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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第1章 カルバン王国
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第20話 硝酸アンモニウム


「次は情報部です。シンシア少佐。この地図を我が国に敵意を持つ国が持っていたら…怖いですよね?まさか…と思いたいですけど、現実には冒険者が自由に来ていますよね…」


「あっ! そうですね…。」


「南から突然兵士がやってきました。でも本当に突然だったんでしょうか…そして、もうあんな事は起こらないんですかね…そう考えて、逆にこちらから冒険者を送り込んで情報を取る。そんな用心深さが国民を守る事になります。情報こそが最重要なのです。」


「まず、情報部は冒険者ギルドの登録情報をもらう交渉をして下さい。同じ水晶端末があれば、どこの国からどんな人が来ているか分かるはずです。もし国の情報が無いならギルドにどこの国の出身か、登録を厳密にするように要求して下さい。」


「この要求をシンシアさんが難しいならば、宰相に交渉をお願いしましょう。次は、自国民の情報です。基本的に税金に関する情報を国は持っているはずです。これらの情報は慌てる事はありません。ゆっくり、こっそりやっていきましょう。」


「他国の情報を教えてくれそうな商人など、スパイとして雇う場合には、私ではなく宰相に相談してくださいね。」



私の担当する研究所の化学合成部隊だが、土魔法の得意な上位10名を採用して、銀粒を練り練りしたり、鋳鉄剣を鍛鉄剣に改造する仕事で練度をあげてもらっている。


私の推測だが、金属を魔法によって練り練りしているのは、分子が電子を共有する事で結合しているその電気的な力を、魔力によって阻害し、結合力を弱めているのだろうか?などと考えている。


ま~最も理屈は分からなくても、柔らかくなるのだからいいんだけど…


もちろん誰にもそんな化学の話はしないけれど、自分で魔法プラントの環境作りだけはやらなければならない。


まずハーバーボッシュ法だが、空気中の窒素N2の電気結合を解いて、水素H2と結合させる反応だ。


水素が必要なのだが、ここですぐにH2Oが頭に浮かぶ。

そこで魔力を良く通すと言われる銀を使って寸胴のような容器を作り、中央には火鍋のように仕切り板を上部だけだが付けてある。


この容器の左右に手を当て、右手から左手に魔力を流す。

すると、魔力が電子のようにイオンとして働くのか、左右の壁面から気泡が発生していた。

調べると右手側に水素、左手側に酸素が発生しているようだ。


水素は軽いので一旦、大きな皮袋に集めておく。


これを密閉できる銀容器に管で接続し、空気と共に入れて、再び、魔力を入れると窒素N2の分子結合が解けて、水素3H2と結合し、アンモニアガス2NH3になる。


更にこのアンモニアを次の銀容器で酸素と反応させて、4NH3+5O2 → 4NO 一酸化窒素を作り、更に銀容器で水と反応させて 3NO2+H2O → HNO3+NO 硝酸が作られる。


最後は、この硝酸をアンモニアと反応させると硝酸アンモニア(窒素肥料)が出来上がるのだ。


ここまでの工程で、ちょうど5個の銀容器を使って魔力反応させている。


これが1班5人体制の意味だ。

出来上がった硝酸アンモニアは湿気を吸いやすいので、密閉容器に入れて保管している。


彼女達は魔術さえ使える加護持ちなのだが、今までろくに訓練していない彼女達の魔力量はさほど多くないため、交代勤務でも、4時までには魔力は尽きてしまう。


それでも窒素肥料が作れるようになったのだから、大した業績だ。



2か月後、試験農園で種撒きの時期が来た。

農業試験は長期的な事業だ。


今回の魔力反応で再現した『ハーバーボッシュ法』は、前世では『20世紀以降の急激な人口増加の要因になった』と言われたほどで、小麦を中心とするこの王都周辺の試験農場で、作柄が大幅によくなったのは、半年後の収穫時だった。





王国歴 258年4月第1週


10歳の誕生日を迎えて半年。

王立学園の入学試験の時期が来ていた。

春に試験を受けて、入学は夏かららしい。


しかし私は既に宰相の執務室で試験を受けている。

入学金やら授業料は宰相が軍の予算で払ってくれるらしい。

読み書き、金額計算、歴史など、サマンサさんから頂いた教科書の内容に変わりは無く、入学する意味はあるのだろうか?



最近は、王国軍施設に近い武器屋の2階で暮らしている。

兵達は砦建設や拠点建設で方面軍の地区に移動してしまって、残っているのはわずかな人数なのだ。


魔術師は参謀部付きが10名居るのだが、各国境地帯の地図作成と、セメントを使っての拠点建設の応援に出ている。


私は今年から各方面軍に小隊規模の魔術師を配備する案を提案したが、指揮官(小隊長)がいないと指揮系統で問題が発生する可能性が高い。


だが、魔術師については全員経験が浅く、階級制を採用したとしても士長にさえできないだろう。

人材がいないのは前世同様、管理職としてはつらい事だ。


そんな事もあって、デリンジャー大将は魔術師については大幅に人員増を考えているらしい。


半年経った現在、肥料は大量に在庫があるので、2日に1日が肥料作成。


もう1日が銀粒練り練りの訓練から鉛を取り出している。

必ず5人一組で作業をしているため、気絶者が出ても問題ないのだが、若い女性がよだれを出して作業机に突っ伏しているのは頂けない。



自分の工房で、密かに硝酸と硫酸と脱脂綿からニトロセルロースを作り、エタノールとエーテルを加えて、無煙火薬を作っている。


配合など全くの手探りなのだが、危険な作業だし、化学合成部隊にはまだ兵器に関わる覚悟はないだろうという判断なのだ。



実験の毎日の中で、参謀部へ顔を出して立体図の完成度を時々見ている。


デリンジャー大将をはじめとするメンバー全員の関心が高く、大将が1週間に一度は王宮から参謀部へやって来る。


徐々に立体的な地図が出来て、方面軍の砦、拠点が地図に作られていく。


それでも、全ての拠点が完成するまで、あと1年は掛かるだろう。


守備隊の鋳鉄剣がなくなり、全て鍛鉄剣に置き換わった。


武器屋の収入は金貨62080枚になっていた。



お読みいただき、ありがとうございます。

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