第30話 38式歩兵銃
取り入れの秋が来た。
小麦は大豊作だ。
エシャロット、さつまいも、里芋、セロリ、山芋なども豊作だ。
この窒素肥料は吸湿性が高い。
つまり水溶性なので稲などの水耕栽培には使えない。
水と共に流れ出てしまい、富栄養化という赤潮などの原因になるのだ。
化学合成部隊の隊員が更にキラキラ憧れの存在になり、肥料作りに励む。
来年から、国内に本格的に肥料の配給が始まるのだ。
宰相には、国内景気が良くなった分の貨幣流通が増えるため、貨幣の増産と、ギルドカードを利用した電子マネーの推進、そのための魔道具を各所に配置することを提案した。
各都市に電子マネーと現物貨幣の交換を保証するため、銀行を設置し、金貨、銀貨、銅貨の流通量と需要を把握し、電子マネーでの税の徴収など、経済規模に見合った電子マネー取引を推進する事により、造幣コストの負担軽減につなげるのが肝要だ。
また、取引内容の把握により、商人の脱税摘発につながるだろうと注釈をつけておく。
早いもので、秋になって11歳になった。
立体図はまもなく完成するだろう。
国境線よりも他国側の状況が、鳥魔法によってある程度判明して、仮想敵国の想定される作戦内容の検討がはじまった。
各方面軍の分析と参謀部の分析にどのような差異があるか、楽しみだ。
ひっそり、こっそり開発していたB火薬が完成した。
そして試験的に作成した銃は、38式歩兵銃を模倣。
口径は6.5mm、銃身長797mmのボルトアクションという、レバーをがしゃがしゃと操作する必要がある装弾数5発の小銃。
弾の初速が速く命中精度が高いが、殺傷能力は低いと言われていた。
使用する弾丸は38式尖頭弾を模倣し、黄銅製の薬莢や雷管など、全て私がコツコツと精度高く手作りしている。
白銅製被甲に弾身は鉛を使い、中経が最大6.55mm、全長32mm、弾頭重量9gのフルメタルジャケットタイプだ。
射距離400mの場合、8mmの鉄板を貫通し、22cmのレンガを貫通するこの38式尖頭弾との組み合わせは、騎馬の前脚部にダメージを及ぼし走行不能にする能力と、骨部に命中した際に貫通力が優れる一方、肉部への損傷が比較的小さい事が選定の理由だ。
私の理想は、敵兵の殺りくではなく、負傷者多数のため撤退を余儀なくさせる事なのだ。
弾丸が肉体内部に残らず、貫通した方が回復魔法での治療も容易なのも選択理由のひとつ。
負傷者は見捨てる事はできないため、後方に輸送する必要が生じ、返って人員が必要になる。
もちろん、負傷者を見捨てるという外道の国家も有るかも知れないが…。
次の日、空き地に500mの細長い射撃訓練場を土魔法とコンクリートで作り、そこで有効射程一杯の訓練ができる。
的は円形の的だ。床には50mごとに白線が書いてあるので、自分が確実に当てられる距離が分かる。
訓練用の的は、中心5cmが命中。
命中領域から3cmずつ番号を振る。
外れた場合は例えば、2時方向1。
5時方向2。命中! とかの声を隣のレーンの人間が教える。
ジャックにお願いをして、訓練に協力してもらった。
「これは、『銃』という武器だよ。組み立てただけだから動作確認と調整をしたいんだ。」
そう言って、小銃に弾倉を装着し、安全装置を解除。
ボルトを前後に操作し、弾丸が上がってきた事を確認する。
再び、ボルトを前に押し出しひねる。
『がしゃ』
実際に自分でも操作した事は無いのだ。
びっくりでしょう?
訓練場の端にあるクロスボウの的に向かって照準をあわせ、銃床を肩に当て、頬を乗せる。
これでOK?と誰かに指導してもらいたいのに…再び照準を合わせ、トリガーをゆっくり絞る。
『パーーン』
心の中で『出た!』と叫んでいる。
距離は100mほど。
再び、安全装置を掛けて、的まで歩いていく。
(あ、穴が開いてる!感激。初めてなのに、大きい的とは言え当たるのか…)
ボルトを操作して薬莢を取り出す。
「この穴に、この先に付いていた鉄が命中したんだよ。」
そういって、裏側を見ると、壁面に弾丸が食い込んでいた。
「これでしょうね」
そう言うと、ジャックがナイフで穴をほじくって、レンガにめり込んだ弾丸を取り出した。
私はまだ耳が『きーーん』と鳴っていた。
さすがのジャックも理解に時間が掛かっているようだ。
「もしかして、この鉄つぶはカール様の、その魔道具から出た物ですか?」
「そうだよ」
「目に見えなかったんですけど…」
この不殺銃弾ともよばれる38式尖頭弾を38式歩兵銃で撃った場合、初速762m/s、最大飛翔距離3,700mだったはずだ。
目に見える筈がない。
「ごめんね。まだ耳鳴りがしていて、良く聞こえないんだ。それにまだ改造も必要だし…」
そう言って、まだ1発しか撃っていないのだが、屋敷に戻る事にした。
まず施条をしてなかった。
4条右回りで作成。
銃身周りを全て鋼鉄で成型し、穴を開けて放熱をしやすい形にした。
2脚を付けよう。
屋敷の工房で7日間で21挺を錬金で作り、空きの弾薬を110個作成。
これは分解組み立て実習に使う装填などの訓練用だ。
生前の私には、父の兄の子供、つまり従兄弟がいた。
私は高卒だったが、この人は大卒。
私はパソコンなんかが好きだったのだが、この人の趣味は多彩だった。
私が就職した後、東京に転勤になり、距離が近くになったので頻繁に連絡を取り合うようになり、色々な所へ連れて行ってもらった。
そして、この人が好きだったのが、38式歩兵銃であり、日本刀だったのだ。
このふたつに関しては決して譲らない頑固さと、情熱を持っていた。
だから38式歩兵銃に関してはモデルガンも持っていて、私も実際にこの銃に触れたことがある。
しかし、私は異世界ものの小説やアニメが好きだった。
エルフなどの亜人もいたんだけどね。
そして、自分がこの世界に来た時、私ができる事は…こんないびつな偏った知識。
女神さま、こんな私で本当に良かったんでしょうか、と心配してしまう。
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