第3話 加護持ち
今作は1話を約2000文字程度にしています。4000文字だと、途中で話が変わってしまって、サブタイトルと整合性がとれないことが多いため、2000文字程度にしてみました。
読みやすければ、いいんですけど…
王国歴 252年10月第1週
夜になって父と兄が戻ってきた。
階段を上がる2人分の足音がして、部屋に兄が入ってきた。
どうやら服を着替えるようだ。
壁から木製の出っ張りが出ていて、そこに服を吊るす。
「おかえり」と声を掛けると、クリフは
「起こしちゃったか…そろそろ晩ご飯の時間だから、下に行こう」
「うん」
私の意識はカールと一体化しつつあるようだ。
意識していなくても子供らしく振舞っている…。
目線の高さも歩幅もすごく自然に感じている。
5歳の子供にとって、この階段の一段は高すぎるので、壁に手をついて降りている。
途中、直角に曲がる場所は足場が広くて、なぜか『安全地帯』と呼んでいた。
着替え終わって階段を降りてくる父に挨拶をした。
「お父さん、おかえり」
「おー、カール。以前より元気になったみたいだなー」
そういえば、自分から元気に挨拶するような子ではなかった。
カール少年は母に似て、少し女の子のような顔で、人見知りするタイプだった。
兄は父に似て、平凡な容姿ながら元気いっぱい活発な性格だ。
(いかんいかん。早くも授けてもらった『コミュニケーション能力』が、カールのイメージを変えてしまっている…。違和感がないように無口でいよう。)
5歳毎の誕生日のお祝いは盛大に…とか思っていたのだが、少し肉が多めだっただけで、特に豪華な夕食ではなかった。
母が神官さんから聞いた私の診断結果と、その後の経過状況を父にも話していた。
その後
「鍛冶の加護をもらったよ」
と言ったら、父が驚いた表情で
「えっ! 加護を得たのか? すごいじゃないか!」
母も驚いた表情で
「鍛冶って事は、ケインお爺さんの血筋かな… そうだよね、カールは私に似てるから…」
ケインという名前を聞いて少し安心した顔をした父。
「わが家にもついに『加護持ち』が現れたか!」
兄「……」
つまり、この家には『加護持ち』がいないのだ。
母方の祖父ダグザは、このフェドラ町で武器屋を営んでいて、曾祖父のケインは鍛冶をしていたそうだ。
仕事で熟練の域に達するとステータスに『鍛冶』が生えてくるそうだが、それはどちらかというと『スキル』ではないのだろうか…?
私のようにハンマーを握る握力も、振るう腕力も無い者にも使えるのだとすれば『加護』と言える。
この際だから『鍛冶』がスキルであっても使えるように、まずは体力を付ける必要があるだろう…。
一方、発現こそしていないが『守りの戦闘能力』という潜在能力もあるらしい。
これは蛮族などから襲撃を受けた際に発現するらしいから、まさに『加護』といえるのだろう。
「明日にでもダグザお爺さんの所へ行きましょう。きっと跡取りが出来たって喜ぶわよー」
そういう母の肩に、父の手が乗せ引き寄せた。
「そうだな。これで母さんも気兼ねなく父さんの所に行けるな。」
「ええ。」
「本当にエルマには、苦労を掛けたな~。すまない。」
「何を言ってるのよ。私がビリーの所へ行きたいって家を出たのよ。貴方が謝る事じゃないわ。」
二人の話を聞いていると、何やら結婚に障害があったようだ。
『ふーん』という風に二人の顔を見ていたら、父が私の表情に気が付いたようだ。
父「何だ?」
「移民だから?」
と言うと、父は慌てて否定した。
「違う違う!ダグザさんはそんな差別をする人じゃない! なんと言うか…母さんは店の看板娘だったし、守備兵は地位は安定してるが、給料が安くて危険もあるからって、…俺は5歳の息子に何を説明してるんだろう。」
「ほんとね! あははは!」
(し、しまった!私も5歳だという事を忘れてた…)
私は兄の方を向いて
「父さんと母さん、ふたり仲良くていいね!」
と言って兄と笑いあった。
(これで兄にも不審がられないかな?)と、少し安堵しながら、このあと湯あみして寝た。
翌日は母に連れられて、中央広場の教会を越え、冒険者ギルドの更に南にあるダグザお爺さんの武器屋に来た。
ここまでおおよそ40分。
馬車が怖いので裏の小道を歩いたが、小さな店舗は大体この道沿いにあるようだ。
「こんにちはー」
店の奥からお爺さんが顔を出した。
「おおー エルマにカールか。久しぶりだな。どうした?」
「いま、時間はいいですか?」
そういって、母とダグザお爺さんが話し始めた。
そして私が『鍛冶』の加護を得たと聞いた時、ダグザお爺さんは座っていた椅子から『なに!』と言って、立ち上がってしまっていた。
そんなこんなで、無事に武器屋の跡取り候補になった。
お読み頂きありがとうございます。