素Hを混ぜて、アンモニアNHを作り出しているのだ。」


化学合成の銀容器の2個目のホースを外すと、アンモニアガスが出てきて、部屋中がたまらなく臭くなるが、すぐにウィンドーの魔法で屋外に向けて吹き飛ばす。


「アンモニアは凄く臭いので、取り扱いには注意が必要だ。」


全員が鼻をつまみながら頷く。

ホースを戻して、


「このアンモニアを最初の酸素と合成して、更に水と合成すると硝酸HNOが作られる。そして、この硝酸とアンモニアから肥料が作られている。」


「とにかく、1人目の水素、4人目の硝酸は、いずれも爆発するから厳重に注意して作業しなさい。話しをしながら作業を行って、ミスをすると君たちが死ぬ事になる。」


「私が、やる気の無い者、真面目じゃない者を排除する理由がわかったか。」



全員が「はい!」と答えた。


「この自然界の法則は、神のみぞ知る知識だ。悪用すれば天罰が下ると理解しなさい。以上だ。」


そう言って、班長の2人には、外した2人はむしろセメント作成に回した方が、危険が少ないと言っておいた。

セメントは4人に作らせなさい、とも。


午後からは、カトリン士長とクラウディア士長に新しい発明品の課題を与えようと考えていると告げて、午後に事務所に来るように言っておいた。



お読み頂き、ありがとうございます。

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