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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第1章 カルバン王国
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第33話 鉄道線路の敷設計画


御者台のマーガレットが先ほどから何度か咳払いをしている。


「マーガレット!のどの調子悪いの? 薬 あるよ!」



「う、大丈夫だ…ところでカール、良ければ私が男にしてやろうか?」


「はは。ありがとう。」


(何を言ってるんだ。私はまだ11歳だぞ…生前の記憶でも夢精って中学になってからだったはずだ。)



参謀本部に戻ってきた。

シンシアに『どうだった?』と聞くと、


「やっぱり5人だけになると、おしゃべりしながらの作業になってましたね。」



応接ソファーに座りながら、シンシアが入れた紅茶を飲んでマーガレットに


「マーガレット。明日午後、作戦室で説明会するから本部長を呼んでおいてね。」


マーガレットが伝言鳥を飛ばしているのを見ながら、


「マーガレット。伝言鳥と魔法鳥って同じような魔法?」


「そうだなー、魔石の大きさに違いはあるが、ほぼ同じだな。」


「僕にも使えるかな?」


「加護が無いと無理だ。」


「そうかー。残念。」


なるほど、精霊の力を借りてるんだろう。

まだ3時過ぎた所だけど、お腹が減ってしまった。

廊下に出て100mほど先にあるフェルマ食堂へ行ってみよう。


「こんにちはー フェルマさん。」


「あー いらっしゃい。 坊ちゃんこんな所で……『所長』さんって坊ちゃんの事だったのかい。よろしくお願いします。」


フェルマさんは、私の名札を見たようだ。

フェルマさんの視線に、ふと後ろにいるマーガレットとシンシアに気が付いた。


「ふたりもお腹減ったの?」



「昼のメニューの残りしかないんだけど、いいかい?挨拶代わりにタダにしておくよ。」


「そりゃー ありがたい。」



そう言って、窓際まで行き、1班の工房を見ながら席につく。

人影はない。


シンシアとマーガレットに、1班と2班の1士昇任後のようすを見て、士長を選んでリーダーにするつもりである事を話した。


命令で動く人ではなく、自主的に動く人が欲しいというのが理由だ。

そして、明日から新人に肥料作成をさせ、彼女達にはセメント作成をしてもらうつもりだとも言った。


きっと、そんな方針だけを伝えて、作成量も期限も休憩時間も指示されず、必ず問題が起こるだろうと、そして、その問題解決に向けて、どのような事が起きるのかも知りたい。と言った。


シンシアもマーガレットも、情けない顔をしているが、黙って見ているのはつらい時もあるが、我慢しなくては、人は育てられない。


「あなた達の子供が転んだ時、助けるのか、助けないのか、それが問題になる。その時は助けるのが正しくても、自分で頑張って立とうとしている時は、助けてはいけない。」


「或いは、自分で立ち上がる事を忘れた子供には、恐怖体験をさせて、自分で立ち上がる習慣を身に付けさせる事も有効だろうね。」



「お待ちどうさま。今日の残り物プレートだよ。」


「ありがとうフェルマさん。夕食の準備前なのにごめんね。」


「こちらこそ。どうぞ召し上がれ。」


騎士団プレートよりも数段美味しい。

素材の味が生きている。

肥料のお蔭だろうか。


美味しく遅い昼食を頂き、事務所に戻ってシンシアの入れるお茶の時間になっていた。

一息入れたあと、


「シンシア、私の武器店の工房に毎月1回届けられる土だけど、今後は屋敷へ届けるように、手配をお願いしたい。」


そろそろ疲れたので、武器屋に帰る事にした。マーガレットと歩いて武器屋まで帰る途中、リトマス試験紙をテストする。


「マーガレット、手をつないでもいい?」


あっ、顔が赤くなった!

(んー こんなガキのどこがいいんだろう?公爵家だし、世界が狭いんだろうな。春からの遠征で、マーガレットにもロマンスが生まれますように!)


翌日、新入職員がやってきた(らしい)。

私はわざと出勤せず、屋敷に持ち込んだ土を分析に従い分別している。


38式歩兵銃の銃身は、本来、鋼にクロム、タングステン、モリブデン、バナジウムを添加した高速度鋼と呼ばれる合金なのだ。


この合金は、高温でも硬さを維持し、焼きなましによる軟化に耐性を持っている。

次回作から銃身を変更するつもりだ。


今回、鉄道用動力機関を開発するにあたり、肥料作成途中に生成されるアンモニアを燃焼材として利用したいのだ。


水素を燃料とするのは危険だが、アンモニアガス2NH3だと、難燃性だが水素を含み、カロリーが高く、また、常温で圧力10以上掛けると液体になり、搬送性も良いからだ。


但し、燃焼温度が650℃付近と高い温度が必要になる。

そこで、この高速度鋼が必要になるのだ。

もちろんいきなり蒸気機関のような大きな動力機関を作るつもりはなく、小型の動力機関を複数利用することで、実用化したいと考えている。


昼前になり、参謀本部の事務所へ顔を出して、シンシアと昼食を食べている。


指示通り、新人に各班の人間が肥料作成要領を説明したあと、自分達の仕事であるセメント作成に入ったようだ。



昼食を取り終わったころ、王太子を迎えにいったマーガレットが馬車で戻ってきた。

やっぱり宰相も参加するのか…。


参謀部に配属となった魔導師10名も含め、方面軍担当6名、宰相、本部長と幹部3人が作戦室の立体図のところへ集合した。


「それでは、参謀本部、第2期活動方針説明会を実施します。王太子に対し、礼!直れ」


「参謀部の方面軍担当の諸君には、鉄道線路のコンクリート台座敷設を課題とする。」


「これの要点は、王都から北方方面軍まで、出来る限り直線で、かつ、高低差の無い道程を計画する事にある。」


「道程は完全には直線にならないが、できる限り直線に近い方が良い。但し、途中に停車すべき都市があるとすれば、その停車地点での速度は落ちるので、曲線でも良いものとする。」


「工期短縮のため3グループがそれぞれ異なる地点での工事を実施するものとし、実際の土魔法による作業は、10人の魔術師が行うものとする。」


「尚、この工事の作業実施までに参謀部マーガレット少佐は、新人魔術師たちに、土魔法の練度向上の訓練をお願いする。」


「また、新人の魔術師については、この訓練期間の練度によって、2士に昇任するものとする。」


「以上、質問はありますか?」


みんな真剣に立体図を見ていた。


参謀本部でおこなった第2期方針説明会では、本部長(王太子)と宰相がいたので、それなりに真剣に討論していたようだ。


私は、宰相から聞いていた通り、王太子のお気に入りになっていたのを実感したのだ。


なにせ、シンシアに『カール所長にお茶を』とか、『立たせてないで座ってもらえ』とか、至れり尽くせりだったのだ。



お読み頂き、ありがとうございます。

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