第22話 私の護衛部隊2
「では、私なりの誓いの儀式を」
そう言って、げんこつを掲げ、お互いのげんこつを合わせて『互いに繁栄を!』という儀式を、思いつきで、3人とおこなった。
「ところで、この屋敷に風呂ってありますか?」
「ございます。お風呂になさいますか?それとも、お食事になさいますか?」
「あー 、そのセリフ大好きです。」
この屋敷に来て食欲が湧いてきた。
やはり、匂いが大切なんだ。
「うわー 肉だ!」
出て来た料理は、サイコロステーキだった。
何やらソースも掛かっている。
王族恐るべし!こんな物を食べていたのか!
「ところでご主人様、何とお呼びすれば良いでしょうか。」
「そうですね、『カール様』がいいかな。事実として王族に雇用されて僕の面倒を見ているんだし。」
「ただ、私の中には女神に授かった知識の部分と、本来の10歳の部分の二つが混在していて、知識が出ている時には『私』といい、10歳の自我が出ている時には『僕』という言葉が自然と出るので、慣れるまでは二重人格者と思うだろうね。」
「確かに、二重人格と言えなくもないけど、そこは問題じゃない。僕は所詮10歳。下に見られても傷つく事はないけど、女神の知識を侮ったように解釈されると、何が起きるか想像できないから、それだけは避けてほしい。」
「これは『彼ら』で共有しておいてほしい。」
「はい。承知しました。」
「美味しかった!ごちそうさま!」
そんな私の言葉は、メイド役のレナの興味を引いたようで
「その『ごちそうさま』って、なんですか?」
胸元が開いた服で屈み姿勢にならないで!と思いながら、
「美味しく食事ができた事を、神や貴方達や食材に感謝する言葉だね」
と、冷静に答える。
今度は食後の紅茶を、私の横から置いてくれた。
「このあと、屋敷の中を案内してほしいんだけど、希望としては、作戦室と工房、化学調合室がほしい。それと資材倉庫だね。」
「全て用意できております。」
「さすが! 事前調査は完璧みたいだね。ジャックありがとう。」
ジャックは、『何故わかる?』という顔をしているが、
「3人の中で足音を消して歩くのはジャックだけ。情報収集の役目なんでしょ?」
「はい。恐れ入ります。」
「いま、資材倉庫は空だよね?」
「はい。左様です。」
「では、案内してもらえますか?」
セバスが先頭に、私の横にはレナが、後ろにジャックが付いている。
そしてお互いの距離が適切になったのだろう、レナが私と手をつなぐ。
「完璧だなー」
3人とも笑顔になった。
だが、ここで衝撃発言があった。
「来週には、お友達が来ますから、私はそれまでの代役です。」
「えっ、どういう事?」
「私はカール様のお世話係ですから、お慰めするのは当然の事です。ですが、人様の前でメイドがこのような事をすると、ご主人様の評判に傷が付きます。」
「私が強要しているように見えると?」
「はい。ですから人様の前では、お友達役の女性がカール様の寂しさをお慰めするのです。」
「お友達とは、私よりも年齢が下の女の子かな?」
「それが一般的なのでしょうね。ですがそれでは、一緒に王立学園には通えない。」
「つまり、今年夏までに10歳になる女の子、という事ですか…」
今度はセバスが
「まー、来週に面接がありますから、その話はそこまでに…」
「面接まで…大がかりなんだな…。」
「おや、カール様も聞いておられるでしょう。わがまま姫の手下が王立学園に多数おりますから、こちらとしても味方の数はそれなりに揃えねばなりません。」
「えっ!…」
足が止まってしまった。
レナに手を引かれ、再起動する。
「まさかカール様とあろうお方が、王立学園で青春を謳歌しようと甘い夢を見ておられたのですか?」
「だから言ったじゃねーか。カール様は俺たちとおんなじ庶民なんだから、貴族の事なんぞ、全く分かってねーって。」
「あちゃー 可哀想なカール様。私がなぐさめてあげるからね!」
嬉しいやら、悲しいやら分からない。
屋敷の横、厩舎に最も近い位置に資材倉庫がある。
ここなら、荷馬車からすぐに荷物を下ろしたり、乗せたりできるベストポジションだ。
隣が工房、その隣が化学調合室か。
屋敷の2階の一部屋が作戦室になっていた。
どの部屋も自宅と研究所の実物を見たのだろうという事がうかがえる。
特に面白いのは、作戦室の立体図が無い事だ。
土魔法が無いと同じにはできないので、図が書いてあった。
裏庭に出て、少し遠い所から土魔法でゴーレムを作り出す。
そして、厩舎側の広い扉から入れるように、背を低く、幅のある体に変形して資材倉庫へ。
ここで一旦土に戻して、人間サイズのゴーレムを5体作り直し、中央階段を上って、作戦室で土に戻す。
「はあー、少し休憩。レナ!紅茶を入れて!」
「カール様すごい!こんな土の運び方があるんですね。 はい。紅茶です。」
「ありがとう。そうだね、鉱山から採掘した鉱石類を人間が運んでいるけど、ゴーレム魔法ができれば、掘りだした鉱石もろとも土のゴーレムにして、自分で所定の場所まで歩かせるのが、正しいゴーレム魔法の使い方だと思う。」
「カール様の発想は、独特で面白いですなー」
「でも、魔法を考え始めると止まらなくなるので、そこが悩ましいところですね。」
そう言って、ゴーレムだった土に手を当て、立体図を思い出しながらイメージを固めていく。
まー大体だな。また今度メモしてこよう。
「ジャック、悪いけど武器屋までの走り込み、付き合ってくれないかな。」
「了解です。資材を運ぶのはどうします?まさかここまでゴーレムに走らせるのは不味いですよ。」
「まーね。転がせばいいんじゃないかな…」
そう言って武器屋の資材置き場で鉄箱を作り、中に土ごと鉱石類を放り込んで蓋をする。
更に、この鉄箱を球体に変えて、屋敷まで転がす。
『ゴロゴロゴロゴロ』
万一、人にでもぶつかったら大変なので、歩く速度で転がして、屋敷へ到着。
資材倉庫で鉄球は、インゴットに変更して、今日は終了した。
魔力も結構使ったけど、とにかく疲労感がひどい。
自分の部屋に行って、夕食まで少し横になりたかった。
剣をベルトごと外して、ベッドに横になる。程良い硬さだ…。
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