第24話 屋敷の者たち2
7時30分になり、朝食の準備が出来たとレナが言いに来た。
今ここにはセバスとジャックとレナしかいない。
なのに食卓に座るのは僕だけ。
こんな設定は嫌なのだ。
私は平民とか貴族とか言う理由じゃなく、みんなで朝食を頂こうと提案して、受け入れてもらった。
食事が終われば、裏庭を5周走って、腹筋と腕立て伏せを各30回。
それから木剣でジャックに相手をしてもらい、模擬戦をした。
10歳としては優秀との評価だが、やはり護衛は必須との事だった。
昼過ぎに里からの馬車がやってきた。
ジャックが入口を開けると、ずらりと人が並んでいた。
「この方達が『周辺隊』ですね?」
セバス「いえ、お世話係でございます。」
そう言って、セバスがジャックを睨む。
「ごめん。ジャックが悪いんじゃなくて、僕がいけないと言われた呼び方をしたんだ。許してあげてください。」
彼らを中に入れると、セバスが挨拶を開始させようとしたので、手で制して、
「面会の間でゆっくりと聞こう。」
そう言って、2階に上がった。
この面会の間は応接ソファーが斜めに向かい合い、中間にテーブルがあって、良く報道で外国からの要人と会談をしている、あんな部屋だ。
人数が多いので、私は座っているが、彼らは立っている。
セバスの『では』という合図で挨拶が始まった。
「メイドのターニャです」
「庭師のベルナーです」
「料理人のダグです」
「助手のハンナです」
「厩舎の世話係アンガスです」
「同じく厩舎の世話係ベルです」
「カールです。よろしくお願いします。」
「では、挨拶が終わった者は持ち場に行ってください。」
セバスがそう言うと、バラバラと6名が居なくなり、3名の女の子が残った。
「こちらは、今年、王立学園に編入する者で、カール様の1年先輩になるご学友です。」
紹介を受け、『カーテシー』とかいう挨拶をした。
「ソフィアと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
「この者も里の者です。急遽貴族と養子縁組をして入学試験をパスした者ですが、何分、1名しか試験に通らず、この者しか用意できませんでした。投擲と薬学に優れております。この者でもよろしいでしょうか?」
「分かりました。とりあえず、3人共、そちらのソファーに座ってください。」
「それで、ソフィアと私は、どのような関係という設定になっているのですか?」
「その事ですが、先日申し損ねました事実について、説明させて頂きます。」
そう言って、北の国のラングリッジ姓について話し始めた。
古文書によれば、この大陸は以前、全て島であったそうだ。
それが神の意思で大陸として一つにまとめられたらしい。
もちろん、ぴったりと形が合うはずもなく、無理に合わせて隆起し、山になった場所もあるし、逆に、地面が足りずに南の湖のようになった場所もある。
その証拠に人が越えられないほどの山でありながら、火口が無いのだ。
だから、不自然に湖の隣は砂漠だったりするし、東側は国境沿いに平野から、森林地帯に急激に変化している。
北の国境も同じ事情で、北方は突然森林地帯になり、中ほどは平野部、その北側は外洋となっているのだ。
そんな北の地域には、獣が多く、冬は降雪が多い厳しい地域であった。
一方、グランデ王国側は気候も温暖ではあったが、水源に乏しく、西方は外洋、南方は湖と砂漠、東側の森には凶暴な大型獣が生息していて、近づけない危険な地域であった。
しかし、中央平原を開拓しなければ、大きな発展は望めない。
そこで、国家という概念もない北の一族に、地下水脈を探し当てる『井戸掘り』の加護を有した者がいるとの話を伝え聞き、当時の王族が北の一族へ会いに行ったそうだ。
だが、その一族の長は既に無くなっており、里を受け継いだ長男、西に行った次男、東に行った3男の息子の代になっていた。
そして『加護』は誰が受け継いだのか、公表はされていなかった。
とにかく、水資源がほしいグランデ王国は、北の町に降り積もった雪を中央平原に運ぶと共に、井戸掘りの仕事を一族に依頼した。
しかし、グランデ王国との貿易に目を付けた3男が、長男が継いだ一族の里を襲撃したのは驚きだった。
それまで争いごとと無縁の生活だったのだ。
次男に救援を要請するも、到着までに占領されてしまう。
命からがらグランデ王国に逃げた長男の所に、次男が単身合流し、加護の力で開拓村で水脈を当てる。
これにより、グランデ王国は開拓を成功させ、村は発展し都市になったのだ。
一方、次男は役目を終え、怪我で動けなくなった長男の世話をグランデ国王に願い出て、自分自身は国境のフェドラ町経由で西の村へ帰っていったのだった。
北の一族の3男からは、度々、水を売りに来たのだが、その横柄な態度と、長男一族の行方を捜し出そうとする動きを察知し、3男一族との交易を禁止したのだった。
長男一族はそれから、国王のためにと尽力するようになった。
グランデ王国の王族は、独立した次男の姓が『ラングリッジ』であるとは聞いていたが、実際にはフェドラ町の北側は中型獣や大型獣が多く出没する地域であり、とても交易できる道は無かったのだ。
そんな次男一族がスタンビートに合って町ごと破壊されたと聞いていたのだが、今、その系譜が蘇るチャンスが出て来た。
セバスは言う。
ラングリッジ家は自分達の親戚でもあり、王都に逃れた者達の命の恩人なのだ。
だからグランデ王国の王族から依頼されなくても、仕えるのは当然なのだと。
「この事を前提に、ソフィアは遠い親戚筋にあたる人物で、過去にカール様の先祖に恩が有る。という設定です。」
「なるほど。嘘は少しの真実と共に…という事だね。でもそれは、その時にいた次男のラングリッジが長男を慕っていたからじゃないかな。どちらにしても僕たちは親戚だね、間違いなく。」
「で、残りの2人は?」
「今年、王立学園に入学する許可が出ております里の者で、ご学友候補です。」
「オリビアと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
「デイジーと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
「この二人のうち、選ばれた者は、屋敷の令嬢として。選ばれなかった者は里に帰されます。」
「なるほど。それで、わがまま姫の手下はどういう攻撃手段を持ってるのかな?」
既に調べたらしいジャック。
「判明してるところでは、全員武闘派、脳筋みたいですぜ。」
「オリビア、デイジー。二人の得意技は?」
ふたりは即答できるレベルではないらしい。
「今日以降、確かめます。オリビアとデイジーは、どのように選ばれるおつもりですか?」
「相手をしている暇がないので…そうですねー戦ってもらいましょう。3人で。」
「えーーー!」
セバス、レナ、ジャックの3人から思わず声が出た。。
「いや、命の危険があるなら、その覚悟が無いと逆に危険だよ?」
お読みいただき、ありがとうございます。




