第34話 新人への初めてのカツ
時間が余っていたのでシンシアの入れた紅茶を楽しむしか無かった。
だけど時間が惜しい。
本来は来週まで新人を放っておくつもりだったのだけど、仕方ない。
シンシアを連れて、新人たちが居る第1班の化学合成室に行く。
名札は外している。
やはり、騒がしく会話しながら作業をしていた新人たち。
部屋に入ると、静かになったのだが、挨拶は無い。
シンシアにメモを取るように指示する。
日付と時刻、そして指摘すべき事実。
評価とは、感情ではなくその事実こそが大事なのだ。
全員挨拶無し。
1番の銀容器、本来水素が蓄積されている筈の容器に酸素と水素が混じっている。
名前を記入。
2番の銀容器、当然アンモニアは出来ていない。
+名前。
3番の容器+名前。
4番の容器+名前。
5番の容器+名前。
無言で部屋を出る。
声掛け無し。
同じく第2班の化学合成を見にいく。
ここも同じ。
騒がしく会話しながら作業をしていた新人たち。
でも話をしていない者が居る。
5番の子だ。
部屋に入ると、静かになったのだが、挨拶は無い。
だが、3番の子がシンシアに挨拶した。
顔見知りか。化学反応は同じ。
肥料は出来ていない。
部屋を出る。
今度は2年生の居る第1班の工房に行く。
途中で名札を付ける。
東側の扉から棟に入って工房へ。
ここでは2人が私語をしていた。
シンシアを廊下に残し、部屋に入ると挨拶をする人物は2人。
「報告を」
私語をしていた2人は『きょとん』としていて、残る2人は混乱の真っ只中。
最後の1人が、『セメント作成は順調です。』という。
私が手を出すと、その人も『何を?』、という感じだった。
「じゃ、一緒に行こうか」
そう言って、廊下に出た。
西側へ少し歩いてから、空き部屋に入る。
「5人の中で、一番真面目に、真剣に取り組んでいると判断した。えーと『カトリン』」
いかにも名札を見て名前を呼んだ。
私「君をこれから第1班の士長にする。だけど、報告というのは書類でするものだ。今週、何日に何グラムのセメントが出来たのか。休憩時間は何時から何時まで取ったのか。問題や感じた事、疑問に思った事はないか」
「はい。わかりました。」
「どうして私の指導内容をメモしないの?メモは備品として渡してあるよね?」
「あっ、失礼しました。」
「で、僕は何を指導したの?言ってみて…」
「……書類で報告…」
「シンシア、あとで再確認してね。」
「はい。」
「では、化学反応室へ行こうか」
今度は、3人で新人のいる化学反応室へ入る。
先ほどと同じか……。
全員が話をしていたが、全員が静かになったので
「カトリン。報告を」
カトリンは絶賛、混乱中だ。
仕方ない。
「カトリン士長が、状況を把握していないようなので、だれか報告を」
全員が絶賛混乱中のようだ。
仕方ない。
「んー 仕方ない。では順番に確認して行く。まず君。何を作っているのかね。」
「どうやって、作っているのかね。」
「結果は、どのような状況かね。」
この質問を5回おこなったのだが、誰一人答えられない。
「つまり、今週3日間だが、何も作れず、何も学習せず、何も考えず、何も気付かなかったと? 誰に、どの先輩に、何を教わったのか知らないが、君たちのように役に立たない職員、役に立とうとしない職員は必要ではない。」
「ここで見た物、ここで聞いた事は全て機密事項に該当する。許可なく漏らした者は厳罰に処される。その事を忘れないように。今日帰る時には、名札をシンシア少佐に返却して帰るように。以上。」
そう言って、部屋を出た。
部屋は騒然としていたが、私とシンシアは同じことを第2班でもしなければならない。
「カトリン士長。あとを頼むよ。」
返事はなかったが、私達は東の端から2年生のいる第2班の工房へ移動した。
ここでも2人が私語をしている。
シンシアを廊下に残し、部屋に入ると全員が挨拶をした。
「報告を」
私語をしていた2人は『きょとん』としていて、残り3人が、『特に問題はなく、セメント作成は順調です。』という。
第1班同様、私が手を出すと、全員が『え?』という感じだった。
「報告とは書類で出すものだ。それと問題が無いと言ったが、調合の割合は?」
というと一人が書類を出してきた。元々記録担当だったのか?
「君は元々配合の記録係だったのか?」
「はい。」
「これによると、いつも同じ配合のようだが…本当にこれでいいのか?」
2人が不服そうな顔をしている。
「これで行こうと言ったのは、あんたでしょ、という顔だな。」
と言った。
その2人が驚いた表情になる。
もう一人は「何か変える必要があるのですか?」
「分からん。どう思う?」
そう聞くと、『クラウディア』という名札を付けた担当者が
「もしかすると天候と関係があるのですか?」
と聞いて来た。
思わず指をクラウディアに向けて、『鋭い!』と褒めた。
そして
「私と一緒に来い」
そう言って、廊下にいたシンシアと共に、中央あたりの空き部屋で
「君は第2班で、最も真面目で、最も真剣で、かつ、優秀だ。君は今から士長に昇任した。第2班のリーダーだ。」
「もしかして、君は貴族なのか?」
「はい。子爵家です」
「そうかー。僕は貴族に悪い偏見を持っているようだ。改めないといけない」
そんな事をいいながら、3人で新人のいる化学反応室へ入る。
先ほどと同じか……。
全員が話をしていたが、全員が静かになったので
「クラウディア。報告を」
クラウディアもやはり絶賛、混乱中だ。仕方ない。
「クラウディア士長が状況を把握していないようなので、だれか報告を」
全員が絶賛混乱中のようだ。
全く同じか、仕方ない。
同じ質問を5回した。
誰一人答えられないのも同じだ。
「つまり、今週3日間だが、何も作れず、何も学習せず、何も考えず、何も気付かなかったと? 誰に、どの先輩に、何を教わったのか知らないが、君たちのように役に立たない職員、役に立とうとしない職員は必要ではない。」
「ここで見た物、ここで聞いた事は全て機密事項に該当する。許可なく漏らした者は厳罰に処される。その事を忘れないように。今日帰る時には、名札をシンシア少佐に返却して帰るように。以上。」
そう言って部屋を出た。
この部屋は静かだ。
2回目だったから早口だったかな、と反省した。
「クラウディア士長。あとを頼むよ。」
「つまり、後は任せるという意味ですね?」
「その通りだ!生かすも殺すも君の自由さ」
こんな反応、最高だ。
「シンシア、君は彼女達が名札を持って来たら、『本当にやめるのか。諦めるのか。』とか言って、励ますんだよ。僕は悪役、シンシアはいい人役、クラウディアもいい人役だよ、いいね?」
「はい。そういう意味だったんですかー でも所長はいいんですか?」
「私はいいんだよー かわいいから許されると思う。」
「ははは。」
全員で笑った。
(あっ、受けた!うれしい。)
お読み頂き、ありがとうございます。




