第28話 膝蹴り
夜中、意識がもどりつつあった。その時、『うっ』
お腹が蹴られた事がはっきりとわかった。
ターニャに蹴られたのだ。
見ると私の方に体が向いていて、彼女の左足が私のお腹に乗っていた。
ゆっくりと左膝を彼女の右足の更に向こうに持っていく。
はーまさか、蹴られるとは思わなかった。
腹いせに…というか、いたずら心もあって、ネグリジェの上から、薄い丘を指先でなぞる…反応がない。
今後に期待って事か。
彼女とは反対の方向を向いて寝よう。
気が付けば朝。
若干、頭の冴えが鈍い気がする。
ベッドから出て顔を洗う。
ターニャが起きてきて
「おはようございます。」
と言ってきた。
私は歯を磨いているので、返事はしなかった。
歯磨きが終わり、ソファーに座って、時計を見ると7時10分。
正確に7時に目が覚めるのかな、この体。
ターニャも歯磨きが終わり、着替えている。
ターニャがお茶を持って来たそのタイミングで
「夜中にお腹を蹴られた。」
「えっ、申し訳ありません!カール様。」
「いや、いいけど、今夜から別に寝よう。」
「はい。すみませんでした。」
----- 『彼らの里』の長老 -----
既にデリンジャー・グランデ王太子の子は、2人の女子により、里に持ち帰られていた事もあり、そろそろ潮時だという判断で、アンジェラ姫をけしかけて『周辺隊』を引き上げる事になったのだが、ウィリアム・グランデ国王陛下からの申し出があり、急遽、庶民の世話をすることになった。
計画通り3名体制で、適当に王立学園卒業まで面倒を見て終わりにするはずが、調べてみると、一族に縁のある者で、かつ、とんでもない加護持ちであった。
王太子の2人の庶子を得た『彼ら』ではあるが、この加護持ちはとんでもない武器を作り、稼ぎ、王国を影から操れるほどの切れ者とのセバスの評価であった。
逆に、この者を失ったり、敵に回す事があれば、いかなる勢力であろうと未来はないだろうと言える。
そのため、本格的に『周辺隊』を組み、囲い込んでしまわねばならない。
『ラングリッジの加護持ち』などと、この里にもこの『姓』がもてはやされている。
だが我が3男の系譜は、極力、名を持たず、姓も持たず、影に徹してきたからこそ、長男一族を追い出せたのだ。
人前に出るなど愚の骨頂、出る杭は打たれるからだ。
情報によれば、宰相一族との勝負は五分五分。
あちらは政治力もあり女も上質らしいが年増。
対してこちらは若い女が多い。
最新の報告では『周辺隊』到着により、研究所に出仕せずに屋敷で仕事をしているらしい。
一歩リードという事か。
ところが宰相の手の者によるのか、侯爵の手配かは不明だが、我が方の若い女3人が姫の手下によって殺害されてしまった。
セバスからの連絡により、同じ年の男の子が欲しいと言う。
これなら貴族の女だろうと負けは無い。
「長老さま、伝言鳥が来ました。1つ、メイドが添い寝を断られたそうです。代替要員を。以上。」
『ちっ!』
こういう傑出した者ほど、気難しいものだ。
だが仕方ない。
3男の系譜は、能力が高くないからな。
「おい、誰か!」
「はい。何でございましょう」
「12、3歳くらいの色気のあるメイド技能習得者はおらんのか。」
「メイド技能習得者ですか…例の虚弱体質の子供しかおりませんが…」
「あー あの帝国貴族の庶子か…しかし、あの者はまだ幼かったであろう?」
「いえ、確か12歳になっております、小柄で色白なので幼く見えるのかと…」
「分かった。だが、子供ばかりでは王族側には勝つのは難しいであろう。」
「では、例の女に話してみましょうか。さすがに『加護を3つ持つ発明家』と言えば動きそうな気がしますが…」
「おお、それは良い考えだ。どうせここに居ても使い道の無い2人だ、送り出せ。」
「御意。」




